「iPS細胞」と「ES細胞」を使った再生医療の最前線

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パーキンソン病心不全加齢黄斑変性胃・腸・食道肝臓脳・神経

iPS細胞を使った再生医療

iPS細胞を使った再生医療

私たちの体を作る細胞は臓器ごとに異なっています。iPS細胞は人工的に操作することで ほぼすべての細胞に変化できます。これを「分化」と言います。このことから、iPS細胞は「万能細胞」と呼ばれます。

iPS細胞を使った再生医療

iPS細胞を使った再生医療の研究開発は加速しています。脳・神経ではパーキンソン病や脊髄損傷、心臓では心不全、眼では加齢黄斑変性や角膜移植、血液では血小板減少症などで、臨床試験が開始または予定されています。

もう1つの万能細胞-ES細胞

万能細胞はiPS細胞のほかにもう1つあります。それがES細胞です。

ES細胞

ES細胞
ヒトES細胞

1つの細胞である受精卵は分裂を繰り返し、数日後には胚盤胞(はいばんほう)というものになります。胚盤胞は体のどの部分にもなれる能力を持っています。胚盤胞の内部から細胞のかたまりを取り出して、特別な条件で培養したものがES細胞です。ES細胞は、iPS細胞と同じく体のほぼすべての臓器に変化(分化)できます。

iPS細胞とES細胞

ES細胞はどこから

ES細胞は、不妊治療が行われた際、使われずに保存された受精卵の提供を受け、その胚盤胞から作られます。受精卵を使うことから、研究や治療が適切に行われるよう、国が指針を定めています。「ヒトES細胞の樹立に関する指針」、「ヒトES細胞の使用に関する指針」、「ヒトES細胞の分配機関に関する指針」です。

ES細胞から「ミニ腸」

ES細胞から「ミニ腸」

国立成育医療研究センターの研究所では、ES細胞から私たちの腸に似たものが誕生しました。1センチほどの大きさで「ミニ腸」と呼ばれています。培養液のなかで1年以上生きています。

ミニ腸
ミニ腸

私たちの腸は、食べ物を送る「ぜん動運動」をしますが、ミニ腸もそれに相当する運動をします(左がその運動をしているときの拡大画像)。ミニ腸には筋肉の細胞や神経の細胞があるのです。また栄養を吸収する細胞もあり、実際に栄養物質(ペプチド)を内部に取り込むことができます。さらに、ミニ腸は便秘と下痢の薬に反応することもわかりました。つまり、ミニ腸は、本物の腸と同じように働くことができるのです。

ES細胞はさまざまな細胞に変化する能力を持っていますが、ES細胞を1つの臓器に近いものにまで成長させたことは、大きな成果だと考えられています。

ミニ腸はこうして誕生した

ES細胞はなぜミニ腸にまで成長できたのでしょう。その秘密はES細胞を培養するシャーレにありました。

シャーレの底の限られた部分にだけES細胞が集まるようにしたのです。さまざまな形を試した結果、小さい丸のパターンが選ばれました(上)。直径は1.5ミリです。

その結果、ねらい通りES細胞が丸の中に集まってきて、盛んに分裂を始めました(上)

その結果、ねらい通りES細胞が丸の中に集まってきて、盛んに分裂を始めました(上)

ES細胞 40日後

40日後(上)。数種類の細胞からなる丸い塊(かたまり)が浮き上がってきました。1.5ミリの限られた丸の中で立体的に成長させると、なぜか腸の組織ができたのです。

ミニ腸を移植すると...

私たちの腸は管の形をしていて、内側から栄養を吸収します。一方、ミニ腸は丸い形をしていて、外側から栄養を吸収します。この点でミニ腸は私たちの腸と異なっています。

マウスの体内

ところが、ミニ腸をマウスの体内に移植したところ、ミニ腸は管の形(リングの形)に変化し、しかも栄養を吸収する細胞が内側に変わりました(上)。ミニ腸を体の中に入れると、腸の本来の形になる可能性があるのです。

ES細胞で病気の治療

高アンモニア血症

国立成育医療研究センターは、ES細胞で病気を治療する臨床試験を行います。生まれたばかりの高アンモニア血症という重い肝臓病の赤ちゃんが対象です。アンモニアを肝臓で分解できないため、そのままでは重い後遺症や死につながることがあります。

ヒトES細胞からつくった肝臓の細胞

そこでまず、ES細胞から肝臓の細胞を作ります。赤く見える1つ1つが作られた肝臓の細胞です(上)。

ヒトES細胞からつくった肝臓の細胞を病気の赤ちゃんに注入

この肝臓の細胞を病気の赤ちゃんに注入します。注入は へその緒を通してカテーテルで行います。注入した正常な肝臓の細胞が増殖し、アンモニアを分解できるようになると期待されています。

3か月ほど後には肝臓移植を行います。生まれたばかりの赤ちゃんは、体重が少ないため、通常の肝臓移植を安全に行うことができません。そこで、ES細胞で作った肝臓の細胞を注入して、3か月ほどの間、命をつなぎ、後遺症も起こさないようにするのです。ES細胞を使った病気の治療は日本では初めてです。

※2020年5月、国立成育医療研究センターと日本医療研究開発機構は、ES細胞で作ったこの肝臓の細胞による治療を、生後6日目の新生児に実施し、生後5か月で生体肝移植術を実施したと発表しました。世界で初めてのES細胞による肝細胞移植ということです。

体性幹細胞 私たちの体にある幹細胞による再生医療

体性幹細胞 私たちの体にある幹細胞による再生医療

私たちが本来持っている細胞、「体性幹細胞」による臓器再生の研究も進められています。骨髄にある間葉系幹細胞を使った脊髄損傷の治療は、すでに札幌医科大学で実用化が始まっていて、脳梗塞を治療する研究なども進められています。

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
    体感しよう!先端医療の世界「主要な臓器を再生せよ!」