NHKスペシャル「人体」”脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体

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NHKスペシャル「人体」”脳”すごいぞ!ひらめきと記憶の正体

私たち人類が、他の動物に比べて特に進化させてきた脳。高度な社会を築き上げてきた力の源である脳の神秘を、最先端の脳科学の力を借りながら、明らかにしていきます。 2018年2月4日放送のNHKスペシャル「人体」第5集・脳では、お笑い芸人で芥川賞作家でもある又吉直樹さんの脳を最先端の脳科学で徹底解剖!W司会の山中伸弥さん・タモリさんに加え、女優・菅野美穂さんも迎えた豪華メンバーで、これまで見たことのない「全く新しい脳の姿」に迫りました。

世界初!脳の中を行きかう電気信号を丸裸に!

私たちの脳には1000億の神経細胞があると言われ、それぞれの細胞が電気信号をやりとりすることで情報を伝え合っています。番組では、脳の中を行きかう電気信号の様子を、世界で初めて、超精細CGで再現することに成功しました。(詳しくは、「ついに見えた!脳に広がる神経細胞のネットワーク」を参照)

でも、脳はただ単純に電気信号をやり取りするだけではありません。神経細胞と神経細胞との間には、ほんのわずかに小さなすき間があり、その間は電気ではなく「メッセージ物質」が飛び交って情報を伝えているのです。

CG 神経細胞と神経細胞とが情報をやり取りする「シナプス」。わずかなすき間が空いている

脳の中を飛び交うメッセージ物質の中でもっとも多くの数を占めるのが、「電気を発生させて」というメッセージを次の細胞に伝える「グルタミン酸」。このメッセージ物質があるおかげで、電気信号は細胞から細胞へ次々とリレーされていきます。そしてこの電気の伝わり方にさまざまなバリエーションを生み出すため、数十から100種類ものメッセージ物質が脳の中を飛び交っていることも分かってきました。

たとえば、「一斉に電気を発生させるぞ」というメッセージを伝える「ドーパミン」。素敵な人をみてテンションが上がったりしたときに出されるこの物質ですが、これが脳内にばらまかれると、電気信号の伝わり方が活発になり、神経細胞は一気に活性化していきます。

メッセージ物質のさじ加減ひとつで、電気信号の伝わり方に無数とも言えるバリエーションが生まれてくる。常に揺らいでいるその不安定さこそが、時に想像すらしない「ひらめき」を生み出す原動力になると考えられています。

芥川賞作家・又吉直樹さんの脳に「ひらめき」の秘密を探る!

そんな「ひらめき」の秘密を探るため今回ご協力いただいたのは、お笑い芸人で芥川賞作家でもある、又吉直樹さん。日々新たな発想を生み出し、人々を楽しませ続ける又吉さんの脳を観察すれば、「ひらめき」の謎を探るヒントが得られるのではないか?と考えたのです。

そこで、京都大学脳機能総合研究センターにご協力いただき、世界最高性能のMRIという装置を使って、又吉さんが「ひらめいた」と思った時の脳の状態を調べてみました。その時の又吉さんの脳は、広い領域が一斉に活動している状態になっていました。実は誰でもそれと同じような脳の状態に近づける、意外な方法があるというのです。それは、「ぼーっと」すること。

「ぼーっと」している時、私たちの脳は決して活動をやめているわけではなく、脳の広い領域が活性化している「デフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれる不思議な状態にあることが分かってきています。このネットワークが、無意識のうちに私たちの脳の中に散らばる「記憶の断片」をつなぎ合わせ、時に思わぬ「ひらめき」を生み出していくのではないか、と今大注目されているのです。

CG 又吉さんの脳から検出された「デフォルト・モード・ネットワーク」

私たちの記憶力のカギを握る、謎の器官「歯状回」

さらに番組では、「ひらめき」を生む上で重要となる「記憶」の秘密にも迫りました。私たちの記憶は、脳の奥深くにある「海馬」という器官で生み出され、やがてそれが脳の表面に広がる「大脳皮質」に移され、生涯にわたって蓄えられていくと考えられています。

記憶を生み出す肝心要の「海馬」で、近年、脳科学の常識を覆す大発見がありました。脳の中でごくごく例外的に、神経細胞が新しく生まれ続けていることが分かったのです。それは「海馬」の入り口にある「歯状回」と呼ばれる場所で起きていました。ここで神経細胞が新たに生まれ続けていることで、私たちは新しい記憶を次々と作り出していけるのではないかと考えられるようになってきています。(詳しくは、「記憶力アップのカギ!?海馬で起きている“大事件”・神経細胞の生まれ変わり」を参照)

CG 海馬の中にある歯状回の神経細胞。

さらに最新の研究では、この歯状回で新たに生まれる神経細胞の成長を、体のある臓器から届けられるメッセージ物質が後押ししているのではないかと考えられています。そのひとつが、私たちが物を食べたりした時に「すい臓」から出される「インスリン」。サウスカロライナ大学のローレンス・リーガン教授によれば、インスリンが届いている時と届いていない時とで神経細胞の成長を比べたところ、届いていない時には細胞の成長が格段に落ちると言います。

体の中を行きかうメッセージ物質の影響を大きく受けながら、私たちの脳は働いている。そんな脳の姿が、いま明らかになりつつあります。

「究極のネットワーク臓器」脳の解明が、認知症治療につながる

体の臓器と密接につながりながら、同時に、それ自身で独立した「ネットワーク臓器」となっている。脳をそう捉えることで、私たちを悩ませる深刻な病を克服する道筋が見え始めています。その病とは、認知症です。

認知症は、一説によればアミロイドβと呼ばれる有害なたんぱく質が脳の中にたまることで、神経細胞のネットワークが侵され、発症すると考えられています。このアミロイドβを分解する薬を脳に送り込むことで病気の進行を止めようという試みが始まっているのですが、その時にカギとなるのが、すい臓から脳に届いていた「インスリン」です。

アミロイドβの分解薬はとても大きいため、点滴で血液の中に送り込んでも、普通の方法では脳の血管の壁をすり抜けて薬を神経細胞へと届けることはできません。しかし、同じく巨大な物質である「インスリン」は脳の血管の壁をすり抜けることができます。そのメカニズムを解明し、アミロイドβ分解役を脳へ送り込むのに応用しようというプロジェクトが始まっています。

CG 薬がカプセルに包まれて血管の壁を通過していく

さらにインスリンが脳の血管をすり抜けるメカニズムを応用して作られた、「ハーラー病」という脳の病気の薬の治験が、ブラジルのポルトアレグレという街で3年前から行われ、大きな成果をあげ始めています。(詳しくは、「認知症治療の切り札に!?“血液脳関門”突破の最新プロジェクト」を参照)

体の臓器と密接につながりながらも、その内部に高度なネットワークを築き上げてきた、「究極のネットワーク臓器」としての脳の姿が、番組を通して浮かび上がってきています。

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