NHKスペシャル シリーズ人体Ⅱ「遺伝子」 あなたの中の宝物"トレジャーDNA"

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近年、飛躍的な進歩を遂げているDNAの研究。カギを握っているのは、これまで研究者たちの間で「ゴミ」とさえ呼ばれてきた、DNAの98%を占める未知の領域です。最新の研究から、このDNAの98%という膨大な領域の中に、ゴミどころか、むしろ「宝物」のような情報が、たくさん眠っていることがわかってきました。NHKスペシャル シリーズ人体Ⅱ「遺伝子」第1集では、W司会のタモリさん・山中伸弥さんに加え、俳優の石原さとみさん・鈴木亮平さんという豪華メンバーで、あなたのDNAの中にも眠っている宝物、"トレジャーDNA"の知られざる世界に迫りました。

タモリさん、山中伸弥さん、石原さとみさん、鈴木亮平さん

「遺伝子」驚きの新世界 DNAから"顔"を再現!

今回、最新のDNA研究の進歩の凄まじさをまず教えてくれたのは、DNAから顔を再現する研究です。まだ研究途上ではありますが、アメリカではすでにこれを応用した技術が犯罪捜査に使われ、未解決だった事件の犯人逮捕に一役かっています 。

かつて小説や映画などでも描かれたSFのような技術が、なぜ今、可能になったのでしょうか。それを実現したものこそがゴミと言われてきたDNAの領域なのです。

専門家は、「DNAから顔を精密に再現するには、これまで謎とされてきた"DNAの未知の領域"の解析が欠かせなかった」といいます。

俳優・鈴木亮平さんのDNAから再現された顔
右が、俳優・鈴木亮平さんのDNAから再現された顔。

DNAの未知の領域に眠っていた宝物「トレジャーDNA」

では、DNAの未知の領域とは、いったい何でしょうか。これまで「遺伝子」と呼ばれ、詳しい解析が行われてきたのは、全DNA2%の部分に過ぎませんでした。(※遺伝子には様々な定義がありますが、ここではタンパク質に翻訳される部分を遺伝子と呼びます。)全DNAは、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)といった塩基とよばれる物質がおよそ30億並んだものです。

その30億の中でも「遺伝子」は、体にとって必要なものを作り出す「設計図」の役割を果たしています。そして、「遺伝子」ではない部分、DNAの残りの98%は何かというと、体を作る設計図の働きがないため、これまでは、「何の役割もないゴミだ」とさえ言われてきました。解析のためにかかる膨大な時間とコスト、労力から、2%の設計図が集中的に研究されてきたのです。

ところが、技術の進歩によって、DNA解析のスピードが一気に加速した今、世界中の研究者たちが、全DNAの残り98%の「ゴミ」領域の解析を進められるようになりました。その結果、ゴミと呼ばれてきた領域には、「私たちの姿形、性格、才能など、様々な個性を決める重要な情報」が、潜んでいることが次々に明らかになってきたのです。

さらに、98%のDNAの中には、「病気から体を守るDNA」も見つかり始めています。今年、発表されたのは、タバコから肺を守る力を高めるDNA。98%の中に見つかった、こうしたDNAには、肺の炎症を抑える働きなどがあると考えられ、肺の病気のリスクを、最大80%も下げていることがわかりました。

ほかにも、がんを防ぐ力を高めるDNAや、アルツハイマー病を抑え込むDNA、そして、アレルギーの発症に関連するDNAなど、健康や長寿の鍵を握るようなDNAが、ゴミと言われていた98%の部分に潜んでいたのです。

「○○が健康によい」最先端研究が明かす真実

世の中には、「○○が健康によい」という情報があふれています。チョコレートや緑茶、ヨーグルト、納豆......枚挙にいとまがありません。ところが、98%のDNA次第で、得られる効果に差が出る可能性が、浮かび上がってきました。

たとえば、世界で最も愛飲されている飲み物の一つ、コーヒー。コーヒーの健康への影響については、多くの研究が行われてきましたが、その結果は必ずしも一貫したものではありませんでした。

トロント大学のアーメド・エルソヘミー博士は、「コーヒーは心臓に良い効果があるという研究もあれば、中には、逆に悪い影響があると言う研究もあったのです。」と言います。この矛盾はいったい何なのか?コーヒーに含まれる「抗酸化物質」には、血管を若返らせ、心臓を健康に保つ働きがあります。一方、コーヒーのカフェインには、血管を収縮させ、血圧を上げる可能性があると考えられています。(※カフェインには、健康に良い働きもあります。)

そこで、エルソヘミー博士が注目したのは、98%の部分に見つかった「カフェインの分解能力を決めるDNA」。カフェインをすばやく分解できるDNAを持っている人では、コーヒーを1日1杯飲むことで、心筋梗塞のリスクが減少。2~3杯飲む人では、さらにリスクが減少することを突き止めたのです(50歳未満)。

