AI(人工知能)が大腸がんの診断をサポート
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AIの医療応用
AI(人工知能)の医療応用が広がっています。現在はがんの画像診断が中心です。大腸がんの診断ではAIの応用が特に進んでいます。
大腸がんは内視鏡検査で早期発見

大腸がんは早期発見・早期治療すれば大半が完治します。早期発見に欠かせないのが内視鏡検査です。内視鏡の直径は1センチ前後。これを肛門から挿入して検査します。早期がんや前がん病変(がんになる可能性の高いポリープなど)が見つかったら、すぐに内視鏡で切除して治療を終えることもよくあります。この大腸がんの内視鏡検査に、AIが導入されようとしています。
AIが大腸がんを発見

国立がん研究センターは、大腸がんの診断をAIがサポートするシステムを、企業と共同開発しました。医師が内視鏡で大腸を検査しているときに、AIがリアルタイムでがんや前がん病変を発見するシステムです。発見するとモニターの映像でがんなどを線で囲み、音を鳴らして医師に知らせます。
このシステムは、大腸がんのうち、隆起したタイプの早期がんと前がん病変であれば、98%発見できます。その後、平たく広がって見つけにくいタイプの大腸がんも学習し発見できるようになりました。現在システムの最終的な試験を行っており、まもなく実際の内視鏡検査で使用され始める予定です。
※2021年1月、この「内視鏡AI診断支援医療機器ソフトウェア」は医療機器として承認されました。
なぜAIが必要?
このシステムを導入する目的は、内視鏡検査で大腸がんの見逃しを防ぐことです。内視鏡の専門医は、大腸がんをかなり確実に診断しますが、それでも疲労しているときは診断精度が低下するという報告があります。しかしAIは疲れるということがありません。
また、人間は1点を注視すると、周囲に注意が向きにくくなるのに対し、AIは視野の全域に等しく注意を向けられます。このように、医師とAIが力を合わせることで、大腸がんを克服できる日がくると考えられています。
AIの学習方法
AIは大腸がんをどのようにして見つけるのでしょう。このシステムの開発では、実際の大腸がんの内視鏡検査の動画や静止画を大量にAIに学習させました。その数およそ1万例。比較のため、大腸がんではない正常な大腸の画像も学習させました。
その際、内視鏡の専門医は、大腸がんの特徴として、色調・性状・段差などをAIに教え込みました。しかしそれだけでなく、このシステムでは、人間が教えていない大腸がんの特徴をAIが自ら見つけ出していきます。ディープラーニングと呼ばれる学習方法によるものです。専門医がはっきり言葉では伝えにくいような、がんの微妙な質感などを、AIは独自に学習していると考えられます。
さまざまな画像を学習


内視鏡検査では、大腸に着色をしたり特殊な光を当てたりして、より詳しく調べることがあります。また、「拡大内視鏡」を使って観察できる「ピットパターン」という表面の模様は診断に重要です。このシステムのAIは、これらの画像も学習しています。診断の精度がさらに高まることが期待されています。
医療分野の人工知能の研究開発

大腸がんのほか、胃がん、乳がん、皮膚がん、脳動脈瘤(りゅう)、アルツハイマー病などでも人工知能の研究開発が進められています。これらの多くは画像を解析するものですが、がんの治療法の選択など、画像解析ではないAIの医療応用の研究も進められています。