【特集】脳梗塞を徹底解説 主な原因と症状、治療、リハビリについて

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【特集】脳梗塞を徹底解説 主な原因と症状、治療、リハビリについて

脳梗塞は発症すると重い障害が残り、最悪の場合死に至ることもある病気です。しかしながら近年治療やリハビリが飛躍的に進歩し、早期に対処することで命を守り、後遺症を軽くすることができるようになってきています。早期発見につながるセルフチェック法も合わせて紹介。

脳梗塞とは 主な原因と症状

脳には首から太い血管がのび、さらに太い血管から分かれた細い血管が脳の奥まで張り巡らされ、脳の神経細胞の隅々まで血液が供給されています。
脳梗塞は、血栓(血のかたまり)が脳の血管に詰まるために引き起こされる病気です。脳の神経細胞に十分な血液が供給されなくなり、さまざまな障害が起こります。
動脈硬化心房細動があると血栓ができやすいため、これらの病気を持つ人は脳梗塞に注意が必要です。

細い血管が詰まる脳梗塞

動脈硬化を原因とする脳梗塞には、2つのタイプがあります。ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞です。
ラクナ梗塞は細い血管に、アテローム血栓性脳梗塞は太い血管に血栓が詰まることが特徴です。梗塞がどこに起こるかによりどちらの脳梗塞も、重いものから軽いものまでさまざまな症状が現れます。ラクナ梗塞は無症候性脳梗塞とも呼ばれ、自覚症状がなく、見つけることが困難な病気ともいえます。

無症候性脳梗塞(ラクナ梗塞)とは

「ラクナ」とは、ラテン語で「小さなくぼみ」という意味で、ラクナ脳梗塞は脳の深い場所の血管が詰まって発生する直径15mm以下の小さな脳梗塞のことです。
無症候性脳梗塞(ラクナ梗塞)は、先の細い部分が詰まるため、脳の組織に明らかな影響が起こらず、症状が現れません。ただ、症状がないからといって安心は禁物です。無症候性脳梗塞を起こした人は、命にかかわる本格的な脳梗塞や、脳出血を招く危険が高まるだけでなく、小さな脳梗塞の数が増えることによって、血管性認知症になる場合もあるのです。

健康な人でも加齢と共に頻度が高くなるといわれており、老化現象の一つとも捉えられます。無症候性脳梗塞は高齢者に多く、男性に多いという特徴があります。

無症候性脳梗塞とは

脳の太い血管が詰まる脳梗塞の場合は、脳の神経細胞が広範囲にダメージを受けるため、体のまひや言語障害などさまざまな症状が現れます。

しかし、無症候性脳梗塞の場合は症状がなく、見つけることが困難な病気といえます。しかしながら、近年MRIなどの画像診断技術が飛躍的に向上しているほか、脳ドックも盛んに行われるようになったことで、無症候性脳梗塞が見つかるようになってきました。
下の図の赤い丸で囲んだところが脳梗塞によって障害された部分です。無症候性脳梗塞では小さな梗塞が多発していることがわかります。

脳梗塞と無症候性脳梗塞の検査画像比較

無症候性脳梗塞になりやすい人とは?

無症候性脳梗塞のリスク

無症候性脳梗塞の危険因子には、加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、過度の飲酒、運動不足や喫煙、肥満、過労・ストレス、家族歴などがあります。また、糖尿病や慢性腎臓病の人も注意が必要です。
その中でも、最大の危険因子は高血圧です。高血圧が長期にわたり続くことで動脈硬化が進行し、無症候性脳梗塞の原因になると考えられています。

そこで、日々の血圧の管理が予防になります。まず食生活に注意して食塩の摂取量を減らすようにします。禁煙し、お酒を多く飲む習慣がある場合は改善します。そしてウォーキングのような有酸素運動を1日に30分程度続けて行えば、血圧を下げる効果が期待できます。降圧薬が必要な場合は、きちんと服用しましょう。
また、血圧を毎日正しく測ることも大切です。

家庭で正しい血圧の測り方を知りたい方はこちら

血管性認知症につながることも

血管性認知症は、太い血管が詰まる脳梗塞を経験した患者が、回復期に発症するケースのほか、無症候性脳梗塞の方が発症するケースが見られます。
血管性認知症は、脳の血管が詰まったり出血したりすることで、脳の細胞に必要な酸素や栄養が運ばれなくなるために起こります。
血管性認知症の症状として、記憶障害や歩行障害・転倒、頻尿・尿意切迫、まひ、感情が抑えられなくなる感情失禁などがあげられます。

