ページの本文へ

北九州WEB

  1. NHK北九州
  2. 北九州WEB
  3. NHKでドラマ化 小説家 平野啓一郎さんインタビュー

NHKでドラマ化 小説家 平野啓一郎さんインタビュー

  • 2022年08月10日
平野啓一郎さん

北九州市出身の小説家・平野啓一郎さん(47)。23歳の時に「日蝕」で芥川賞を受賞し、以来20年以上にわたって数々の小説を執筆し続けています。
「マチネの終わりに」や「ある男」など近年、作品の映像化が相次いでいて、NHKでも土曜ドラマ「空白を満たしなさい」が放送されました(7月30日で放送終了)
ドラマの放送が続く7月中旬、福岡に帰郷されると聞きインタビューしました。

聞き手:キャスター  緒方直加
記者 大倉美智子

北九州が誇る気鋭の作家

緒方
キャスター

初めまして。福岡に帰られるのは、久しぶりですか?

平野啓一郎さん
半年ぶりです。今回は九州大学での講演会があって、昨日は北九州市の実家にも一泊しました。僕は生まれたのは愛知県ですが、2歳の時から高校を卒業するまで北九州で育ちました。
自分の中の最も多感な時期を過ごした町で、思い出もあるし、家族や親戚もここに住んでいて、やっぱり故郷って感じがします。

“亡くなった人ともう一度会いたい”自身を投影させた小説がドラマ化

NHKの土曜ドラマ「空白を満たしなさい」は、平野さんの同名小説が原作です。物語は、死んだ人間が世界中で次々と生きかえるという突飛な設定。主人公・徹生は職場のビルから転落死し、3年後に生き返りますが、なぜ死んだのか記憶が無く「事故」なのか「自殺」なのか、それとも「殺されたのか」死の真相を探っていきます。

 

10年前、平野さんが36歳の時に書かれた作品ですが、どうして「生き返る」という設定の小説を書いたのですか?

平野啓一郎さん
この作品を書いたときは「死」や「死者」「命」についてすごく考えさせられた時期でした。僕の父は、僕が当時1歳のときに36歳で亡くなっているんです。親を早く亡くした人にありがちだけど、僕自身はずっと自分が36歳まで生きることができないんじゃないかという気がしていました、非常に不合理なんだけど。それで自分が、父親が死んだ年齢の36歳になる時に、父親の死のことを何らかの形で作品にしたいと思っていて、そうすることで、自分が父の年齢を乗り越えることができるような気がしていたんです。

そして同時にちょうど東日本大震災が起こって、もう1つ、その年に初めての子供が生まれたんです。この3つのことが響き合うように、呼応して物語がつくられていきました。
その中で、すごくシンプルに「亡くなった人に対して僕たちが抱く最も強い感情は何かな」と考えたら、非現実的だけど「もう一回、会いたい」「もう一回、話がしたい」ってことに尽きると思ったんです。それで死んだ人ともう一回再会するということを物語の核に据えようと思いました。

価値観を揺さぶる“佐伯”の存在

作品がドラマ化され放送が始まりましたが、ご覧になっていかがですか?

平野啓一郎さん
毎回楽しみにしています。ドラマなので、映画より長い時間で見せてもらえますけど、それでも多少圧縮しないといけませんが、上手くいっていると感じています。
ツイッターでも阿部サダヲさんの“怪演”が話題になったりしていますけど、柄本佑さんも鈴木杏さんもそれ以外の方たちも、原作の中にある登場人物を大事にして演じて下さって、とてもうれしいです。

その阿部サダヲさん演じる“佐伯”。気味が悪いけれども説得力がある。どうしてこんなキャラクターにしたのですか?

