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社会を彩る “障害者アート”

北九州市在住のアーティスト 伊藤彬さん
  • 2023年05月23日

「独創的で目を奪われる」
そんな感覚にさせてくれる“障害者アート”
今その作品を企業が活用し障害者の社会参加を後押ししようという取り組みが広がりを見せています。(北九州放送局 大倉美智子)

“絵が好き、描くのも塗るのも好き !”

         伊藤彬さんの作品     ©Akira Ito

“ランダムに並んだ色とりどりの数字”    “楽しそうに遊ぶロボットたち”
躍動感にあふれ、思わず「楽しそう」と言ってしまいそうになる世界が広がっています。
イラストを描いたのは北九州市に住むアーティストの伊藤彬さん(30歳)です。

伊藤彬さん(30)

伊藤さんには知的障害を伴う自閉症があります。5歳から絵を描き始め、今は小倉北区にある障害者就労支援施設「創造館クリエイティブハウス」に通いながら精力的に創作活動を行っています。白いクラフト用紙を受け取ると、思いのままにペンを走らせ、次々とイラストが生み出されていきます。伊藤さんの作品は、過去にはNTTのタウンページの表紙や工事現場の仮囲いにデザインされるなど、多くの企業が採用してきました。

工事現場の仮囲いに伊藤さんの作品を装飾(福岡市内)

伊藤さんに「絵が好きなんですね」と声をかけると返事が返ってきました。

絵が好き!
描くのも好き、塗るのも好き! 

社会参加を後押し  活用広がる「障害者アート」

伊藤さんのイラストが装飾されたトラック

伊藤さんのイラストを積極的に活用している企業が門司区にあります。産業廃棄物処理の事業などを行っている「ツネミ」です。自社のトラックに伊藤さんが描いたイラストをラッピングし、街なかを走らせています。障害がある人たちの活躍を後押ししたいとの思いからで、デザイン料も支払っています。

大型連休明けの5月9日、新しく納車された軽トラックにラッピングを施す作業が行われました。

   企業が採用した伊藤さんのイラスト   ©Akira Ito

今回、選んだデザインは “フクロウ ”
味のあるタッチで描かれた色とりどりのフクロウが、次々と車体にあしらわれていきました。会社にも“福”を招いてほしいと、このイラストが選ばれました。トラックにイラストがラッピングされていると、スタッフは安全運転を心がけるようになるし、道行く人が絵とともに仕事の様子も興味をもって見てくれるのだそうです。

「ツネミ」 廣石武彦 社長

( 「ツネミ」 廣石武彦 社長)
トラックが華やかになり仕事がワクワクします。こんなに才能がある人たちがたくさんいらっしゃると知り、障害者の可能性や夢を広げることができるかなと思って取り組んでいます。お互いが応援しあって良い関係を築けていけたらいいと思います。

感謝状を受け取る伊藤さん

この会社がラッピングトラックを導入したのは3年前。伊藤さんのイラストを使用するのは今回で3回目です。しかし、社長が伊藤さんに会うのはこの日が初めて。理由は新型コロナです。コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に移行されたタイミングで、伊藤さんに感謝の気持ちを伝えたいと、ラッピング作業を見てもらい、感謝状を贈りました。

感謝状を受けとり、カメラに向かってピースサインを見せてくれた伊藤さん。ふだん伊藤さんをサポートしている施設のスタッフの中村満美さんも、うれしそうにその光景を眺めていました。

中村満美さん

きょうの彬くんは、落ち着いてうれしそうでした。好きなことをして対価をもらえ喜んでいます。雇用契約を結ぶことが難しくても社会参加ができるので、彬くんに限らず障害者のアート作品を採用する企業が増えるとうれしいです。

アーティストの発掘 活動再開へ!

伊藤さんとこの会社を結びつけたのは、福岡市の一般社団法人「だんだんボックス」です。企業でアート作品の活用が広がれば障害者の社会参加につながると、さまざまな企業とのマッチングを手がけてきました。ところが新型コロナの感染拡大により、思うように活動できない時期が続いたといいます。

(「だんだんボックス」山下善伸 副代表)
コロナ禍で、施設への訪問が全くできずアーティストの発掘ができませんでした。その間も、おそらく作品はたくさん生み出されていると思うので、これから施設まわりを本格的に再開してアーティストの発掘を進めたいです。

アトリエにおじゃますると…

ラッピングトラックの取材の後、アトリエにおじゃまし、伊藤さんにイラストを描いている様子を撮影させてくださいとお願いしました。

白いクラフト用紙を手にした伊藤さん。なんと私たちの姿を描いてくれました!

ちらちらとこちらを見ながら、ペンをすらすら走らせていきます。体から描き出したと思ったら、次は指先、最後に顔…。スタッフの方に話を聞くと、伊藤さんは描き直すことはしないといいます。1メートルを超えるA0サイズのクラフト用紙も30分とかからず埋め尽くすといった具合に想像力があふれているそうです。

私たちのイラストも5分もかからず仕上げてくれました。どうです?似てますよね!

伊藤さんが描いてくれた大倉記者と堀内鷹雄カメラマン

夢は仲間との旅行!

伊藤さんは雇用契約を結ばない「就労継続支援B型事業所」という施設で創作活動をしています。自分のペースでイラストを描き、事業所がその作品を活用したグッズを販売。伊藤さんには、それに応じた「工賃」が支払われます。今回のように企業がイラストを採用した場合には「工賃」とは別に作品の使用料を受け取ることができます。伊藤さんはたくさん作品をつくって、施設の仲間と旅行に行くことを目標にしているんだそうです。
かなうといいですね!

  • 大倉美智子

    北九州放送局 記者

    大倉美智子

    熊本局・報道局ニュース制作部を経て現所属。子育てや教育、文化などを担当。味のある伊藤さんのアートにくぎづけです!

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