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北九州 旦過市場火災から1年 バー店主の選択

居場所を求めた再開
  • 2023年05月01日
店の再開に駆けつけた かつての常連客

再スタートの乾杯

「かんぱーい!!」

中古店舗のカウンター席を埋めた、かつての常連客たち。
この日を心待ちにしていた客たちが
目を細めて話す相手は バーのマスター、
長谷山明人さん(62)です。

長谷山明人さん

火災から1年、ようやく店を再開することができました。
ふだんあまり表情を変えないマスターの屈託ない笑顔。

あの日から止まっていた時間が、
ようやく動き出しました。

「旦過で大規模火災!」

あの日、その一報で駆けつけた現場。
カメラマンの私が見たのは、 
週末の買い物先や、仕事上がりの一杯を楽しむ店が
炎に包まれる姿。
ほんの数日前、楽しいひとときを過ごした 
長谷山さんのバー「GAUDI」も
跡形なく燃え落ちていました。

昭和の香り漂う「新旦過横丁」

新旦過横丁は戦後、進駐軍が残した材木などで
建てたという20軒ほどの木造の建物が
肩を寄せ合うように並ぶ飲食店街でした。 

火災前の新旦過横丁

年配の人には懐かしさを、 
若者には新鮮さを感じさせる路地でした。

長谷山さんもその雰囲気にほれ込んだひとりです。
店内には年代物のギターやこだわりのモニュメントを
飾り、落ち着いた雰囲気で音楽と酒を楽しめる
隠れ家のような場所でした。

もういいよ…失意の底の長谷山さん

火事からひと月後、 
ようやく長谷山さんに会うことができました。

持病のヘルニアが悪化して、
つえをつきながら店舗の跡地付近にきてくれました。
あの日、
長谷山さんは閉店後の店内で本を読んでいたといいます。

焼けた店をみつめる長谷山さん

読み終えたら帰ろうと思っていたら2軒隣のバーのマスターが
「火事だ!!」と入ってきた。
外に出たら、別の店の2階から火が出ていて、自分の店も
あっという間に火に包まれた。

職場だけど家より落ち着くところだった。店主同士も仲がいいし、商売がやりやすかったんだ。 新旦過が
俺の中ではベストだったんだ。

この時、店は賃貸契約が解除となり、がれき撤去が終わっても、旦過での営業再開はできないと分かっていました。
大好きだった新旦過横丁に戻ることはないのです。

大切なものは全部、あそこにあったから。終わっちゃったなと。 
もういいんです・・・。
モチベーションがわかない。

そう言い残した後ろ姿に、
かける言葉がありませんでした。

止まってしまった時間

気力を無くした長谷山さんが気になって、
酒に誘うこと数回。近況を伺うと・・・。

ベッドにひっくり返って
ひたすら本を読んでいる。 
あとはひとりで、
焼酎の緑茶割りを飲んでるかな。

火事から半年たっても浮かない表情に
「再開そろそろですか?」とか「みんな待っていますよ」とか 言えるはずもなく、
会うたびに彼が失ったものの大きさを感じるばかりでした。

「始動」のわけは

ところが、ことしに入って 
長谷山さんからのメッセージに『始動』の文字が。 
驚きとうれしさですぐに連絡しました。

長谷山さんとのやりとり

収入がないのも、もう限界だけど、 
それよりも、このままじゃどうかなって。 気持ちの面で、もうね・・・。

生きるため、そして孤独から脱するための再起でした。 
店の場所は旦過から少し離れた繁華街。
火事から10か月の決断でした。 

不安のなかの再スタート

開店の1時間前、カメラを持って取材に訪ねると 
カウンターで真新しいグラスを磨く
長谷山さんの姿がありました。

スナックだった店を居抜きで賃貸契約。 
友人から譲り受けた中古のDVDプレイヤー以外は、
何もない店内。 

あの日、すべてが燃えたことを思い出します。 

「はぁ・・・」
初日なのに深いため息をもらす長谷山さん。 

何人か来てくれるかな・・・

一度止まってしまった店の時間。 
不安まじりの時が過ぎていきます。 

旦過が残してくれた「つながり」と「居場所」

迎えた開店時間の午後6時ちょうど。 
心配をよそに、最初のお客さんが来店です。 

おめでとうございます!
元気でしたか?

次々とお祝いに駆けつけるかつての常連客たち。 
30分ほどでカウンター席が埋まったのです。
店内に広がる穏やかで優しい空気。  

常連客たちが長谷山さんに会えた喜びをかみしめます。 
長谷山さんもまた、再会を心待ちにしていました。 

よう頑張ったねえ、1年
あした(19日)が
ちょうど焼けた日やね

なかには、火災前に借りていた物を返しに来た客も。

うわははは!いいなあ 
スクールオブロック

客の手元にあったおかげで、火災を免れたDVDです。 

たまたま焼け残っちゃったんで。
 “ただいま”って言ってますよ

旦過で大切なものを失った長谷山さん。 
火災から1年。 
旦過で培った、人のつながりは失っていませんでした。 

そして静かに語ってくれました。 

さみしかった。
ずーっとひとりで本を読んで
誰とも話さないのがずっと続くと
そろそろ人に会いたいなって。 

不可能なことなんだけど、元に戻れるのならそれが一番いいんだよね。 
それは無理なんで・・・
詮ないことなんで。

やっぱり自分の「居場所」が必要。だから居場所を作りましょうと。

長谷山 明人さん

決して消えることのない、旦過への思い。 

それでも長谷山さんが一歩を踏み出したこの夜、 
取材を終えた私が、客としてすぐに
「居場所」に舞い戻ったのは言うまでもありません。 

  • 森川 健史

    北九州放送局

    森川 健史

    チーフカメラマン

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