平野啓一郎さん
佐伯は個性的でショッキングな人物として描かれていますが、非常に重要なことを語ってもいて、作中でも彼がいないと成り立たないぐらい重視した登場人物です。
小説は社会通念や僕たちが正しいと信じていることの価値観を揺さぶったり、違うものの見方を読者に提示したりするのが1つの大きな意味で、そのためには問いの立て方が重要になります。
社会で正しいとされていることにみんな従って生きていて、それで社会が本当に幸福になっているのであれば何の問題もないけど、正しいと思っていることをみんな信じて生きているにもかかわらず、なぜかひとりひとりが必ずしも幸福になっていない。それをどういう形で問題を投げかけるか、小説としては工夫します。いかにも正しいことを言っている人が教え諭すとか、ちょっと受け入れがたい価値として読者にぶつけられるとか。
後半になってからの佐伯の存在は、また別の意味で際立ってくるので、前半部分のちょっと違和感を持ちながら、みんなが戸惑っている感じはいいと思いました。

“分人主義”で気持ちを楽に

物語では次第に徹生の死の真相が明らかになっていきます。家族の前での自分、会社での自分、ひとりで居るときの自分。「幸福」と信じて生きているにも関わらず、自分をすり減らしながら生き続けてきた徹生が死の直前に考えていたことは何だったのか。
徹生の心情の変化は、読者の私たちに「幸せって何だろう?」とリアリティをもって訴えかけます。平野さんはこれまでも「人間は対人関係ごとにいろいろな自分を生きている」という「分人主義」を提唱していて、この小説でもその思想が展開されています。

平野さんの作品は、理想と現実の違いに悩んだり、生きづらさを感じたりする私たちへの処方箋のような気がします。“分人”とは、どんな思いが込められているのでしょうか。

平野啓一郎さん
「自己否定」と「自己肯定」は僕たちの非常に大きな問題で、人間は、何らかの形で「自己肯定」しながら生きていく必要がありますが、時にはそれが難しい。逆に「自己否定」の感情は簡単にとらわれてしまい、すごく苦しんでしまう。“分人”は「人間は対人関係や場所ごとに色々な自分を生きている」という考え方で、自分の全部を好きになりなさいとか、嫌いになってしまうということではなくて、“分人”ごとの自分を客観視してみましょうということなんです。

「学校でいじめられている」とか「会社でストレスを感じている」とか「親子関係が悪い」とか、……だけど、そうじゃない場所での自分は必ずしも嫌いじゃない。僕たちは自己否定的な気持ちになるときには、どこかで自分の“分人”の構成の中で、その自分を消そうとしているんですよね。それが時には自傷行為のように肉体的な痛みを通じながら、自分の本当の姿、ありたい自分じゃないんだっていうことをしてしまう。あるいは「自死」に関しては、自分を殺したいっていうよりも、自分の中の生きている「つらい自己像」を否定したいということがあると思うんです。

「生きていてつらい自分」を「つらくない自分」を通じて見守ってあげることが大切で、それは個人の内面の問題だけじゃなくて、社会の中でもそうあるべきだと思うんです。
社会が厳しいと、その価値観をみんな内面化して、自分自身にも厳しくなって、どんどん苦しい世界になっていく。みんなもうちょっと、助けようとか穏やかにとか、失敗しても、それを受け入れられるっていう風に社会が実践していけば、自分の中でも、うまくいってない自分がいても、それを厳しく責める気持ちが和らいでいくんじゃないかと思います。

ドラマは、始まりはミステリー風に感じると思うんですけど、本当に描きたかったのは「人間にとっての幸福とはなにか」であり、「死と生」を追求した作品です。ドラマの後半からよりそういった本題に入っていくので、ドラマの展開自体を楽しみながら主題をじっくりと受け止めてもらえると作者として嬉しいですね。(インタビューは第2話放送後の7月12日に実施)

平野さんがもう一度会いたい人は?

ちなみに、死者が生き返る物語を書かれた平野さんにとって「もう一度、会いたい人」はいますか?

