2022年03月07日 (月)鬼と妖精に出会う山!? ~丹波市/丹波篠山市・金山~
いきなり番組のご案内となりますが、今月12日(土)、
NHK神戸放送局では「たっぷり! 丹波エリア」と題して、
この地域の番組をどーんと放送。
夜8時15分からは生放送のスペシャル番組もお送りします。
それに合わせて、
「兵庫山歩道」でも丹波エリアを訪ねることにしました。
選んだ先は「金山(きんざん)」。
丹波市と丹波篠山市にまたがる位置にあります。
登山ルートはいくつかあるのですが、今回はこちら。
神戸市内の山城跡を訪ねた先月に続き、
スタート早々に見どころがやってきます。
「明治・昭和・平成のトンネル勢揃い」です。
「鐘ケ坂峠」と呼ばれ、古くから難所だったこの地には、
明治時代に初めてトンネルが開通。
その後のクルマ社会の到来・進化に伴い、
昭和、平成と二度にわたってトンネルが付け替えられました。
既に通れないものもありますが、
峠のほぼ同じ場所に三世代のトンネルが揃うという
なかなかに珍しい場所なのです!
最初に遭遇するのは、唯一の現役、平成のトンネル。
国道176号線の「新鐘ケ坂トンネル」、長さ1012mです。
丹波篠山市側から丹波市側に抜けるとすぐ右手に、
今回のスタート地点となる「鐘ケ坂公園」があります。
公園の中を少し移動して、平成のトンネルと金山を
一緒に写真に収めてみました。
中央下寄りに、青と黄色の表示板や、坑口。
そして左上、日が当たっているのが金山の山頂付近です。
すっかり苔(こけ)むした公園の石碑と桜の木。
その奥に見える道を登っていきます。
路面はすぐにこのように。
あまり人が通っていないのでしょうか・・・。
まず現れたのは、「新」のつかない「鐘ケ坂トンネル」。
昭和42(1967)年から平成17(2005)年まで使われました。
厳重に封鎖された先に、丹波篠山市側の光が見えています。
残すはいよいよ本丸=明治のトンネルのみ!
(あれ? 先月の気分を引きずりすぎでしょうか??)
大きく迂回しながら進むうちに、じわじわ高度が上がります。
道端にはわずかに雪も残っていました。
そして、見えてきました!
ひっそり、ぽっかり。
明治のトンネル、「鐘ケ坂隧道(ずいどう)」です!
明治16(1883)年の完成で、長さは268m。
時代をさかのぼるたびにトンネルの全長が短くなり、
そのぶん、標高が高くなっていく・・・ というのは、
山の形を考えれば当然かもしれませんが、面白いところです。
通り抜けはできませんが、内部の見学は可能です。
レンガのトンネルということで連想したのが、
おととし12月放送の「旧福知山線廃線跡」。
あのSLの煤煙で汚れた様子も味わいがありましたが、
こちらは想像以上に美しいレンガ色が残っていました。
(現地は無灯火ですので、フラッシュ使用です)
タイトルに入れた「鬼」も「妖精」もいっこうに出ないのに、
文字数ばかりかさむ一方! 少しペースを上げましょう。
さきほど通った場所まで少し戻ったあと、
いよいよ金山へと入っていきます。
この表示が目印です。(やっと「鬼」が出てきました!)
沢沿いにほぼ真っすぐ続く登りはなかなかのもの。
ついつい目線を落として足元ばかり気にしてしまい、
垂れ下がる枝に頭をぶつけるなんていうこともしばしば。
そんな中、なにやら視界に入るものがありました。
ミツマタです!!
実物を見たのは初めてでしたが、形ですぐに分かりました。
細かい羽毛が光るつぼみはまだだいぶ堅そう。
枝をたどると、名前の通りきれいに三つずつに分かれています。
思った以上の群落になっていたのでまたびっくり。
やはり、周りをよく見て登らないといけませんね!
決して「大群落」ではないのかもしれませんが、
開花したら、この一帯が黄色く染まるんでしょうね・・・。
いや~、見てみたい!
登山道の真ん中に、それなりに大きな岩。
地元の鬼伝説にからめた手づくりの解説が添えられていて、
愛されている山だということがうかがえます。
この岩が出てくると、山頂まではあと少し。
そしてほどなく・・・
奇岩「鬼の架け橋」が目の前に!