血管性認知症の症状

認知症の症状に一様ではないまだら状態がみられるというのも特徴です。例として、自分の興味があることであれば明瞭に覚えられるのに、興味がない事柄についてはほとんど記憶できない場合や、朝と夜で別人のように認知機能に差が出るといった状態がみられます。

早期発見にはこうした症状を見逃さないことが大切です。血管性認知症と診断された場合は、ラクナ梗塞がこれ以上起こるのを防ぐために、血圧をしっかり管理しましょう。

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心房細動が引き起こす脳梗塞

脳梗塞の約30%は、心房細動が原因で起こっています。心房細動が原因でできる血栓は大きいものが多く、重症になりやすいのが大きな特徴です。

心房細動は、心臓の心房の収縮が不規則になって、細かく震えるようになる不整脈のことをいいます。心房細動の原因は様々ですが、特に高齢者、高血圧や糖尿病がある人の場合は注意が必要です。

一方で、心房細動は健康な人にも起こることがあり、原因を特定できないケースもあります。日本には、心房細動のある人が100万人以上いると考えられており、その原因の1つに加齢が挙げられます。高齢化が進むにつれて、心房細動のある人はますます増えると予想されています。

重症化しやすい!ノックアウト型脳梗塞

ノックアウト型脳梗塞(心原性脳塞栓症)

心房細動になると、心房の中で血液がよどみ、固まりやすくなります。そして血液の塊である血栓ができ、徐々に大きくなります。この血栓が心臓を飛び出して脳に運ばれると、脳の血管が詰まって脳梗塞を引き起こします。

このような脳梗塞をノックアウト型脳梗塞(心原性脳塞栓症)と呼びます。

心房細動によってできる血栓は、その他の血管にできる血栓に比べると大きいことが多く、流れ出て脳に到達すると根元に位置する比較的大きな血管に閉塞を起こすことがあります。そのため、脳の広範囲に障害が及ぶことになります。

ノックアウト型脳梗塞(心原性脳塞栓症)は、動脈硬化などが原因で起こるその他の脳梗塞に比べて重症化しやすく、死亡率が高いと言われています。

動悸、息切れ、胸痛などの自覚症状が現れている場合は、早めに医師に相談することをお勧めします。

脳梗塞のサイン・セルフチェック

脳梗塞は治療やリハビリが飛躍的に進歩し、早期に病気のサインを見つけて対処をすることができれば、命を守り後遺症を軽くすることができるようになってきました。

脳梗塞の3つの症状

脳梗塞は次の3つの症状が突然現れます。これらの症状が一つでも現れたら危険な状況です。

  1. 体の片側がうまく動かせない
  2. 思うように話せない
  3. 見え方がおかしい

症状1 体の片側がうまく動かせない

1. 体の片側がうまく動かない

「腕」「脚」「顔」の片側に麻痺が起こります。
「腕」に麻痺が出た場合は、手のひらを上に向けて両腕を前に伸ばすことで、脳梗塞による症状かどうか、素早くチェックすることができます。麻痺が出ている腕は、力が入らないため、手のひらが内側に向いて、腕が下がってきます。

「脚」に麻痺が出た場合は、麻痺のある側の脚に力が入らず、体が傾いてうまく歩くことができません。
「顔」に麻痺が出た場合は、本人はほとんどわかりませんが、いつも顔を合わせている家族などが見れば、いつもと顔が違って見えます。

症状2 思うように話せない

「ろれつが回らない」場合があります。「今日はいい天気です」など、短い文章を繰り返して発音してみます。言いにくかったり、途中の言葉や語尾が抜けたりします。

また、思うように言葉が出てこない、言っていることが理解できないなどの「失語症」も起こる場合があります。たとえば、「めがね」などを指差して「これは何ですか?」と質問されたとき、「めがね」と答えられないことがあります。

症状3 見え方がおかしい

3. 見え方がおかしい

両目で見ても、左右どちらかの目だけで見ても、同じ側の視野の半分が欠けてしまいます。目の病気と勘違いして、眼科を受診してしまうケースもありますが、これは脳梗塞の症状なので注意が必要です。

脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」

3つの症状が消えても要注意!脳梗塞の本格的な前兆「一過性脳虚血発作」

脳梗塞の3つの症状「体の片側がうまく動かない」「思うように話せない」「見え方がおかしい」が現れたあと、数分から数十分ほどで自然に症状が消えてしまう場合があります。場合によっては、症状が1時間以上続く場合もありますが、長くても24時間以内にすっかり消えてしまいます。
これを一過性脳虚血発作(TIA)といいます。血栓が脳の血管に詰まってしまったものの、短時間のうちに血栓がとけて血流が再開するために症状が消えるのです。

