NHKスペシャル「人体」“生命誕生”見えた!母と子 ミクロの会話

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NHKスペシャル「人体」“生命誕生”見えた!母と子 ミクロの会話

あなたはどうやってこの世に誕生したのでしょうか?あなたのはじまりは、たった一つの”受精卵”です。母親の胎内で過ごした約280日の間で、あなたの複雑で精巧な体はいかにして形作られてきたのでしょうか?“メッセージ物質”に着目すると、新しい「生命誕生」の姿が見えてきます。2018年3月18日放送のNHKスペシャル「人体」第6集・生命誕生では、山中伸弥さん、タモリさん、木村佳乃さん、パトリック・ハーランさんと一緒に、小さな「受精卵」が“あなた”になるまでの物語を見ていきました。

受精卵がメッセージを発信“ここにいるよ!”

新しい命。それは受精卵の中で、父親の遺伝子情報をもつ染色体と母親の染色体が合わさったときに始まります。そのおよそ2時間後に受精卵は分裂を開始、赤ちゃんの体づくりが始まるのです。

受精卵はただ分裂を繰り返すだけではありません。生きるために、さまざまな“メッセージ物質”を出しはじめます。まず10日目前後に、子宮に着床するために出すのがhCGという物質。アメリカ・ロックフェラー大学のアリ・ブリバンロー教授は、シャーレ上に子宮と似た環境を作り出し、受精卵からhCGが放出される様子を映像でとらえました。

hCGが伝えるのは「ここにいるよ!」という、受精卵から母親へ向けたメッセージです。hCGは母親の卵巣などに働きかけ、その結果、子宮の内膜が厚くなり、受精卵が根付くことができるのです。(詳しくは「見えた!受精から出産までの“赤ちゃんの神秘”」を参照。)

ごく初期段階の受精卵のようす。hCGという“メッセージ物質(黄色)”を出し、
母親に自分の存在を伝えている。
(画像:アリ・ブリバンロー・ロックフェラー大学 )

人体をつくる驚異の仕組み“ドミノ式全自動プログラム”

受精卵は分裂を繰り返しながら、さまざまな種類の細胞に分かれていきます。私たちの体を構成する細胞は名前がついているものだけでも200種類以上。心臓の筋肉の細胞、目のレンズの細胞、血管の細胞などさまざまです。これらの多彩な細胞たちが、それぞれの場所でそれぞれの役割を果たすことで、臓器が働くことができるのです。

でもどうして、たった1つの受精卵が、個性豊かな200種類以上の細胞に分かれていくことができるのでしょうか?最新の研究から、その謎を解くカギが、細胞同士が情報をやりとりする“メッセージ物質”にあることがわかってきました。受精卵の中に、驚くほど精巧なプログラムが備わっていたのです。

では最初にできる臓器は何でしょうか。受精卵の細胞がある程度まで増えると、一部の細胞がWNT(ウイント)という“メッセージ物質”を出し始めます。するとWNTを受け取った細胞たちは、次々に“拍動”を始めます。そう、このWNTは「心臓になって!」というメッセージ。心臓の細胞に変化するのです。

すると心臓の細胞が次なる“メッセージ物質”・FGF(エフジーエフ)を放出し始めます。それは「肝臓になって!」というメッセージ。これが近くの細胞に届くと、肝臓の細胞が生まれていきます。

このように、スイッチがひとつ入ると、次々に体作りが進行していきます。言わば“ドミノ式全自動プログラム”。最初は1つの細胞だけでネットワークのない世界ですが、“メッセージ物質”によって次々にスイッチが入り、それによってさまざまな細胞が生まれ、臓器が形作られていくのです。その結果として、これまで人体シリーズで見てきた臓器同士の驚異のネットワークが形成されると考えられています。(詳しくは「生命誕生の神秘!臓器をひとりでに生み出す“メッセージ物質”の働き」を参照。)

子宮の中 母と子の“ミクロの会話”

受精8週目の超音波画像。胎児のお腹の部分には太い管状のものがついています。これは「へその緒」。その奥に見えるのが「胎盤」で、お母さんの子宮に張り付いています。この胎盤は受精卵の一部が分かれてできたもの。赤ちゃんの一部なのです。

受精8週目の超音波画像
(画像:馬場一憲・埼玉医科大学総合医療センター )

赤ちゃんは母親の子宮で育つ期間、胎盤を通じて、母親から栄養と酸素を受け取ります。しかし、子宮と胎盤のやりとりはこれだけではありません。実は、たくさんのメッセージ物質による“ミクロの会話”が母と子の間で交わされています。それが赤ちゃんを大きく育てるのです。(詳しくは「赤ちゃんの「胎盤」と母親の「子宮」が“会話”している」を参照。)

母と子をつなぐ胎盤の中にある「絨毛」という木のような構造。
この絨毛で栄養や酸素が母から子へ受け渡される。

“ミクロの会話”で臓器を作る!生命誕生に学んだ新医療

今、受精卵の中にある精巧なプログラムを利用して細胞たちに自ら“ミクロの会話”をさせることで、3次元の立体構造をもつ臓器が作り出せないか、研究が進められています。

たとえば、肝臓の場合、内部に網の目のような毛細血管がないと機能しません。

8K顕微鏡を使って世界で初めてとらえられた生きた肝臓の動画より、1枚を取り出した画像。
張りめぐらされた血管のようす(赤色)や、肝臓の細胞の核(青色)がわかる。
(西村智・自治医科大学/NHK)

横浜市立大学先端医科学研究センターでは、毛細血管を兼ね備えた「ミニ肝臓」をiPS細胞から作りだし、近い将来、重い肝臓病の子どもに移植することを目指して研究開発が進められています。(詳しくは「臓器の機能をもつ小さな細胞の塊が医療を切りひらく」を参照。)

肝臓のような機能と機能をもった細胞の塊「オルガノイド」。
わずか数ミリでありながらも、肝臓と同じような働きをもつ。
(画像:Springer Nature)