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漫画家 渡辺航さんインタビュー|弱虫ペダル作者 北九州に

KPF2022
  • 2022年12月06日

11月26日(土)~27日(日)に3年ぶりに開催された北九州ポップカルチャーフェスティバル。

現在NHKで放送中のアニメ「弱虫ペダル LIMIT BREAK」トークショーのゲストとして、原作者の渡辺航さんが出演。
渡辺さんにインタビューさせていただきました。

放送でお伝えできなかった内容も加えた、インタビュー全文です。

※長文です!

渡辺航さんの代表作は「弱虫ペダル」。2008年に連載が始まり、単行本81巻、累計2,800万部を発行している人気漫画。

「弱虫ペダル」の主人公 小野田坂道くん

主人公はアニメオタクの高校生、小野田坂道くん。
高校入学をきっかけにロードバイクに巡り合い、インターハイで日本一を目指す物語です。

 

渡辺航さん チャリできた

渡辺さん自身も自転車が趣味ということもあり、この日も長崎県からイベント会場である北九州市まで自転車でいらっしゃいました。

KPF2022会場の西日本総合展示場に自転車で到着

昨日の夕方<11月26日(土)>、会場まで自転車でいらっしゃったんですよね?

九州までは飛行機で。イベントで北九州に行くっていうので、一旦長崎の実家によらせてもらって、そこから200キロぐらいですね。

長崎から北九州までどれぐらいかかりました?

自転車に乗っている時間が8時間ぐらいで、食事の時間を入れると実際は10時間ぐらいですね。

失礼かもしれないんですけど、お疲れじゃないですか?

もう大丈夫です。昨日たっぷり寝させてもらったので。

北九州にいらっしゃっていかがですか?

僕、夏に「ツールド夏休み」と勝手に名前を付けた5日間の旅をしてるんですけど、実家に向かって走る旅なんです。関門トンネルを、自転車で押して渡って、エレベーターで上がって。九州に上陸したところ北九州なんで、九州帰ってきたなーって思うのがいつも北九州ですね。
(北九州市は)港町で対岸には下関の山々が見えて、活気がある。いろんな物の動きを感じる街ですね。

グルメは堪能されましたか?

焼肉をたくさん!正直めちゃくちゃおいしかったですよ。

自転車天国 九州

渡辺さんは長崎の出身。九州にゆかりや思い出があると思うんですけれど、渡辺さんも自転車競技をされているということで、九州はその目線ではいかがですか?

自転車天国と僕はこっそり呼んでるんですけど。
長崎は山があって山に登れば必ず海が見える。
熊本はもうすっごい広い牧草地の中を信号のない道をひたすら走ることができる。
大分では国際レースを今やってるんですよね。
で、やっぱり福岡もおいしい峠がいくつもいくつもある。この峠を越えてあそこを越えて…計画してて楽しいし、走ってて楽しい。
自転車天国です。

自転車じゃないと見えない景色がたくさんあるんですかね?

山の斜度に対しての道の作り方みたいなものがあって。
九州の道って僕にとっては登りやすい、リズムが取りやすいです。急な登りの後にちょっと休みがあって、また登ってみたいな、リズムみたいなやつが。
実はこう道路設計にも九州感が出ていて…。マニアックすぎます?
自分の中でリズムが取りやすくて、めちゃくちゃ走りやすいって思います。
(食事についても)
ふらっと寄ったうどん屋さんとかがもうめちゃくちゃうまい。熊本で赤牛丼とか。
めちゃくちゃおいしいって思いながら。

北九州のうどんおいしいですよ!

うどん大好きなんで、ぜひ食べたいです!

(トークショーの後、渡辺さんは北九州市内の緒方キャスターおすすめのうどん屋さんに行かれました。)

 

北九州とポップカルチャー

北九州は九州の玄関口。ポップカルチャーにも力を入れている街。将来漫画家を目指す子どもたちの育成などにも力を入れています。漫画家として、渡辺さんはそんな街をどう思いますか?

漫画家って僕もすごく苦労した部分であるんですけど、道筋が全くないんですよね。
ほかの職業みたいに、この学校行って卒業すると基本的にはその職業になれますよっていう道筋が基本的には無い。
いろんな道があるんだけど、その道の一つを北九州市さんが力入れてやってくれるというのは、僕からすると夢のシステムですね。
誰も教えてくれないんですよ、普通は。
教えてくれる場所があるってすごいと思います。ぜひどんどんやってほしいと思います。

漫画家を目指したきっかけ

渡辺さんご自身はなぜ漫画家を目指そうと思ったのですか?