平野啓一郎さん
まあ、いっぱいいますけど……僕はやっぱり自分の父親が36歳の時に亡くなって、僕は1歳でしたから、実際には一年間ぐらい接しているんですけど全く記憶がないんですよね。
それ自体が、実は僕の中で非常に大きな空白なんですけど、父と自分が、言葉を喋るようになって、意識もある状態で、なんかしゃべってみたかったなぁっていうのは、やっぱりずっと僕の中にありますよね。

あとは、その時々に、父に限らないけど、自分にいいことがあったり、面白いことがあったりしたときに、あの人に話したいなということがあるんですよね。誰でもいいわけじゃなくて、あの人にこそ聞いてもらいたいなとか。だからその時にそういう人が亡くなっていることがすごく寂しいですよね。だから、出来事ごとにやっぱり思い浮かぶ人の顔がありますね。

“どうせこんなもんだから…は嫌”理想とする作家像は?

九州大学で行った講演会(2022年7月)

作品から少し離れますが、平野さんは小説執筆以外にも講演活動やSNSなどさまざまな場面で、考えを発信していますが、どんな思いから?

平野啓一郎さん
SNSなんかは、自分がなんとなく思ったことや備忘録を書いているだけですよ。本を読んで面白かったことやコンサートに行って良かったこととか、何を食べておいしかったっていうこととか。そういうのと一緒に政治的な事に対する関心とか、社会問題に対する関心とかが自然に含まれているというぐらいの意識なんですよね。本当のことを言うと。

ただ僕は、現状追認だけをすることが現実的って考え方に否定的ですし、シニカルに「どうせこんなもんだから」っていうのがすごく嫌なんですよね。
「これはおかしいんじゃないか」っていう風に感じる目、感じる心は作家にとって重要で、そのおかしいことにどう対処しようかとなった時に小説を書くことと、それ以外の具体的な行動なり活動があって、両方自分の中でしたいと思うし、すべきだと思っています。

突き動かされる人も多いと思いますが、一方で批判は怖くありませんか?

平野啓一郎さん
だいたい僕なんか、子供の時からクラスの中でも僕の意見に賛同しない人が多かったですから、今更みんなの意見が違うことにびっくりすることはなく、発言する時はみんな反対するんだろうなと思いながら言っていることもいっぱいあります。
ツイッターのフォロワーは17万人ぐらいですが、本当にブロックしたいと思う人はほんの少し。良いことを言われるより、ショックなことを言われるほうが心に残りやすいでしょう、だから10人が賛同してくれても、1人に腹が立つことを言われると、そっちの方が心に残るってありますよ。
だけど数だけでいうと本当はその前の10人分、自分のことを共感してくれる人のメッセージを見ていたはずなんだし、いろんな場所に行って「本を読んでいます」だけじゃなくて、「ネット上の発信とかにも勇気づけられます」とか、「いつも読んでます」とかいう人にも出会うし、そういう風に考えるようにしています。

それに単純に自分の関心をオープンにしていると、いろんな人との繋がりが出来るんですよね。自分なりに考えたことを素直に表明していく事は、僕みたいなフリーランスで働いている人間にとっては、人生の可能性を広げていってくれるとも思いますね。それに作家ってやりやすい立場なんですよね。何やったら干されるとかはないから、作家っていう人に社会がいろんなことを言ってほしいという期待もあるし、それは一応理解はしています。

最後にふるさと北九州への思いも聞きました

平野啓一郎さん
(かつて利用していた)折尾駅とか新しくなっていますね、でもそのほうがいいですよね、しばらくずっと同じでしたから。町が衰退していくなって思うよりは、自分の思い出は、自分の記憶の中にしか残ってないけど、町自体が発展していく、変化していくのを見るの楽しいですし、綺麗になったなと思いますね。あんまり古いものこそ残そうとしないほうがいいと思うんですよ。
みんな、何でも残そうとするけれど、やっぱり次の世代の人たちにとっての新しい世界を、そのための場所を空けていくことも大事なので、これからも変化自体を楽しいみたいですね。

  • 緒方直加

    キャスター

    緒方直加

    週末はカードゲームの大会に出ています。

  • 大倉美智子

    北九州放送局 記者

    大倉美智子

    熊本局・報道局ニュース制作部を経て現所属。 3歳と1歳のわんぱくキッズを育てています

ページトップに戻る