がん治療中にやせる原因とは 体重を増加させる食事の仕方を解説

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食で健康づくりやせてきた食欲がない吐き気全身筋肉

がんの患者さんは、やせやすい

がんの患者さんは、やせやすい

一般的に、がんの患者さんはやせやすいとされています。その理由はいくつかあります。まず、がん細胞は通常の細胞と比べて、多くのエネルギーを消費します。また、がん細胞は筋肉の中のたんぱく質を分解し、これを栄養として成長していくため、筋肉量も減ってしまします。

食欲不振

さらに、がんの患者さんのなかには、抗がん剤の副作用として起こる吐き気やおう吐、味覚障害のほか、不安などによって、食欲不振に陥る人が少なくありません。食道がんや胃がんの患者さんでは、手術でがんを切除したことによって、今までと同様の食事がとりづらくなることも、やせる原因となります。

やせると、がんの再発・転移や感染症を起こしやすい

体がやせていくと、筋肉量が減少し、全身のたんぱく質の量が減っていきます。たんぱく質は体の組織や免疫に関わる物質の材料になるので、たんぱく質の量が減ると体力や免疫の働きが低下し、がんの再発・転移や感染症が起こりやすくなります。

このようなことを防ぎ、がんの患者さんが体力や免疫の働きを高いレベルで維持するためには、しっかり食べることが大切です。抗がん剤治療中でも、1日3食きちんと食べている患者さんは、副作用が出にくいことがわかっています。

積極的にとりたい栄養素 たんぱく質やアミノ酸「BCAA」

筋肉をがんから守るために

がんの患者さんが積極的にとりたい栄養素は、主にたんぱく質です。たんぱく質を構成するアミノ酸の中には、「BCAA(分岐鎖アミノ酸)」と呼ばれるものがあります。BCAAには、筋肉の中のたんぱく質が分解されるのを抑えると同時に、筋肉の合成を促す働きがあります。BCAAは、まぐろやかつお、鶏肉、豚肉、牛肉などに特に多く含まれています。

たんぱく質を十分にとるために

魚や肉はたんぱく源でもありますから、1日3食、主菜としてとることが理想です。しっかり食べるようにしましょう。このほか、卵、チーズ、牛乳、ヨーグルト、豆腐、納豆などもたんぱく質が多く含まれる食品なので、意識して献立に取り入れてください。

ビタミンDも重要です。ビタミンDは骨の合成を促すことが知られていますが、近年、筋肉の合成を促す作用もあることがわかってきました。ビタミンDを豊富に含む魚介類や卵、きのこ類を、たんぱく質を含む食品と一緒にとると、相乗効果が期待できます。例えば、鶏肉と卵で親子丼、ステーキにきのこの付け合わせなど、食べるタイミングを合わせるようにしましょう。

やせないためには摂取エネルギー量を多めにする

がんの患者さんは、摂取エネルギー量も、健康な人に比べて多くする必要があります。通常、健康な場合の1日に必要な摂取エネルギー量は、「基礎代謝(じっとしていても消費されるエネルギー量)」×「日常の活動レベルに応じた活動係数」で計算します。
たとえば、55歳の男性で主にデスクワークをしている場合、基礎代謝量が1400kcal、活動係数を1.2とすると、1日に必要な摂取エネルギー量は1680kcalとなります。

55歳男性の摂取エネルギー量

がんの患者さんの場合は、これにさらに1.1~1.5程度の数値をかけます(この数値は医師などが決定します)。
前述の男性が手術後に抗がん剤治療を受けているとすると、状況に応じて、例えば1.3倍のエネルギー量が必要などと判断されます。この場合、1日に必要なエネルギー量は、「1400×1.2×1.3=2184kcal」となります。

がん患者の摂取エネルギー量

摂取エネルギー量を増やす工夫

体力的に食事をしっかりとるのがつらい場合は、チョコレートやナッツ類、オリーブオイルをはじめとする植物油など、少量でも高エネルギーのものをこまめにとることで摂取エネルギー量を補えます。例えば、植物を調理に使うだけでなく、ドレッシングのように料理にかけて使うことでも、手軽に摂取することができます。

エネルギーを多くとるには、ごはんやパンなど、糖質を含む食品もしっかり食べることが大切です。糖質(ブドウ糖)は体や脳、そして赤血球のエネルギー源として欠かせないものです。そのため、がんの患者さんが糖質を極度に制限すると、意識障害や手足の指先のしびれ、運動障害、高度の貧血などが起こりやすくなってしまいます。また、糖質の制限は、全身の細胞に悪影響を及ぼすこともあります。がんの種類によっては、健康な細胞ががん細胞を取り囲むことで、がん細胞の成長を抑えることがわかってきています。適量の糖質を摂取することは、健康な細胞の働きを助け、がん細胞の成長を抑えることにもつながると考えられます。

大切なのは、できるだけ家族や周囲の人と食事をすることです。楽しさや満足感を得やすく、結果的に食べる量が増えるようになります。

食事をとりづらいときの工夫

しっかり食べるために

食事を思うように食べられない場合、食べやすいものからゆっくり食べたり、食べ物を軟らかく調理するなどの工夫をしましょう。食べられない原因に応じて、食べ方や調理のしかたを工夫することも必要です。

吐き気・おう吐がある場合

例えば吐き気やおう吐がある場合、食べ物のにおいや刺激に誘発されて起こることがあります。それを防ぐため、においが強いものや、辛みや酸味などの刺激の強いものは避けるようにしましょう。また、炊きたてのごはんのにおいなどを気持ち悪く感じることがあります。このような場合は、冷やすことでにおいが抑えられると、食べやすくなります。

吐き気やおう吐があると食べ物がのどを通りにくくなるため、ゼリーやプリン、卵豆腐、水分の多い果物や野菜など、のどを通りやすい軟らかいものを、無理せず少しずつ食べるようにしましょう。

肉や魚をやわらかく加工した食べやすいメニュー

肉や魚をやわらかく加工した食べやすいメニュー
肉や魚をやわらかく加工した食べやすいメニュー

高齢の患者さんや体力が低下した患者さんでは、肉や魚をかみ切って食べることが難しくなってきます。そのような患者さん向けに、箸で軽く触れただけで切れるように肉や魚などをやわらかく加工したメニューを届ける宅配サービスがあります。電話やインターネットなどで注文できるので、活用するのも一つの方法です。

悩みや心配事がある場合 栄養サポートチームを活用

NST

現在、全国約1500の医療機関に「栄養サポートチーム(NST)」が設置されています。栄養サポートチームは、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、歯科医師や歯科衛生士、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士などさまざまな専門職で構成されています。

栄養サポートチーム(NST)

多くの専門職が関わることで、個々の患者さんの栄養状態を総合的に評価して最適な栄養管理を考えることができ、患者さんに何か変化があった場合でも速やかに対応することが可能です。また、たくさんの人と関わることで、患者さん側も気軽に相談できるスタッフに出会いやすくなります。

食べられない、やせてきたなど栄養状態が心配な患者さんや家族は、栄養サポートチームの介入を主治医に相談しましょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2019年2月 号に掲載されています。

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