2022年05月09日 (月)満喫! 但馬の山の春 ~朝来市和田山町・床尾(とこのお)山系~
昨年度末、「兵庫山歩道」の総集編を制作するなかで、
ふと気づいたことがありました。
「なんだか神戸市内が多いな?」
10月の特集番組(養父市の氷ノ山)を除けば、
神戸、加西、神戸、西宮、神戸、神戸、丹波・丹波篠山。
7回中、4回が神戸市内!
そこで…
「今年度こそは『兵庫五国』を広く訪ねよう!」と、
まずは北部を候補に検討開始。
ご案内役・羽田宗子さんとの相談の結果、
朝来市和田山町の「床尾(とこのお)山系」に決定しました。
場所は和田山の中心市街地から北東、「竹ノ内」集落のもう少し先。
付近で一番の目印になるのは、今回、ゴール地点に設定した
国指定天然記念物の巨樹、「糸井の大カツラ」でしょう。
ただ、下調べの中で少々気になったことがありました。
過去のクマの目撃談です。
実際、「当地域はツキノワグマの生息地域です」という看板を
今回の道中でも目にしました。
熊鈴を用意し、これまでよりいくぶん緊張感を抱えつつ
西床尾山の登山口に着いてみると。
「『やまぶき色』の、ヤマブキですよ」と、羽田さん。
早速出会った春の色彩に、少しだけ心が和らぎました。
それでも、ややきつめのコースだと聞いてもいたので
覚悟しながら森に入っていったのですが...
これがまた、美しい水辺の風景の連続!
木漏れ日に浮かび上がる新緑!
足元には「ミヤマカタバミ」。
街なかで年中黄色い花を咲かせている印象の、
あのカタバミの仲間とはにわかに信じられません。
「あ、マムシグサが出てますよ!」
羽田さんが指さした先に、ありました!
写真で見たことはありましたが、実物は初めて。
名前の通り、茎の模様がマムシのようです。
細長い「仏炎苞(ぶつえんほう)」もユニーク。
しゃがみ込んで、しばし見入りました。
こうした行動が後々どんな結果を招くのか、
このときはまだ知りもせずに...。
終わりかけではありましたが、ミツマタも見られました。
3月放送の「金山」で見たのはまだ固いつぼみでしたが、
あのときの念願を果たせたようで、嬉しくなりました。
...こんなふうに、滑りやすい沢沿いに気を使いながらも、
春の植物をいろいろ見つけて楽しく歩いていた時。
ふと感じたのです。
左手首、親指の付け根あたりに、
「ぺちょっ」という、冷たい感触が走ったのを。
「うおわっ!!」
我ながらとんでもなく素早く払いのけていました。
「これが話に聞く『ヤマビル』か!」
と、合点したのはそのあとのことです。
(字で見るのもおぞましいので、以下「Y」と略します)
なにせ一瞬のことでしたし、
写真を撮るなどという発想は微塵もありませんでした。
幸い、今回は血を吸われる前でしたが、
吸われるとYはなかなか肌から離れず、
離しても今度は血が止まりにくいんだとか。なんとも厄介です。
私が声を上げたので、羽田さんもご自身をチェック。
やっぱり、靴に一匹ついていました。
以前、民放の某・有名探偵番組で、
「Yは下からはい上がってくる!」
という実験を見たのを思い出しました。
つまり今回も、私の足元に取りつき、
脚~胴をシャクトリムシのようにはい上がり、
今度は長袖の腕をず~っと下がって、ようやく、
肌が露出していた手首に「ぺちょっ」と出た、と...。
そんな長時間くっつかれていたなんて、
それだけでぞっとしますが、
思い返せば、Yが生息しやすい湿った沢沿いで、
植物をいろいろ見ながら長いことしゃがんでいたわけです。
これはひとえにYから見れば
「この人、『さあ、おいで!』って言ってくれてる❤」
ってなものだったのでしょう。
クマへの用心から、
上の方にばかり注意を払っていたのですが、
これ以降、やたら足元も気になるように。
やはりその後も一匹を右ひざ付近で発見、撃退しました。
なんだかYのことばかりで申し訳ありません。
これも「人生初遭遇」だったからなのですが、
さすがにこの辺でやめておきます。
これからの季節、忌避剤を使うなど、
皆様もどうぞ対策をお忘れなく!
雪の影響でしょうか、幹から落ちてしまっていますが、
北西~西へ進んでいたルートが南に変わる地点の表示です。
沢から離れ、杉林の中へと進んでいきますが...
こんな傾斜がず~っと続くのです!