一過性脳虚血発作は、本格的な脳梗塞の前兆であるので、決して安心してはいけません。治療せずに放置すると3か月以内に6人に一人が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内に脳梗塞を発症するというデータがあります。
症状が消えたからと安心せずに早めに適切な治療を受けるようにしましょう。

ノックアウト型脳梗塞(心原性脳塞栓症)の予防は、心房細動の早期発見

心原性脳塞栓症の8~9割は心房細動が原因となって引き起こされます。心房細動をいち早く見つけることが予防につながります。

心房細動の簡易的なセルフチェック

心房細動は不整脈の一種であり、脈を測ることで簡易的にチェックすることが可能です。

【1】どちらか一方の手首を外側に回して、手首を少し手前に起こすと「しわ」ができる。

不整脈チェック

【2】親指側の「しわ」の位置に、もう一方の手の薬指の先がくるように人差し指、中指、薬指の三本の指を軽く当てる。

不整脈チェック

【3】親指の付け根のあたりで、脈を感じやすい所を探る

【4】30秒程度脈拍にふれて、脈のリズムを確認する。
この時、「ドク、ドク、ドク...」と規則正しいリズムであれば問題なし。
「ドッドドッ、ドク、ドク、ドク...」など、不規則なリズムだった場合、心房細動の疑いがあります。



脳梗塞は早期治療がカギ

脳梗塞に対する有効な治療法としては、発症から4時間半以内まで受けられる「t-PA」と、発症から8時間以内まで受けられる「血管内治療」があります。最近、「t-PA」と「血管内治療」を併用することで治療効果が飛躍的に高まることが分かってきました。

睡眠中に発症するなど、発症時間の分からない脳梗塞は、MRIを用いて発症時間を特定する研究が進められ、2019年にこの治療が安全に実施できることが示されました。

発症後4時間半以内にしか行えない「t-PA」

「t-PA」は、脳の血管を詰まらせていた血栓を溶かし、再び血液を脳の神経細胞に行きわたらせる効果があります。早い段階でt-PAを投与すれば、壊死の範囲を最小限にとどめることができます。

t-PAは血栓を溶かし、再び血液を脳の神経細胞に行きわたらせる効果がある

t-PAによる治療は、脳梗塞が発症してから4時間半以内に行わなければなりません。それを過ぎてから投与すると脳出血を起こす危険性が高くなるとされています。脳梗塞が起きて血流が遮断されると、その先の血管壁は血液が供給されないためにもろくなります。そこに血流が再開すると、血管が破れて脳出血を起こす危険性が高くなってしまうのです。

「t-PA」で治療できない場合もある

脳梗塞の発症から4時間半以内に医療機関に到着しても、診察、画像検査、血液検査などに1時間ほどかかるため、発症から3時間半以内には専門の医療機関に到着する必要があります。
ほかにも、「過去に脳出血を起こしたことがある」「脳梗塞の範囲が広い」「血圧が非常に高い」「大きな手術後2週間以内」「血液検査(血液の凝固機能や血糖値、血小板数など)に異常がある」といったケースでは、脳出血を起こす危険性が高いためt-PAを使用することができません。

発症後、8時間以内なら行える「血管内治療」

脳梗塞を発症してから4時間半を過ぎた場合でも、8時間以内であれば血管内治療を行うことができます。血管内治療はt-PAが受けられない場合や、太い血管に大きな血栓が詰まっていてt-PAの効果が得られにくい場合などに行われます。

血管内治療は、脚の付け根の動脈からカテーテルを脳の血管に送り込むことで治療します。カテーテルの先端についたデバイス(医療用装置)で、脳の血管に詰まっている血栓を取り除き、血流を再開させるのです。
最近では、機能的で安全性の高いデバイスが登場したことで、後遺症を残さなくてすむケースが増えてきました。

