希少がんの1つである「小腸がん」とは


小腸にはさまざまな種類の悪性の腫瘍〔できもの〕ができますが、それらを総称して小腸がんと言います。
小腸がんは、患者数が極めて少ない希少がんの1つです。人口10万人に対して1年間に新たに小腸がんを発症する人は、男性2.61人、女性1.77人という推計値があります。同じ消化器の胃がんや大腸がんと比べると、とても少ない割合となっています。
小腸がんの患者数が少ない理由
小腸は胃と大腸の間に存在するため、細菌やウイルス、飲食物などによる外からの刺激を受けにくい臓器であることが、小腸がんが発症しにくい理由の1つと考えられています。
小腸がんの早期発見が難しい理由

小腸がんは早期発見が非常に難しい病気だといわれています。その理由は主に2つあります。
1つは病気の初期に自覚症状が出にくいこと、もう1つは通常の内視鏡(胃カメラや大腸カメラ)では小腸まで届かないため検診による発見が難しいことです。そのため、小腸がんは進行した状態で見つかるケースがほとんどです。
小腸がんが進行して現れる症状

小腸がんの大半は、がんが進行し大きくなったことによって現れた症状から発見されます。
がんが大きくなると、腸が塞がれる腸閉塞により、腹痛や吐き気、おう吐が起こります。また、患部からの出血により、下血や貧血が起こります。こうした症状をきっかけとして受診し、発見される場合が多いのです。
主な小腸がんのタイプ

小腸がんで特に多いのが、神経内分泌腫瘍と腺がんです。
神経内分泌腫瘍は、小腸の粘膜に存在し、消化を助けるためのさまざまなホルモンを分泌している内分泌細胞から生じるがんです。さらに神経内分泌腫瘍は、「NET」と悪性度がより高い「NEC」の2つに大きく分かれ、特徴や治療法が大きく異なります。
腺がんは、小腸の表面・粘膜の層から生じるがんです。
NETとNECの特徴


NETは、進行がほかのがんに比べて緩やかであること、また一部の患者さんに、腫瘍が分泌するホルモンによって、ホルモン産生症状が現れることが特徴です。ホルモン産生症状は、血管に作用するセロトニンなどのホルモンが過剰に分泌されることで起こる症状です。顔の紅潮やほてり、下痢や腹痛などさまざまな症状が起こります。
また、セロトニンの分泌が過剰になった状態が長期間続くと、心臓の内膜が硬くなり、心臓の機能が低下する心不全につながることもあります。ただ、ホルモン産生症状が現れない患者さんも多く、その場合は進行した状態で起こる腸閉塞による腹痛、あるいは下血、貧血などの症状で見つかることが大半です。また、NETは肝臓に転移しやすいため、その場合は肝機能の数値の異常をきっかけに見つかることもあります。
NECは、悪性度が高く腫瘍が大きくなるスピードが速いため、多くの場合進行した段階で見つかります。
また、腫瘍が小さいうちからほかの臓器に転移してしまうことが珍しくありません。ホルモン産生症状が起こることはまれです。
腺がんの特徴
腺がんは、初期には症状が現れにくく、がんが進行したことによる腸閉塞や、下血、貧血などをきっかけにして診断されるケースがほとんどです。NECほどではないが悪性度が高く、約半数の患者さんが、診断時にはすでにほかの臓器へ転移しているとされています。
小腸がんの中でも腺がんは、非常に情報が少ないために治療法が確立しておらず、課題の多いがんといわれています。
腺がんになりやすい人の特徴

腺がんは、クローン病や潰瘍性大腸炎など腸に炎症が起こる病気や、腸に無数のポリープができるポリポーシス、腸からの栄養の消化・吸収がうまくいかなくなる吸収不良症候群、大腸がんなどを発症しやすい遺伝性の病気であるリンチ症候群といった病気があると、発症リスクが高くなるとされています。
しかし、これらの病気があるからといって必ずしも腺がんを発症するわけではありません。NETやNECも含めて小腸がん自体が極めてまれな病気ですから、腹痛などの症状やクローン病などのリスクがあっても、すぐに小腸がんだと思い込んだり慌てたりせず、まずはかかりつけ医に相談してください。