標高600mから山頂の843mまで、怒涛(どとう)の登り。
それでも、脚が棒にとまではならないところに
我ながらこの1年半の成長(笑)を感じはしますが、
さすがに足取りは極めて重いものに。
わかりにくいかもしれませんが、
写真中央に白く見えるのは雪渓です!
こうした風景にも励まされながら登り続け...
ひいひい言いながらも西床尾山の山頂に到着。
古びた山名の標識は、倒木に押されて傾いていました。
いまひとつピントを合わせきれませんでしたが、
方角からすると、冠雪した氷ノ山かと思われます。
去年10月の特番の時は山頂からの視界ゼロでしたが、
東床尾山への尾根道沿いでは
さすがに桜の盛りは過ぎていたようですが、
代わりにといっては失礼なくらい、こちらが満開でした。
緑のグラデーションに、少しだけ残った桜色もよいもの。
これぞ春の山といった感じで、
きつい思いをして登ったことが報われる一瞬です。
こちら東床尾山の山頂は、文字通り360度のパノラマ。
そして、手前に見える白い円盤が優れモノでした。
周辺の地名や山の情報が豊富かつ明瞭で、
ここに記された方角を見れば、ちゃんと見つかるのです。
氷ノ山がここからも確認できましたし
(西床尾山から見るよりもさらに霞んでいましたが)、
北東の方角になる天橋立も
「あ、あそこか!」と感じることができました。
マニアも多いといわれる「一等三角點(=点)」。
今季初めて見たキアゲハとも戯れて、春・実感です。
下りもしばらくは急こう配!
そういえば、この床尾山系。
こうした目印が随所にあって、道しるべになっています。
下山途中、こんな場所がありました。
本能的に尾根を真っすぐ下りたくなる地形ですが、
羽田さんの後方に写っている木の幹を見ると。
直進ではなく右へ入るよう、二重に示されています。
ここを下ると登山道は沢沿いになり、
こう配もやや緩くなって、ぐんと歩きやすくなりました。
下山後に伺ったところ、
地元・竹ノ内集落の藤原さんという方が
ボランティアでこうした整備をされているそうです。
放送ではご紹介しませんでしたが、東床尾山にも精錬所跡。
そして、逆光もあって全貌がわかりにくいのですが、
谷の向こうに巨大な桜の木が現れました!
「助右衛門大桜」です。
高さ15~20mほど? 枝張りはもっとありそうです。
(左右とも、杉の木に隠れてしまっている部分があります!)
すでに若葉がたくさん出ていましたが、
まだ残る桜色と若葉色が逆光に映えて、
それはもう「見事」のひとこと!
歩き出してからも何度も振り返ってしまうほどでした。
さらに、今回のゴール地点にはこの巨樹。
国の天然記念物、「糸井の大カツラ」です。
現地の案内板によれば、
高さ35m、枝張りは東西30m、南北31m。
さらに、なんといっても目をひくのは幹の姿で、
このようになっています!
一説には樹齢2000年。おおもとの幹は枯れていますが、
その周りをぐるりと囲むように育った「ひこばえ」が約80本!
巻かれたしめ縄が人の背丈よりも上、といえば、
そのスケールを感じていただけるでしょうか。
(保護のため、幹には近づけません)
大カツラの脇では山桜が散り始めていて、
足元は緑とピンクのモザイク模様。
「写真は引き算(=テーマを絞って!)」とはいわれますが、
大カツラも、まだ咲く桜も、花びらのじゅうたんも! と、
全てを「足し算」せずにはいられない光景が広がっていたのです。
欲張った結果、やはり写真はこんな感じにしかなりませんでしたが、
記憶の中にはあの美しい光景が鮮明に残っています。
そして、この最後のカットが、
まさに今回訪ねた床尾山系を象徴していた気がします。
そこにある自然そのものが本当に魅力的で、
それはおそらく写真や動画では伝わりきらず、
現地に立ってこそ実感できるものだろうと思うのです。
これからの時期、「山シャクヤク」も見事だそうですし、
これだけ新緑が美しいとなれば、秋の紅葉も素晴らしいでしょう。
ただ、冒頭で記した通りクマの生息域ですから、
単独行は避けた方が安心です。
急な傾斜と沢沿いの道が大半なだけに、
スニーカー程度の足元で山に入るのも明らかにNG。
装備を十分整えて(そうです、Y忌避剤も忘れずに!)、
床尾山系の自然をぜひ味わってみてください!!
投稿者:田中 崇裕 | 投稿時間:18:00