デバイスについて詳しく知りたい方はこちら

「t-PA」と血管内治療の併用

『脳卒中治療ガイドライン2015(追補2017対応)』では、脳梗塞を発症した患者に対しては、t-PAと血管内治療を併用して治療することを強く推奨しています。この治療法はt-PAを用いるため、原則として発症後4時間半以内の患者にのみ適用されます。

t-PAと血管内治療の併用したときの治療効果をあらわすグラフ

血管内治療には専門的な技術が必要で、治療を施せる医師が不足していることが課題となっています。

ノックアウト型脳梗塞(心原性脳塞栓症)につながる心房細動の治療

不整脈である心房細動の治療方針は2つあります。
1つは心房細動をできるだけ抑える治療、もう1つは心房細動を受け入れて管理する治療です。

心房細動をできるだけ抑える治療

【①薬物療法】

「抗不整脈薬」を使い、心房で起こる異常な電気を抑えることで発作を起こりにくくさせる効果があります。ただし、抗不整脈薬は症状を緩和できても完全に心房細動を予防することはできません。また、長期間服用していると、効果が出なくなったり、便秘や正常に尿排出ができなくなる尿閉になったり、心不全などの副作用が起こったりすることがあります。

【②カテーテル治療】

高周波電流による「カテーテル・アブレーション」

高周波電流による「カテーテル・アブレーション」を行います。足の付け根の静脈からカテーテルを送り込み、異常な電気興奮が発生する部位にカテーテルの先端を当て、高周波電流で焼く治療です。また、冷凍凝固によるカテーテル治療もあり、より広い部分を一括して治療できるため、高周波によるカテーテル・アブレーションより短時間で済みます。ただし、どちらのカテーテル治療も、カテーテルを刺した箇所からの出血や、心臓タンポナーデ、脳梗塞などが起こるリスクがあります。

心房細動を受け入れ管理する治療

薬物療法を行います。心房細動の症状の多くは、心房細動そのものではなく、心拍数や脈拍数が高いことによって起こるため、心房細動は止めずに心拍数を減らす薬を使って治療します。
この方法のメリットとしては、副作用が小さいことが挙げられます。

脳梗塞の後遺症を軽くするリハビリ

かつては、脳梗塞発症後すぐに体を動かすと、さらに症状が悪化するといわれてきましたが、現在の治療ガイドラインでは、発症直後からのリハビリが推奨されています。これにより、症状を軽くすることができ、また脳梗塞による死亡の危険性を下げることが明らかになっています。

脳梗塞のリハビリは3つの時期に分けて進めます。

発症後すぐのリハビリで後遺症も軽くなる

急性期のリハビリ

基本的には発症から48時間以内に開始することが望ましいとされ、身体機能の低下防止を目的としています。寝たきりの期間が長くなると、筋肉が萎縮したり関節が固まって、動きが悪くなる拘縮が起きたり、骨が弱くなってきたりします。体力の低下や認知機能の低下も起こります。このような状態を廃用症候群と呼びます。

急性期のリハビリ

廃用症候群の予防には、定期的に行うストレッチや座る、立つ、車いすに乗り移るなどの離床訓練が行われます。さらに食事、着替え、入浴、トイレなど日常生活に必要な動作をできるようにするADL訓練も進めます。また、ものを飲み込むことができない場合には、自分で食事をとれるようにする摂食・嚥下訓練が行われます。

機能回復訓練は、手が動かせないなどの「運動麻痺(まひ)」がある人、うまく話せなかったり言葉を思い浮かべられないなどの「言語障害」がある人、物事に集中できなかったり記憶力が低下したりする「高次脳機能障害」がある人などに対し、それぞれの症状に合わせた訓練を行います。

急性期には、脳の血流が改善して脳のむくみがとれてくるので、ある程度の麻痺は回復します。さらに適切なリハビリを行うことで、脳は新たな学習を始めます。たとえば、脳の左側が障害されて右半身の麻痺が起きた場合でも、右手を動かす訓練を続けることで、脳の別の領域の神経細胞が機能するようになります。

回復期のリハビリ

回復期のリハビリはリハビリテーション専門の病院や病床で行います。
症状の改善に加え、ベッドから一人で車椅子に乗り移る、復職の訓練を行うなど、さらに生活機能を高めるための訓練が行われます。

また、ポツリヌス菌の毒素を筋肉に注射して筋肉の緊張を緩める「ポツリヌス療法」や、脳に磁気や電気を流して刺激を与え、まひした腕の筋肉などを動かす「磁気・電気刺激療法」、ロボットが脚などの筋肉の動きをサポートして体を支えることでバランスを修正する「ロボットリハビリ」などもあります。

生活期のリハビリ

生活期のリハビリ

生活期のリハビリは、患者さんの自宅や施設で行われるため、回復期の段階から生活環境を整えておく必要があります。自宅でのリハビリのポイントは、手すりやスロープ、踏み台などで段差をなくすことです。転倒を予防し、自立した生活ができるようにします。

回復期までは病院内ですが、自宅や施設に移る生活期は、生活の範囲を広げることができます。つえや車いすを使って積極的に外出することを心がけましょう。