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旦過市場の大規模火災を受けて ~動き出した”防火指導員”~

  • 2022年12月01日

北九州市ではことし、中心部の旦過市場で2度の大規模火災が発生し、あわせて87店舗が焼損する惨事となった。さらに10月にも別の商店街で9店舗が焼ける火災が発生するなど歯止めがかからない。
これらを受けて市は消防OB14人を再雇用し、「防火指導員」として市内の木造飲食店を訪問する取り組みを始めた。悲惨な火災を繰り返さないために、現状と課題を取材した。

取材:アナウンサー 神戸和貴

2度目の火災で課題となった”防火指導”

火災のあった北九州市の旦過地区。がれきの撤去が完了したが、
多くの店舗で営業再開のめどは立っていない

旦過市場で発生した2度の火災で課題となったのが”防火指導”の徹底だ。4月に発生した1回目の火災を受け、北九州市は飲食店の防火指導の強化を行ったが、2回目の火災の火元とみられる店舗については営業していることを把握できず防火指導は行われなかった。
※詳細記事はこちら

市は木造飲食店の防火対策の徹底を図るため、消防のOB14人を”防火指導員”として再雇用し、各店舗を巡回する新たな取り組みを始めた。対象は市内の木造飲食店約650店舗で、来年の3月までに2回ずつ訪問することを目指している。

OBの経験をいかした丁寧な防火指導

戸畑区周辺を担当する防火指導員の常岡嘉郎さん(左)と河本賢治さん(右)

戸畑区周辺を担当するのは河本賢治さん(かわもと けんじ・70歳)と常岡嘉郎さん(つねおか よしろう・67歳)。2人とも現役時代に予防活動の経験が豊富で、相次ぐ火災を受けて市や消防の力になりたいと依頼を受けいれた。2人はその経験をいかし、柔らかな口調で丁寧に指導していく。

河本さん

コンロ周りは金属でできていても、その奥にある木材が長期間熱が加わることで炭化して火種となることがあるので、ときおり焦げたにおいがしないか確認するといいですよ。

河本さん

もし天ぷら油に火が入っても、決して水をかけないでくださいね。私が現役のとき火災現場に行くと、水をかけたことが原因の火事だったんです。

見た目にはわかりにくい火災のリスクや、実際の経験をもとにした注意喚起が続く。また訓練用の消火器を実際に使ってみたり、油に火が入ったときの消火スプレーを配布したりする。防火指導をするうえで2人が大切にしているのが、事業者との”コミュニケーション”だ。

常岡さん

来週はお店が45周年セールで生ビールが安いんですか!これは…私も予約できますかね?(笑)

ときおり世間話を交えながら和やかな空気で指導するように心がけている。各店舗2回ずつ指導することもあり、身近な存在として気軽に防火について話せる関係性を作りたいと考えているからだ。

常岡さん

今回の火災で”消防は何をしていたんだ”とお叱りを受けることもありますし、そもそも防火指導に来るというだけで身構えてしまう人もいます。世間話をしながら少しずつ距離が縮まると、防火について質問をしてくれたり、説明もしっかりと聞いてくれたりするのかなと思います。

 

換気口の油汚れは、火の粉が飛んだときに引火の原因になるという
水が出る訓練用の消火器を使って手順を確認

課題は”すべての店舗をもれなく確認する”こと

閉店しているというお店へ。すべての店舗の営業状況の確認が重要だ。

この日、2人が向かったのはシャッターが閉まった居酒屋。この店はすでに閉店しているという情報を得ていたが、実際の状況を確認するためだった。

常岡さん

電話がつながらなかったり、閉店していると言っていても、実際に見てみないとわからないので。来てみたら閉店の貼り紙があったのでこれはもう間違いないなと。

旦過市場の2度目の火災では、消防は火元とみられる飲食店が営業していることを把握できず、防火指導を行うことができなかった反省がある。一軒一軒足を運び、すべての店舗をもれなく確認することが非常に大切な任務となっている。

ただ、河本さんと常岡さんが最も苦労していることは、防火指導に訪問するためのアポイントをとることだ。取材中も各店舗に電話をかけていくが、出てもらえなかったり、番号が使われていなかったり、忙しさを理由に訪問を断られたりしていた。約90店舗を担当する2人だが、なかなかペースが上がらないという。

河本さん

いかに理解していただいて、訪問できるようにするか。継続と工夫が必要なのかなと思いました。正直、思ったよりもとてもハードですが、やりがいも感じています。飲食店の防火意識の高揚のお役に立てればと思います。

悲惨な火災をもう決して繰り返さないために。地道な活動は始まったばかりだ。

〇取材後記〇

今回、4つの店舗の防火指導を取材しましたが、旦過市場の火災を受けてどのお店も防火への意識が非常に高く、積極的に取り組んでいる印象でした。一方で、火災予防の訪問が断られたり、なかなかアポイントがとれないお店もあるなど、大きな温度差を感じました。
北九州市はこの取り組みに加え、専門家などによる火災予防に関する検討会を開き、今後の対策にいかしたいとしています。これまで2回の会合が開かれましたが、具体的な対策などは示されていません。防火指導をきっかけに多くの事業者と接点を持つ中で、得られた情報をいかした実効性のある取り組みが行われることを期待したいです。

  • 神戸和貴

    北九州放送局 アナウンサー

    神戸和貴

    愛知県出身、2011年入局。野球を中心にスポーツ中継を担当。旦過市場の2度目の火災では発生直後に現地で取材。

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