逆に、カフェインの分解の遅いDNAを持つ人では、コーヒーを飲むことで、心臓に負担がかかってしまう可能性があることがわかったのです。(※どのくらいの人に悪影響があるかは、複数の研究があり議論が続いています。)

このように、一口に「○○が健康によい」といっても、DNAの98%が生み出す体質は、人によって千差万別。ある人にとってはすごく体によいことが、ある人には真逆に働くこともあるのです。

カフェインを分解する酵素
CG:設計図をもとにカフェインを分解する酵素(オレンジ色)をつくりだしている。

人類進化の新発見!DNAに潜む「生き抜く力」

インドネシアに、数世紀にわたり、代々、海の上で暮らしている人たちがいます。海の民、「バジャウ」と呼ばれる人たちです。彼らは、世界に類のない、驚異の潜水能力の持ち主で、潜れる時間はなんと10分以上、深さは70mにも及びます。

なぜ10分以上もの間、呼吸を止めて水中で動き続けることができるのか?彼らが持つ驚くべき身体能力の秘密を解明したのが、カリフォルニア大学のラスムス・ニールセン博士です。40人以上のバジャウの人々のDNAを調べた結果、見つかったのは、「脾臓を大きくするある特別なDNA」でした。

脾臓は、酸素を運ぶ「赤血球」の貯蔵庫で、極度の酸素不足になった時などに貯蔵していた赤血球を放出し、全身に酸素を送り出してくれると考えられています。実際に、バジャウの脾臓の大きさは、陸上生活をする普通の人のなんと平均1.5倍。バジャウの人たちは、脾臓の成長を促す物質を大量に作り出せるDNAを98%の部分に持っているため、脾臓が大きくなるとニールセン博士はいいます。

バジャウ
インドネシアの海上に暮らす「バジャウ」。素潜りで10分以上潜ることができる。

奇跡的な能力をもつ可能性は誰にでもある

こうした驚異的な能力を生み出すトレジャーDNAは、実は気づいていないだけで、あなた自身も、持って生まれている可能性があることもわかってきました。

DNA研究の世界的権威、カーリ・ステファンソン博士は、私たちが生まれるとき、両親から、半分ずつのDNAをもらうだけではなく、そこへ必ず、およそ70個の新たな突然変異が生じることを突き止めました。そして、そのほとんどは、ゴミと呼ばれてきたDNAの98%の部分で起きていることがわかったのです。わずか1世代で起こる、この変異は、「両親にない全く新しい能力」をもたらす可能性があります。

そして今、この98%の部分の突然変異こそが、人類が地球上の様々な環境へ進出できたカギだったと考えられ始めています。標高4000mの高地に暮らすチベットの人たちは、酸素が40%も少ない中で、活発に暮らしています。極寒の北極圏には、アザラシや魚ばかりの極端な動物食だけでも健康に生きられる人たちがいます。彼らの特殊な能力もまた、98%の部分に生じた突然変異によってもたらされたことがわかってきました。

70個の突然変異は、あなたの中にも必ずあります。ひょっとすると、あなたが気づいていない才能や能力が、眠っているかもしれないのです。

カーリ・ステファンソン博士
すべての人のDNAがユニークであることが、人類の進化の源泉であると語るカーリ・ステファンソン博士。

あなたの中に眠っている"ヒーローDNA"が医療を変える!

1人1人が持って生まれた、あなただけのDNA。その中から、今、「ヒーローDNA」ともいうべき、究極のDNAを探すプロジェクトが始まっていす。オックスフォード大学のスティーブン・フレンド博士、ごく普通の人々の中から「病気にならない、特別なDNA」を持つ人を探し出そうとしています。

フレンド博士たちの最初のターゲットは、「遺伝病」。遺伝病は、ある1つの遺伝子に変異があると必ず発症する病気だとされてきました。ところが、50万人を超えるDNAデータを解析したところ、その中に、遺伝病の原因を持っているにも関わらず、発症していない人が、13人いることを突き止めたのです。

フレンド博士らが発見したヒーローたちは、遺伝病の発症を抑え込むなんらかのDNAを持っている可能性があります。13人の隠れたヒーローが持つDNAの働きがわかれば、それを元に薬や治療法を見いだすことができ、病気に苦しむ人たちを救えるとフレンド博士は考えています。

フレンド博士はこう語りました。「彼らは難病の発症を防ぐ、驚くべきDNAを、生まれ持っている可能性があるのです。しかし彼らは、自分がそんな特別なDNAをもっていることには、まったく気がついていません。そんなヒーローDNAの働きが突き止められれば、難病に苦しむ多くの人を救える日が来るのです」

この記事は以下の番組から作成しています

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