驚異のメッセージカプセル「エクソソーム」

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臓器同士が"メッセージ物質"を使ったやりとりをしていることがわかってきましたが、近年注目されているのが「エクソソーム」と呼ばれる"メッセージ物質"です。従来のものと異なる「ある特徴」があり、それを活かした治療などへの応用研究が進んでいます。

エクソソームを模した風船。人体には100兆個あるとも言われ、さまざまなメッセージを運んでいると考えられている。
エクソソームを模した風船。人体には100兆個あるとも言われ、さまざまなメッセージを運んでいると考えられている。

エクソソームの解明

エクソソームとは細胞が出すカプセル状の物質です。電子顕微鏡で拡大してみると、突起がついた丸い玉の形をしています。大きさはわずか1万分の1ミリしかありません。このエクソソーム、体の中のあらゆる細胞が出しています。血液中に含まれるエクソソームの数から計算すると、私たちの体の中にはエクソソームが100兆個以上流れていると考えられています。

さらに、エクソソームにはある特徴があります。それはその中に様々な"メッセージ物質"が詰まっていることです。その一つが、マイクロRNAという遺伝物質。マイクロRNAはDNAの仲間で、遺伝子の働きを制御することが知られています。もともと細胞の中にだけ存在していると考えられてきましたが、今から11年前にスウェーデン人の科学者ヤン・ロトバルさんがエクソソームの中に含まれていることを発見しました。それ以来、エクソソームの働きを解明する研究が世界中で行われています。

エクソソームの中にマイクロRNAが含まれていることを発見したスウェーデン人の科学者ヤン・ロトバルさん。エクソソームの中に含まれるマイクロRNAの模式図を書いている。

エクソソームの中にマイクロRNAが含まれていることを発見した科学者ヤン・ロトバルさん。エクソソームの中のマイクロRNAの模式図を書いている。

エクソソームの病気との関連性

現在解明されてきているのが、エクソソームと病気の関連性です。体の中の細胞は常にエクソソームを分泌していますが、病気になるとその分泌量は増えるといわれています。

そのひとつががんです。がんはこれまでサイトカインなど様々な"メッセージ物質"を出していることが研究されてきましたが、がん細胞はエクソソームも出していることが確認されています。たとえば、がんが他の臓器へ広がる「転移」。この転移に、がん細胞が出すエクソソームが大きく関係していることが明らかになってきました。そのひとつが卵巣がんの腹膜への転移です。

女性の子宮の奥にある卵巣は親指くらいの大きさしかなく、がんができても痛みがなく気が付きにくいがんです。その結果、内臓表面を覆い保護している腹膜に転移するケースが知られています。がんは腹膜に一旦転移すれば、腹膜内のあちこちに広がる「播種(はしゅ)」と呼ばれる状態が起きます。がんが腹膜に広がってしまうと、治療する範囲が広がり治療は困難になってしまいます。

しかし、本来腹膜の表面には、突起物がびっしりと敷き詰められ、がん細胞など異物の侵入を防ぐバリアの役割を果たしています。そのため、どうやって腹膜へと転移するのか謎に包まれていました。ところが、卵巣がんが放出したエクソソームが腹膜へと付着し、腹膜を作っている細胞の中へ侵入。すると、エクソソームの中に入った"メッセージ物質"が相手に届きます。そのメッセージはいわば「あなたの役割はもう終わり」という、死のメッセージ。すると、腹膜の表面の細胞が死滅しはじめるのです。こうしたやりとりが何度も繰り返されるうち腹膜の表面にクレーターのような大きな穴が生まれ、そこに卵巣がんの細胞が付着。がん細胞はその穴から腹膜に入り込み、難なく増殖を繰り返していくといいます。

エクソソームはがんのほかに、認知症や神経難病といった病気とも関連があることが明らかになっています。

腹膜がもつ突起物に近づいていくエクソソーム(CG)。卵巣がんからの腹膜転移がどのようにおこるのかを国立がん研センター研究所の落谷孝広さんらのグループが報告している。

CG 腹膜がもつ突起物に近づいていくエクソソーム。卵巣がんからの腹膜転移がどのようにおこるのかを国立がん研センター研究所の落谷孝広さんらのグループが報告している。

健康を支えているエクソソーム

一方、エクソソームは病気の原因となっているだけでなく、私たちの健康を支えるための重要な役割を果たしていることも知られています。たとえば、受精です。実は卵子は膜の表面にエクソソームを分泌しています。本来、このエクソソームは膜の老化を防ぐための役割があるのですが、これが精子が卵子の中へ入っていくときの鍵のような働きをしています。実験では卵子の表面にエクソソームがない卵子の場合、精子は中へ入ることができず受精できませんでした。将来、不妊治療などへの応用が期待されています。

アセロラを手にする女性。フランスの大手化粧品会社が見いだした肌の細胞が出す

アセロラを手にする女性。フランスの大手化粧品会社が見いだした肌の細胞が出す"メッセージ物質"「エクソソーム」を阻害する物質は、植物のアセロラから得られた物質だという。

さらに、肌の老化との関連性も指摘されています。フランスの大手化粧品会社では肌の細胞同士がエクソソームのやりとりをしていることを明らかにしました。肌を構成するケラチノサイトと呼ばれる細胞は、紫外線を浴びると、エクソソームを分泌します。すると、それをもうひとつの細胞メラノサイトが受け取り、今度はメラニンという物質を分泌します。このメラニン、肌を紫外線から守ることがわかっていますが、それがしみやそばかすの原因となってしまうのです。

そこで、メカニズムを解明した化粧品会社はこの仕組みと関係する、様々な成分を分析。それをもとにした化粧品も開発しています。

カプセル状のエクソソームの膜は、細胞がもつ細胞膜と同じような物質でできている(CG)。そのため、簡単に細胞内に入り、中に含まれるマイクロRNAなどの物質を使って遺伝子の働きを変更することができる。

CG カプセル状のエクソソームの膜は、細胞がもつ細胞膜と同じような物質でできている。そのため、簡単に細胞内に入り、中に含まれるマイクロRNAなどの物質を使って遺伝子の働きを変更することができる。

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル放送
    NHKスペシャル「人体」第7集 “健康長寿”究極の挑戦