僕のルーツは鳥山明先生。
当時、僕は大きいサイズの雑誌しか知らなくて。いろんな漫画家さん載ってるじゃないですか。
だけどその鳥山明先生の「ドクタースランプ」(のコミックス)が友達の家にあったんですよ。小さいことにまずビックリした。
開いたらずっと同じ人が描いてる漫画が載ってて、こんなに面白いのがあるんだ、自分だけの世界の本を将来出せるといいな。そう感じました。その時が(僕の漫画家への道は)スタートです。
鳥山先生は一回だけお会いしたことがあります。その時は、僕は漫画の賞を受賞しただけの、わけのわからない若者だったので、何を言ったものやらみたいな感じで「読んでます!」ぐらいしか言えなかったんですけど…。

そこから「弱虫ペダル」を描くまで、やっぱり苦労もあったんじゃないですか?

そうですね。さっきも言ったとおり、漫画は道筋が全く無い。自分の中から探し出して、自分の経験から集めて作るしかないんで、それはもうたくさんの失敗をしたし、小さな成功体験を一個一個集めてきて、ようやく一本の糸にしたみたいな感じですね。
最初は、「弱虫ペダル」ともう一作連載をしていました。もう一作の連載が僕にとってはメインで、「弱虫ペダル」は自分の好きな自転車の世界を好きなように描こうと気楽に始めたんです。でもそれがよかったみたいで。たくさん反響をいただいて、支持していただいてる。

漫画家を目指されるまで、先生はテレビ局にもいらっしゃったことがあるそうですね?

そこに切り込みますか!
そうですね。大学を卒業して長崎のテレビ局に入社しました。入社後、いろいろと仕事をさせていただいたんですが、一身上の都合で、漫画家になりたいと退職。
本当に長い間芽が出なかった。
「自分は道を誤ったんじゃないだろうか。」
「この道を行くって決めたんでしょう。」
「いや、でも…。」…
気持ちが揺れた時期も長かったです。
「上京し、ここまで来ているのは漫画をやるためでしょ。」って何度も言い聞かせながら…。

デビューはできた。
売れるかと思ったら全然売れない。コミックスでない。不遇な感じ。
やっと出たコミックスもびっくりするほど売れない。
そういう感じでも、積み重ねていって。

そして、「弱虫ペダル」でいろんなメディアさんに取り上げていただく中で、退社したテレビ局の番組でも呼んでいただきました。少しは恩返しができたかなって思っております。

やっぱり漫画家になりたいという思いがずっとあったんですか?

就職してすごく感じました。この状態で別に居心地は悪くないし、みんないい人たちで、テレビ制作は面白いと感じていたんです。でも、これを一生やるのと、自分が小さい頃やりたいと思った漫画を一生やるのと、どっちなんだと考えたときに、すみません漫画ですっていうふうになって。

人生一回。今の自分の努力次第でどうにかできる可能性があるんだったら、そっち(漫画)にかけてみるのも面白いのかな、後悔がないのかなと思ったんですよね。振り返ったときに後悔してるのは嫌だなっていうのは思って。

両親はすごく反対して。泣いてましたけど…。

人生一度きり・アイデアはフルーツ

「人生一度きりだから、やりたいことをやってみよう」と漫画家として、作品の中でも大切にしていることは同じですか?

本当に人生一回だし、僕は変な風にとらえられるかもしれないけど、もう明日はないかもしれない、明日何事が起こって、トラックにはねられて、もしかしたら命を落とすかもしれない。だから今日思いついたアイデアは 今日のうちに描こうといつも思ってるんです。
思いついたアイデアって実は一年後とかにやると旬じゃなくなってるんですよ。
アイデアって本当フルーツみたいに旬があって。
あーこれめちゃくちゃいいアイデア!
じゃあ今やるのか?とっとくのか?
とっとくと形が変わって、そのあと使っても全然面白くなくなってるんで。だからもうパッって思いついて、あっ!今やろう!って思ったものはすぐやるようにしてます。

作中でもアイデアが散りばめられて?

散りばめられています。出し惜しまないでやろうみたいなのは思いますね。

主人公の1年目のインターハイの戦い。
これやったらすごい面白くはなるけど、もったいないなーっていう思いがちょっとある。
いやいやいや、でももう毎週毎週に面白さを、とにかくマックスに盛り込んでいったほうが読んでる人も絶対楽しいでしょって思って、それはもうガンガン投入してます。

編集さんから「ちょっと要素多いんで半分にしましょう。」ってよく言われてます。

渡辺さんが今おっしゃったこと、すごく納得です。読んでいて全然出し惜しみされてないなと。

そうなんです、実はロードレースそのものが人間同士のいちばん芯の部分を出し合って戦うスポーツ。時間も長いし、運不運がすごく左右するスポーツなんで。
走り出してすごく調子がいいけど、途中で落車に巻き込まれて、結局調子良かったけど、もう遅れちゃってゴールに絡めないとか。出だしはちょっと喉が痛くて風邪ひいてたんだけど、走っているうちに血が回って、補給食べてるうちに元気になっていけるかもしれないって優勝したりとか。
やっぱりわかんないんですよね。
だけど一つだけ言えることは、「レースはスタートラインに立たないと、レースに出ないとその権利はない」。
だから、準備して、準備して、準備して、まずベースのスタートラインに立って、そして走り出す。
あとは、大きな時の流れの中でいちばん欲しい結果をどうするか。

もちろんアシストたちもそのレースのために自分の仕事があり、それを一生懸命やる。アシストたちも輝いてるんですよ!アシストたちの仕事を見ていると、僕は「アシストいいね」っていつも思うんです。
自分も(「弱虫ペダル」を通じて)読んだ人のアシストができるといいかなというのはありますね。

アシストいいね!

