生命誕生の神秘!臓器をひとりでに生み出す"メッセージ物質"の働き

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人体(NHKスペシャル)

私たちの体の中にはたくさんの「臓器」があり、1つ1つの臓器は、さまざまな種類の「細胞」から構成されています。たとえば「胃」という臓器1つとっても、胃酸を出す細胞、胃壁を保護する粘液を出す細胞、胃を動かす筋肉の細胞、血管の細胞・・・などなど、多くの細胞がいます。こうした多彩な細胞たちがいるからこそ、臓器は役割を果たすことができ、私たちの体は成り立っているのです。全身にいる細胞は200種類以上といわれています。

人の体には200種類以上の細胞があると言われる。これらの画像はそうした細胞の姿を映し出したほんの一部。(画像:National Institutes of Health、甲賀大輔・旭川医科大学/NHK)
人の体には200種類以上の細胞があると言われる。これらの画像はそうした細胞の姿を映し出したほんの一部。(画像:National Institutes of Health、甲賀大輔・旭川医科大学/NHK)

複数の"メッセージ物質"が精緻に関連して臓器ができる

生命誕生の過程では、たった1つの細胞(=受精卵)が分裂を繰り返していくうちに、いつの間にか数多くの種類に分かれ(分化)、ひとりでに臓器を形作っていきます。いったいどうやったら、そんなことができるのか?生命誕生の最も神秘的な部分ともいえます。

その謎を解くカギが、細胞同士が情報をやりとりする"メッセージ物質"の働きにあることが最新の研究でわかってきました。NHKスペシャル「人体」第6集には、心臓を作るメッセージ物質として「WNT(ウイント)」、肝臓を作るメッセージ物質として「FGF(エフジーエフ)」が登場しました。

ピンク色の構造物が、心臓を作り出す糖タンパク質「WNT(ウイント)」(画像:ミオ・ファティリティ・クリニック(受精卵))

しかし、これらの"メッセージ物質"が1つだけで心臓や肝臓が作れるわけではありません。臓器を完成させるまでには、数多くの"メッセージ物質"が関係します。しかも、物質の組み合わせが少し違ったり、タイミングがちょっとズレたりするだけでも、細胞がまったく別の種類に変化してしまい、臓器を作れなくなることもわかってきました。細胞同士のメッセージのやりとりは非常に精密なものなのです。

一つの受精卵から200種類もの細胞になるようすを簡略化した模式図。iPS細胞やES細胞は、受精卵ととてもよく似た性質をもつ細胞で、さまざまな細胞になる能力をもつ。(画像:甲賀大輔・旭川医科大学、山本恒之・北海道大学)
一つの受精卵から200種類もの細胞になるようすを簡略化した模式図。iPS細胞やES細胞は、受精卵ととてもよく似た性質をもつ細胞で、さまざまな細胞になる能力をもつ。
(画像:甲賀大輔・旭川医科大学、山本恒之・北海道大学)

iPS細胞やES細胞による「臓器をつくる仕組み」の解明

こうした仕組みがわかってきたのは、ヒトのiPS細胞やES細胞を使った研究のおかげです。これらの細胞は受精卵に近い性質を持っており、さまざまな細胞に分かれていく(分化していく)ようすをシャーレの上で実験して調べることができるからです。いま世界中の科学者たちが、iPS細胞やES細胞に"メッセージ物質"を人工的に与えて、さまざまな臓器に導く方法を探っています。臓器を作る仕組みは非常に複雑で、まだまだわからない部分も多く残っていますが、"メッセージ物質"に注目することで謎がどんどん解き明かされはじめているのです。

この記事は以下の番組から作成しています

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