「人が怖い」「視線が気になる」と感じる社交不安症の症状、チェック法、治療

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セルフケア・対処社交不安症うつ状態が続く言葉が出ない震えがあるこころ全身

社交不安症とは

社交不安症の症状 赤面恐怖と視線恐怖
社交不安症の症状 書痙とスピーチ恐怖

社交不安症は、人と関わるさまざまな状況で強い不安を感じ、日常生活に支障を来すようになる病気です。かつては「対人恐怖症」と呼ばれていました。

社交不安症には、人前で顔が赤くなるのが怖い(赤面恐怖)、人前で話すのが怖い(スピーチ恐怖)、視線が怖い(視線恐怖)、人前で文字を書くと手が震える(書痙[しょけい])などのさまざまな症状があります。社交不安症では、人前で何かを行うときに極度の不安を感じ、それに伴って、発汗、震え、赤面などの症状が現れます。そのため、不安を生じさせる場面を回避するようになります。学校や職場に行けない、家から出られないというような状態になると、毎日の生活に支障を来してしまいます。
そのままにしているとうつ病やアルコール依存症を併発することもあります。

社交不安症 悪循環のメカニズム

社交不安症の悪循環のメカニズム

社交不安症のある人は、不安や緊張を隠そうと自分に注意を向け過ぎると、不安や緊張がよけいに大きくなります。やがて、人と接することを避けるようになると、人と接する際の不安や緊張がさらに大きくなります。こうして強い不安を感じる悪循環に陥ります。

不安が高まる理由

不安や恐怖を察知する脳の扁桃体

不安や恐怖を察知するのは、脳の扁桃体(へんとうたい)です。MRIで調べると、社交不安症のある人の脳は、人の顔を見たときに扁桃体が一般の人よりも過剰に反応することがわかっています。表情に敏感に反応して、強い不安が起こるのです。扁桃体の過剰な反応は、通常、論理的な思考をつかさどる前頭葉が抑えています。
しかし、社交不安症の人では前頭葉のこの機能がうまく働かず、扁桃体の反応を抑えられなくなってしまうと考えられています。

社交不安症のチェックリスト

下記のいずれかの項目に該当し、さらにその怖さが非常に強く、その状況を避けるために生活に支障が出たり、その状況を耐えるのに、ひどいつらさを感じたりすることが6か月以上続く場合は、社交不安症の可能性があります。

□人前で質問に答える、発表するなど、注目される状況が怖い。
□グループ活動に参加する、ほかの人がすでに座っている場所(宴席、会議室、教室など)へ行くのが怖い。
□人前で恥ずかしいことをしてしまい、他人から否定的に評価されることが怖い。

実際の診療では、この項目だけで診断されるわけではありません。社交不安症は、自然には治りにくい病気です。人に相談するのは勇気がいるかもしれませんが、気になることがある場合は、早めに精神科、心療内科、メンタルクリニックなどを受診することが勧められます。

社交不安症の治療

薬物療法と認知行動療法で治療します。

よく処方される薬は、抗うつ薬の一種であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。不安(症状)を和らげる一定の効果が認められています。主な副作用は吐き気、眠気です。ただし、服用し続けていくうちに慣れていくこともあります。
副作用が気になる場合は、医師に相談しましょう。なお、急に服用をやめると、めまい、頭痛、眠気、けん怠感などの「薬物中止後症状」が現れることがあります。薬を減らすときは、医師の指示に従ってゆっくり減らしていきましょう。

認知行動療法

認知行動療法は、こころの病気につながっている考え方の行動パターンの偏りを修正し、バランスをよくし、それにより症状を改善していくものです。また、バランスのとり方を身につけることでストレス対処能力が高くなり、再発予防にも役立ちます。薬よりも有効性が高いという研究結果もあり、治療の鍵となっています。

認知行動療法を受けたい場合は、専門の医療機関に問い合わせたり、担当医に相談して紹介してもらったりしたうえで、社交不安症を熟知した専門家の下で治療を行うことが大切です。

社交不安症のための認知行動療法の例

行動と注意の向きの修正

人前で不安になったとき、どんな行動をしているか、どんな感情になっているのかを書き出し、専門家と一緒に分析し、修正していきます。

例えば、自分が赤面しているのを相手に気づかれないようにと下を向く行動をしている場合は、前を見て相手に目を向ける行動に修正します。その際、あとから似顔絵を描けるくらい、相手によく注意を向けます。すると自分に注意を向ける余裕がなくなり、赤面に気づかれるのではないかという不安が起こりにくくなります。

人前に出るのが怖いCさんの例

  • Cさん 大学生
  • 授業で大勢の前で発表したとき、緊張でことばが出なくなる経験をした
  • “みんなあきれて笑っているはずだ"と思うと人前で話すことがつらくなる
  • 家に引きこもるようになってしまった

考え方(認知)や行動のパターンの偏りを修正していく2つの方法、「ビデオ・フィードバック」「人に道を聞く行動実験」を紹介します。本人のできる範囲で行い、周囲の人は無理強いしないでください。

ビデオ・フィードバック

ビデオ・フィードバック

人前で話すなど、自分が不安や緊張を感じる場面を動画で撮影し、自分を客観的に観察します。実際は自分が考えていたような状態ではないということを確認することで、自己イメージに対する認知の偏りを修正していきます。

動画のなかの自分を「他人だ」と思って客観的に見ると、自分がイメージしていたほど顔は赤くないし、大粒の汗も流れておらず、震えも目立ちません。「頭の中でできた自己イメージが悪すぎた」「これなら人並みだ」と気付きます。

人に道を聞く行動実験

社交不安症のある人は最悪な事態を予想しがちですが、実際にはそうならないことをこの体験を通して学んでいきます。はじめに、知らない人に道を聞いたとき、最悪の場合どのようなことになるかを想像します。
例えば「ばかにされる」「無視される」などが考えられます。実際に行動をしたときに、本当にそういったことが起こるかどうかを検証します。

  1. 「安全行動」をしないようにする
    社交不安症があると、人と目を合わせることを避けて下を向いてしまうなど、社交不安が生じる場面を避けたり、できるだけ不安を感じないように行動してしまいます。こうした行動を「安全行動」といいます。安全行動をしていると相手の反応がわからなってしまいます。

    【安全行動の例】
    ・相手と視線を合わせず下を向く
    ・早口でまくしたてるように話す
  2. 自分ではなく、相手に注意を向ける
    自分の顔が赤くなっていないか、汗をかいていないかなどを気にしすぎる(自分のことに注意を向けすぎる)ことがないように、相手の髪型や服装などに注意を向けると良いでしょう。
  3. 結果を確認する
    道を尋ねられた人は、ほとんどの場合、親切に道を教えてくれて、予想したような最悪のことは起こらないということを確認します。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2021年9月 号に掲載されています。

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    こころが不調になったとき「社交不安症」