それにしてもうまいバランスで止まったもので、
「大江山の鬼の仕業」という民話が生まれたのもうなずけます。
「鐘ケ坂峠」という地名の由来にも、
この辺りを荒らしていた鬼を退散させるために、
鬼の嫌う音を出す梵鐘を置いたからという伝承があるとか。
そして、江戸時代の浮世絵師・歌川広重も、
この岩を含む鐘ケ坂峠を描いた作品を残しているそうです。
青空のもと山々が連なり、中にはまだ雪の残る山も。
遠くだけを見ればまさに絶景なのですが、
足元は一気に切れ落ちる断崖! 私の最も苦手なパターンでした。
少し登ると山頂ですが、なんと今回も城跡。
先月ご紹介した神戸市内の山城、「端谷城」と、
ここ「金山城」の時代背景はほぼ同時といえるほど近く、
織田信長の命を受けた明智光秀の「丹波攻め」に登場します。
この城が相対していたのは・・・
南東側(多紀郡;丹波篠山)、波多野氏の居城・八上城と、
北西側(氷上郡;丹波)、赤井氏の居城・黒井城。
両者の連携を絶つためだったそうです。なるほど・・・。
地元の方に教えていただいて、場所もはっきり認識できました。
この日は晴れて風もなく、
ぽかぽかと暖かな陽射しは文字通り春のもの。
冬から春へ、私のスイッチはここでパチンと切り替わりました!
さて、下山はかなり直線的なルートをとり、
50分足らずで丹波篠山市側の登山口に下りてきました。
ここからさらに南下して・・・
大山宮地区の「追手(おって)神社」まで来ました。
このあたりに「妖精」がいるはずなのです!
まだ寒さの残るこの時期にいち早く開花し、
夏ごろまで葉を茂らせるものの、
その後、地上の部分がすっかり枯れて姿を消す。
ただ、地下では根が健在で、
冬を越すとまたひょっこり顔を出して花が咲く・・・
こうした生態から「春の妖精」とか、
「スプリング・エフェメラル(=短命、はかないという意味)」
などと呼ばれる、とても魅力的な植物たち。
タイトルに挙げたもうひとつのワード、「妖精」です。
追手神社の境内や、南東へ続く山裾には
早春に花を咲かせる山野草の自生地があり、
地域の方々による保全活動が行われています。
ただ、今シーズンは寒さや雪の影響を受けてか、
開花が例年より遅いという声があちこちから聞かれます。
さらに、妖精たちはお日さまに当たらないと花を開かず、
雨の日などは閉じたままだということなのです。
この地区では、セツブンソウやユキワリイチゲ、アズマイチゲなど
何種もの妖精たちが自生するというのですが、
果たして出会えるでしょうか!?
こちらはアズマイチゲの自生地。
「あ! あった!!」と羽田さん。
あと少しで開花という一輪を発見!
ユキワリイチゲの自生地でも、
「あ~、咲いてますよ!」と、羽田さん。
同じ場所を探しているのに、私には全く見つかりません。
山野草にお詳しい羽田さん、さすがです!
〇で囲んだ中に、開花した花やつぼみが見られます。
実のところ、この群落は少々奥の方にあったので、
これほど多くつぼみがあったことも、
開きかけの一輪からきれいな薄紫色がのぞいていたことも、
肉眼では分からず、写真で初めて気づきました・・・。
このロケを行った2月末時点では、見頃には少し早かったようです。
それでも「春の妖精」に初めて会えた嬉しさは大きく、
ぽかぽか陽気とあわせ、実にほっこりした気持ちで
「鬼と妖精に出会えた、春の山」を後にしたのでした。
「兵庫山歩道」、今年度のロケは今回が最終です。
ご覧いただき、ありがとうございました。
秋の特集番組で登った氷ノ山を含め、歩いた山域は8つ。
四季の変化も肌身で感じながら、大いに楽しめました。
それも黒田信男さん、羽田宗子さんという、
山をよく知る素晴らしいお師匠様の存在があればこそです。
ただ、雪が多かったこの冬、
氷ノ山では遭難で、1人が亡くなりました。
季節が違い、条件も大きく異なるのは言うまでもありませんが、
自分も登った山で起きた遭難の情報は、切実に胸に迫ってきました。
どんな山へも畏れを決して忘れず、
装備を整えて向かわなければ・・・ と、思いを新たにしました。
来年度も「兵庫山歩道」は継続します。
これまで同様、楽しく役に立つコーナーを目指していきますので、
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
投稿者:田中 崇裕 | 投稿時間:18:30