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続く母親の苦悩 園バス熱中症死亡 福岡県中間市

  • 2022年07月28日

「1年経つけど、お母さんは会いたくてしかたがないです」

母親は、5歳の息子の遺影にこう語りかけました。
1年前、笑顔で保育園のお迎えのバスに乗り込んだ5歳の園児。炎天下にバスの車内に置き去りにされ、熱中症で亡くなりました。

保育の現場で、幼い命が失われる事件は繰り返されています。

「最後の犠牲者にしてほしい」遺族の訴えです。

記者 財前祐里香

置き去りで奪われた幼い命

倉掛冬生くん(当時5歳)
母親のお気に入りの写真でした

福岡県中間市の倉掛冬生くん(当時5歳)。
人気アニメ「鬼滅の刃」が大好きで、きれいな花を見ると母親にプレゼントする優しい男の子でした。

事件が起きたのは2021年7月29日。冬生くんは、中間市の双葉保育園で、登園の送迎バスにおよそ9時間取り残され、熱中症で死亡しました。

双葉保育園の送迎バス

この日の朝、保育園に到着したバスに乗っていた園児は冬生くんを含めて7人。バスを運転していた当時の園長と保育士の2人で園児たちを降ろしました。

ただ、後部座席にいた冬生くんは取り残されたまま、バスには鍵がかけられました。保育園では冬生くんの不在を認識しながらも保護者に確認せず、夕方まで誰も気づくことはありませんでした。

倉掛冬生くんの母親(事件3週間後に発表の手記)
なぜこのようなことになってしまったのか、とても理解が追いつきません。双葉保育園へ預けてしまった私がいけなかったのだと考えてしまいます。冬生が1人で閉じ込められたバスの中で、どんなに苦しかったか、どんなに暑かったか、どんなに寂しかったか、どんなに怖かったかと思うと、胸が張り裂けそうになります

“ずさんな安全管理”

「基本的なことを守ってくれれば、こんなことは起きなかった」
遺族はこの言葉を繰り返しています。
事件のあと、保育園のずさんな安全管理も明らかになりました。

中間市の私立双葉保育園

福岡県は特別監査で▽出欠確認の明確なルールがないことや▽送迎バスに関するマニュアルが活用されていないことなど、安全対策上の問題が確認されたとして、改善勧告を出しました。

バスから園児を降車させていた当時の園長と保育士の2人は、ことし3月、必要な注意を怠ったとして業務上過失致死の罪で在宅起訴されました。

倉掛冬生くんの母親(在宅起訴を受けて発表したコメント)
降車時の確認は当然のことながら、その後の出席確認や保護者への連絡をきちんとしてくれれば亡くなることはなかったのではないか、保育園の誰か1人でも欠席連絡もないのにいないことに気付いてくれていたら…と、悔しい気持ちでいっぱいになります

「最後の犠牲者に」

祭壇前で冬生くんを見つめる母親と祖父

事件から1年となるのにあわせて、7月26日、母親と祖父は自宅の祭壇の前で冬生くんに語りかけました。

母親「冬生、1年経つけどお母さんは会いたくてしかたないです」
祖父「いつも写真を見るたびに思い出して寂しいです」

体調を崩している母親に代わって、祖父が取材に応じました。

ーーー事件から1年、現在の心境は。
「なぜこういう事故が起きたのか、常に考えています。冬生の思い出については、長男と一緒に鬼滅の刃の映画を見に行って、買い物をしたことを思い出します。5歳でしたから、これから大きくなって小学校に入りいろいろなところに連れて行ってあげたかった」
ーーー今後の刑事裁判について。
「(在宅起訴された)前の園長にはどんな状態だったのか、真実を話してほしい。自分たちとしては、5歳の子どもで先があったのに亡くなってしまったわけなので、やはり罪を重くしてもらいたい」
ーーー保育現場、行政、社会に望むことは。
「保育園は小さい子が行くところですので、ちゃんとルールを作って守るようにしてもらいたい。点呼とかを考えて、常に確認してもらいたい。絶対に繰り返してもらいたくない。とにかく冬生が最後の犠牲者に、ということを思います」

15年前の置き去り事件 遺族は

「これで最後にしてほしい」。
同じ思いを抱え続けてきた遺族もいます。冬生くんが亡くなった中間市に隣接する北九州市の濱崎健太郎さんです。

水をお供えする濱崎さん
喉が渇かないようにと、1日2回水を取り替えます

15年前の2007年7月27日。北九州市の認可外保育園(現在は廃園)で、息子の暖人くん(当時2歳)が、車の中に4時間近く取り残されて熱中症で亡くなりました。

濱崎さんは、去年、中間市の事件が起きた際「また同じことが起きてしまった」と衝撃を受けたといいます。

「どうしてだろうと本当にショックでした。うちの息子で最後にしてほしかった。それでも起きてしまった」

15年前の事件では、保育園の元職員2人が降車の確認を怠ったとして、業務上過失致死の罪で有罪判決を受けました。裁判では、安全管理のマニュアルもなく管理体制もずさんだったなどという指摘もありました。

「ずさんであればあるほど『なぜこの保育園に預けたんだろう』という自責の念が強くなってしまいました」

「二十歳になるまでは」と、
まだ遺骨を納められないといいます

濱崎さんは、暖人くんの遺骨をいまも自宅に置き「水分を取ってほしい」と水やジュースを供えています。毎年、夏になると、仏壇に語りかけることもできないほどつらい気持ちになるといいます。

中間市の事件を受けて、今回、取材に応じてくれた濱崎さん。保育の現場で、二度と同じような事故を起こさないでほしいと訴えます。

うちの事件も中間市の事件も、(子どもを)しっかり数えていれば起きなかった。点呼を大事にして、本当に基本を徹底的に守ってもらうのが一番だと思う。保育園で起きる事故がなくなるのなら、うちの息子のことが風化しても構わない。僕らの悲しみや苦痛は続いていくけれど、もう同じ思いはしてほしくない

幼い命をどう守るのか

いつも通りに送り出して、いつも通りに帰って来るのを待っていた家族。

安心して預けたはずの保育園で、冬生くんと暖人くんの命は奪われました。遺族に共通するのは「点呼など基本を徹底してほしい」「うちの子で最後にしてほしい」という訴えです。

国は、1年前の中間市の事件のあと、全国の保育園や幼稚園などに安全管理の徹底を呼びかけました。福岡県も送迎バスの運用指針を定め、監査の対象に加えるなどしています。

ただ、その後も幼い命は失われています。広島市ではことし4月、保育園から行方がわからなくなった5歳の園児が近くの川で見つかり死亡しました。

幼い子どもの命をどう守るのか。保育の現場、監督する行政、そして社会全体が向き合い続けなければいけない課題です。

  • 財前祐里香

    NHK北九州放送局 記者

    財前祐里香

    初任地の北九州で事件事故などの取材を担当。
    中間市の事件を発生当時から取材しています。うちの子で最後にしてほしい、その言葉を重く受け止めたいです。

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