どこまで広がる?男性育休(1)カギは雰囲気と給付額?
- 2023年06月06日

最近、耳にすることが増えた男性の育児休業。「かつては、検討すらしなかった…」という方もいらっしゃるかもしれませんが、いま、男性の育休を後押しする動きが活発になっています。
それでも現状では、男性の育休取得率(2021年度)は「13.97%」。国が掲げる2030年度「85%」という目標には、大きな開きがあります。男性の育休って、いまどうなっているの…?そして今後はどうなるの…?
先日、育休から復帰した私自身の実感も含めて、現状や課題を整理しました。
(北九州放送局 田口智章)
この記事のポイント!
▶男性の育休取得率は2021年度「13.97%」 国の目標は2030年度「85%」
▶“職場の雰囲気”や“給付額の引き上げ”が取得率向上のカギ!?
▶専門家「男性育休は女性にも良い影響。夫婦で育休をずらす“バトンタッチ育休”も」
■あと数年で男性の育休取得者8割に!?
国はいま、2030年度に男性の育休取得率を85%まで引き上げようという目標を掲げています。今年度からは従業員が1000人を超える企業を対象に、男性の育休取得率の公表が義務づけられました。さまざまな政策を通じて、男性の育休取得を促そうという動きが活発です。
ただ、現状は大変厳しい数字です。
男性の育休取得率は増加傾向にありますが、最新のデータでは2021年度に13.97%でした。2030年度の目標達成までには、かなり大きな開きがあります。
男性が取得しなかった理由について、厚生労働省が調査した結果があります。

その上位を占めたのは、「職場が育休を取得しづらい雰囲気だった」「自分にしかできない仕事があったから」「収入を減らしたくなかったから」といった理由でした。(出典:厚生労働省「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」)
こうした課題を解決して、男性の育休取得の促進に取り組む北九州市の企業に話を聞きに行きました。
■取得率100% カギは“雰囲気”
訪ねたのは、不動産会社の「HIROTAホールディングス」。この会社の育休取得率は、男女ともに100%です。
人事などを担当する総務経理部の西川千尋さんに聞くと、「自分にしかできない仕事」とならないよう、会社側がさまざまな配慮をしている点もありますが、一番大きな理由は“育休を取ることが当たり前の雰囲気”にあるとのことでした。
西川さん自身も、4年前の第1子誕生の際に約1週間の育休を取得しています。当時は営業部にいましたが、先輩の男性社員から雑談レベルで育休の体験談を聞いていたそうです。ふだんから当たり前のように育休の話を聞いていたことで、自分も取得する決断をできたといいます。

実際に取得してみると、本当に目が離せないことの連続でした。ただ、育休を経たからこそ子育ての大変さも感じられましたし、子どもとしっかり向き合うことで自分が何のために仕事をしているのかを考える機会にもなりました。家族のために仕事を頑張ろうと思えた、よい経験でした。
西川さんは現在、育休の取得推進も担当していて、社員との面談も行っています。

面談時には“仕事の心配はしなくていいよ”と。“育休が評価にマイナスになることはないので安心してください”と伝えています。もし不安があるようであれば、評価制度についても説明しています。
その際に使うのが次の資料です。
この中では、育休を取得することが“家庭だけでなく仕事の面でも担当業務の効率化を図る機会になる”と、メリットを強調しています。

取材に伺った際、西川さんから説明を受けていたのは独身の20代の男性社員でした。西川さんの育休経験談も含めて、ざっくばらんに会話が交わされていたので、率直な感想を聞いてみると、こう話していました。

育休を取得すると他の社員に迷惑をかけてしまうというイメージがありましたが、実際の体験談を聞くとモヤモヤが解消されました。子どもの成長過程を見ていきたいと思っていたので、もし今後自分の子どもが生まれたら育休を取得したいです。

育休を取ることが当たり前になって、仕事とプライベートの両方について、社員一人ひとりがしっかりと充実するような社会になっていけばいいかなと思います。
■給付額引き上げで取得率アップ?
育休の取得には職場の雰囲気以外にも課題があります。厚生労働省の調査では「収入を減らしたくない」という理由が最も多く挙げられています。
政府は、両親ともに育児休業を取得した場合、最長4週間は育休中の給付額を引き上げ、手取り収入が変わらないようにする方針を示しています。この方針が今後の育休取得の拡大につながるのでしょうか。
全国の企業などで、育休取得の推進を支援する「育Qドットコム」の広中秀俊社長は、前向きに評価しています。

広中秀俊 社長
給付額が増えるのは、育休の取得者にとってはかなりプラスになるのではないかと思っています。“減らない程度になる”というのがすごく重要なポイントです。育休の取得者や職場にとってもポジティヴに働くのではと思います。
企業側も“仕事が属人的にならないよう”業務の整理を進めるとともに、代わりに業務を担う「代替要員」の確保をいかに進められるかもポイントだといいます。
そして、男性の育休が広がることで、育休を取得する女性にとってもよい影響が出るのではないかと、期待していました。

広中秀俊 社長
出産を終えたらなるべく早めに職場に戻りたいと考えている女性が多い中で、女性が早めに復帰して、そこから男性が育休を取得する“バトンタッチ育休”も多く見られます。男性が育休を取得することで、女性が早期に復帰するケースも今後多く出てくるかもしれません。