2021年07月05日 (月)最高峰への道 その3 ~「神戸の秘境」で仕上げ~


「LiveLoveひょうご」でおおむね月1回お送りしている「兵庫山歩道」。

ことし上半期は「最高峰への道」と題して、

この秋、県内最高峰・養父市の氷ノ山に登るための

トレーニングを兼ねた内容となっています。

6月は放送がなかったので、今回がその“最終回”。

そして、兵庫県山岳連盟副会長・黒田信男さんによると、

行先はなんと「神戸の秘境」とのこと!

 

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さて、いったいどこでしょう?

 

正解は「イヤガ谷」。

「伊屋ヶ谷」と表記されることもあるそうですが、

神戸市北区の星和台付近を水源に、高尾山と菊水山の間を南へ流れ下り、

兵庫区の烏原貯水池まで続く渓谷です。

・・・が、その存在自体、私は全く知りませんでした。

 

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今回はご覧の場所を時計回りに歩きましたが、

ルートを表示せず、おおまかな位置関係のみにとどめました。

その理由は、

 

●「イヤガ谷」は、正式なルートとしては大抵のマップに載っていない

 (一般的なのは「イヤガ谷東尾根」という、別の登山道です)

●登山道として整備されていないルートが、ほかにも多く含まれる  ためです。

 

ただ、ネットを検索すれば似た行程の記事が複数ヒットするのも事実で、

まったくの人跡未踏の地というわけではありません。

ですが、最近主流の便利なスマホアプリを使ったとしても、

現在地の把握こそできますが、進むべきルートまでは示してもらえません。

地図と現場の地形とを見比べ、考え、

正解のルートを自ら探し出していく必要があるのです。

 

その点、私たちのブレーンである黒田さんにとっては、

ここは何度も歩いて熟知しているルートです。

トレーニング強度、安全性、見どころといった要素に加えて、

地図から情報を読み取る「読図(どくず)」の基礎も私に伝えておこうと、

「氷ノ山前の総仕上げ」に、ここを選択したそうです。

現地をよく知るエキスパートと一緒に、十分な装備で臨むのであれば、

変化に富んだ「神戸の秘境」を十二分に味わうことができるでしょう。

 

とはいえ、これも黒田さんが常々おっしゃる言葉なのですが、

「リーダーを信じてついていくだけではいけない!」というのも忘れてはいけません。

人は間違うものです。高い山に限らず、低い山でも「道迷い」は発生します。

多少の遠回りや薮漕ぎですめばまだよい方ですが、

ケガをしたり、命にかかわる事態に至ったりする可能性もあります。

自身でも考え、感覚を研ぎ澄まし、ルートを探ることの大事さを、

改めて肝に銘じたのでした。

(決して、今回「痛い目」にあったからではありません! 念のため。)

 

前置きがたいへん長くなってしまいましたが、

こうした点を念頭に置いてお読みいただければ幸いです。

 

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前日の雨から一転、梅雨の晴れ間のまぶしい日差し。

神戸電鉄の鵯越(ひよどりごえ)駅が「イヤガ谷」へのスタート地点です。

 

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駅舎とは線路をはさんで反対側に「ハイキング道案内図」がありました。

「イヤガ谷東尾根」と記されているのは、前述した通り、整備された別の登山道。

私たちは「イヤガ谷川」そのものに沿って北上します。

やっぱり、この地図にも道は載っていませんね。

 

210705_5.jpg少々わかりにくい写真で申し訳ありませんが、

初めのうちは流れがずいぶん下に見えています。

 

徐々に河原に近づいてゆくと、足元には・・・

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あちこちに「テイカカズラ」が散っていました。

プロペラか手裏剣のようにねじれた花びらが特徴的で、覚えやすい花です。

 

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川沿いに踏み跡らしきものが現れては消え、所々にこうした橋も現れます。

流れを右に左に縫うように北上しました。

 

さて、ここからしばらくは、放送では未公開のシーンとなります!

こちらはイヤガ谷川に支流が交わるあたり。

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「大正十三年四月」と読める石碑や、

役行者(えんのぎょうじゃ)らしき石像を発見。

 

さらに支流をさかのぼって進むと・・・

 

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小さな鳥居と、緩やかに流れ落ちる滝がありました。

苔(こけ)むした岩肌には「大聖不動明王」の文字が彫られ、

かつて修験者たちが滝に打たれた行場だということがわかります。

 

上流部が宅地開発された今、

流れる水は時に泡立ち、岸にはプラスチックごみも目について、

もはや滝に打たれるような水質でないのは、残念ながら明らかです。

それでも、この一角だけはかつてのイヤガ谷の姿をとどめているようでした。

 

さて。この先、道はありません。

地図を確認すると、滝を越えて進んだとしても「鵯越墓園」に出るのみ。

コンパスで方角を確かめながら、別方向に進みます。

 

そうしてたどり着く、今回の最大の見どころ。

それは山中に忽然と姿を現し、思わず息を呑みます・・・。

 

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このスケール感、写真で伝わるでしょうか!? 