「弱虫ペダル」はアシストに光を当てている部分がすごく多いんですよね。

そうですね。描いてる途中でふと気づいたんですけど。通常漫画って、主人公がいちばん強いものを目指す、エースを主人公にするみたいな方をこうパッと思い浮かべがちなんですけど、「弱虫ペダル」の坂道くんは、もうガチガチのアシストとして登場するし、ガチガチのアシストとして頑張る人。

僕はロードレースという題材を漫画にして、かつアシストに光を当てられたというのは、描いててよかったなと思うところです。エース、かっこいいんですけど。やっぱりアシストの方が人間味があるし、いろんな苦労をしている。もちろんエースも苦労するんだけど。ただその部分が描けて光を当てられて、描いてて楽しいです。

読んでる人たちも、もちろん全員がエースじゃないですよね?

そういう親近感を「弱虫ペダル」を読んで感じてもらえるんじゃないかなって思うんです。

渡辺さんがその伝えたいことというのはやっぱりそこですか?

エースの方が光ってるんだけど、脇から手伝っているだけで最高じゃないですか!
それに全力出せたら、もう別にほかのこといらなくないですか?

感情をぶつけ、自分のいいところを発見!

読んでる方にこういうふうに思ってもらいたい、こういう思いを持ってほしいと考えていることはありますか?

「弱虫ペダル」は主人公の坂道くんは秋葉原に通うオタク少年。
自転車の才能が実はあるという、才能を発見してもらうストーリーでもあるんですね。
もちろん坂道の成長物語でもあります。

「弱虫ペダル」の中で出てくるキャラクターって、いろんな才能があるけど、実は自分で気づいてなくて、見つけてもらうっていうシーンがいくつか出てくるんですよ。

そういうのってすごく大事だなと思ってて。
少年たち、少女たち、大人たちももちろん
才能って、実は持っているんだけど、自分で結構見つけられないんですよ。

僕もやっぱりそうだったんで。

一緒に居る人たちから、仲良くしたり、遊んだり、時にケンカしたり、言いたいことがあって言い合う中で
「おまえの得意なところここだよね」
ってぼそっとした一言で
「あ!そうなんだ」と発見できる。

いろんな人と感情をぶつけあって、自分のいいところを発見して、そこに向かっていくと、幸せがたくさん待ってると思うんですよね。自分が持ってる才能だから、そうやって進んでいってくれたらいいな。

漫画家を目指すあなたへ 渡辺さんからメッセージ

漫画家を目指している人たちに向けてメッセージをおねがいします。

漫画家は紙とペンがあればすぐ参入できる業種でもあります。
マンガにとって、いちばん重要なのは、その人の中にある世界観、その人の目で見えた世界を、どれだけ具体的に紙に描けるか。

今だとデジタルもあるけど、それを表現できるかなんで、漫画家を目指す人たちには、たくさん経験して、たくさんいろんな感情を自分の中にプールしてほしいと思います。

漫画って共感することも重要。読んでいる人のハートをつかんでキャラクターに感情移入する部分。
どれだけ自分の中に感情をプールできるか、それをどれだけ再生できるか。再生のためのトレーニングをたくさんやってほしいと思います。

そこに面白いキャラクターをこう当てはめれば、みんなが喜ぶような漫画ができる。

漫画は商業でありながら自己表現がある。この二つが両立できるようなバランスの取れた作家さんを目指してほしいです。

漫画が世界に与える影響は非常に大きいと思っています。ぜひぜひ皆さん漫画を描いてください!

インタビュー オフトーク

今アニメでやっている主人公の坂道くんが2年のインターハイもそうなんですけど、1年のインターハイ、これ先生、「魂」削って描いてるんじゃないかなって…

削ってます!めっちゃ削ってます!

そうですよね。表情とか、これは先生が「魂」削って描いているものだなあって伝わってきました。

1年目のインターハイは、本当に出し惜しんでいません。
でもその逆もあるんですよ。思いつくんだけど、ここに入れると話がだるくなるから「はいカット!」として全部捨てます。

ええ!?


…以上、制作の裏側(ネタバレあり)のファントークとなりました。

近日、渡辺さんが出演された、北九州ポップカルチャーフェスティバルでのトークショーの様子もアップしたいと思います!

  • 緒方直加

    キャスター

    緒方直加

    久しぶりに自転車をたくさんこいだら翌朝ペテルとマークが悲鳴をあげていました。 御堂筋くんが好きです。

  • 古賀麻依

    ディレクター

    古賀麻依

    「弱虫ペダル」での推しは巻島さんです(*'ω'*)よろしくお願いします!!

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