巨大な砂防えん堤、「帝釈堰堤」です!

 

昭和34年完成という歴史を感じさせるコンクリートの質感。

ゆるやかなアーチが美しく、「神戸の黒四(くろよん)」と呼ぶ人もいるそうです。

 

被写体としては大変魅力的なのですが、

この上を歩いて向こう岸まで渡るとなると、

高いところが相変わらず苦手な私には少々難所。

 

そこで・・・

 

210705_11.jpg今回もこうなりました。

4月放送の「六甲山最高峰」以来となる、「黒田さんといっしょ」です。

通過後もしばらくは沢からつかず離れず、滑りやすい谷伝いとなるため、

この状態のまま歩くことになりました。

 

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「帝釈堰堤」のそばでは、「テイカカズラ」がまだ花盛りでした。

 210705_13.jpgそれにしても、流れる水はさておき(くどいようですが)、

緩やかに蛇行しながら瀬と渕が続くイヤガ谷。

市街地から近いのに雰囲気抜群。にもかかわらず人の気配が全くありません。

「神戸の秘境」と呼ばれるというのも納得です。

 

コース後半の見どころは、「妙号岩(みょうごういわ)」。

幕末ごろに壁面に彫られたと伝わる「南無阿弥陀佛」の文字が名前の所以ですが、

古くからロッククライミングのゲレンデとしても知られる場所です。

まずはその上に向かいます。

 

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この時はやや曇ってしまいましたが、

市街地から神戸空港、対岸の大阪府側まで見渡せました。

 

真ん中に見えているのが今回のゴール「石井ダム」で、

そこまで一気に下るのですから、かなりの急降下となることは一目瞭然!

ここも人の踏み跡こそありますが、

一般的なルートマップには何も表示がなく、足元はズルズルです。

脚で踏ん張るだけでは足りず、両手で樹木をつかむ場面もたびたびで、

写真など撮っている余裕はまったくありません!

ここでも再びロープで黒田さんとつながり、

場所によっては私が先行(=つまり、上で黒田さんに支えていただく)しながら、

慎重に進んでいきました。

そんなふうに、全身を使ってひたすら下ること30分ほど。

 

210705_15.jpg これまた惜しくも放送ではご覧いただけませんでしたが、

先ほど上に立っていた「妙号岩」の、真下に出ることができました。

(この垂直な壁を、黒田さんは高校時代から登っていたそうです!)

 

彫られた文字を見ると、下の方の

「石工」「西宮(?)」「政吉 嘉吉 卯吉」といった字は読めますが、その上、

「妙号岩」の名の所以である「南無阿弥陀佛」は、近すぎてほぼ読めません(笑)。

 

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少し下って、「石井ダム」の周遊路から撮影しましたが、

今度はレンズが短すぎて、精いっぱいズームアップしてもこの有様(涙)。

案内板の記述では、一文字が1.3m角で彫られているということです。

 

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改めて、今回のゴール「石井ダム」をご覧いただきましょう。

デザインにも気を配って建造されたということで、

ダムマニアの皆さんにはよく知られた存在だそうです。

 

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こちらは反対側から見上げたところ。

詳しいことはさっぱりわからないのですが、確かにかっこいい!

 

ダムの上から下まで、自由に行き来できる階段も設けられていて、

数えたところ310段もありました。

今回は下りでしたが、登るとなるといいトレーニングになりそう・・・。

 

こうして、氷ノ山チャレンジ前ラストの「兵庫山歩道」が終わりました。

これまでに比べれば、登り自体はそこまで厳しくはありませんでしたが、

疲れ方に、これまでにないものを感じました。

前後左右、あらゆる傾斜に対してひたすら踏ん張り、

たびたび樹木にしがみついたことからくる、体幹や腕の疲れ。

それに加えて、道なき道をゆく緊張感、

明確ではないルートを探るために回転させた頭・・・。

全身に残った名状しがたい疲労感と引き換えに、

これまでとは違う手応えを得られたような気がしています。

 

いよいよ、次にお目にかかるのは、

氷ノ山チャレンジの一部始終を収めた特番となるはずです。

コーナーを担当するようになって1年。

50代・登山初級者が県内最高峰に登り、下ると、いったいどうなるのか!(笑)

私自身もまったく想像できませんが、とにかく安全第一でいきたいと思っています。

今のところ、放送は10月の予定です。どうぞお楽しみに!

投稿者:田中 崇裕 | 投稿時間:18:30

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