がんと診断された人が5年後に生存している割合「5年生存率」を見ると、全てのがんの5年生存率の平均は66.4%なのに対して、大腸がんに限ると72.6%と、平均を上回っています。他のがんに比べると、大腸がんは手術で治しきれる可能性が高く、また、万一進行しても、抗がん剤による化学療法が比較的よく効くといわれています。
大腸がんの治療法はがんの進行度と位置で選択
大腸は長さ1.5m〜2m、直径約5cmの臓器で、主に結腸と直腸に分かれています。
大腸の壁は5つの層で構成されていて、大腸がんは一番内側にある粘膜から発生して、徐々に大きくなり、深く潜っていきます。治療方法はがんがどこまで潜っているかで決まります。
がんが一番内側の粘膜か、その下の粘膜下層の浅い部分にとどまっている比較的早期の場合は「内視鏡治療」でがんを切除します。一方、粘膜下層に1mmを超えて食い込んでいる場合は「手術」が行われます。

内視鏡治療
代表的な方法には、「ポリペクトミー」「内視鏡的粘膜切除術」「内視鏡的粘膜下層剥離術」の3つがあり、どの方法にするかは、腫瘍の形や大きさによって決まります。
きのこ型の茎を持った腫瘍の場合
「ポリペクトミー」という方法が行われます。
「ポリペクトミー」とは、腫瘍の茎にスネアという金属性の輪をかけて、高周波電流を流して茎を焼き切る方法です。治療は5分ほどで終わり、痛みも感じません。



茎をもたない、平たい腫瘍の場合
「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」という方法が行われます。
粘膜下層に生理食塩水などを注射して腫瘍を持ち上げ、スネアを使って腫瘍を取る方法です。
これも5分ほどで終了します。



最大2cm以上の大きな腫瘍の場合
「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」という方法が行われます。粘膜下層に特殊な液を注射して腫瘍を持ち上げて、電気メスを使って粘膜下層を剥がし取る方法です。
治療時間は30分以上、場合によっては2〜3時間かかります。



ただし、粘膜下層より食い込んでいる場合は、転移している可能性があるため、手術が必要になります。大腸は、主に結腸と直腸に分かれていて、結腸がんが約7割、直腸がんが約3割と考えられています。がんがどちらにあるかによって手術法が違ってきます。
がんの位置によってかわる手術の方法
結腸がんの場合
がんのある場所から前後10cmを目安に腸管を切除します。その腸管の周囲にある血管やリンパ管を含んだ腸間膜を扇状に切除し、見えていないがん細胞も取ってしまうことで再発や転移を防ぎます。

直腸がんで、肛門から離れている場合
がんのある場所から肛門に向かって2〜3cm程度、反対側は直腸と周囲の血管とリンパ節を含んだ腸間膜、結腸の一部を切除します。

肛門から近い場合
肛門ごと直腸を大きく切除し、腹部に人工肛門をつくります。

これまでは、肛門から5cm以内にがんができた場合には、人工肛門を作る必要がありましたが、最近では肛門を温存できる手術(ISR)が行われるようになってきました。肛門を締める働きをする筋肉には「内肛門括約筋」と「外肛門括約筋」があり、このうち「内肛門括約筋」のみを切除することで、肛門を温存するという方法です。

肛門を温存できるかどうかは、CTスキャン、MRI、内視鏡検査のほか、医師ががんに直接触れて診断する触診で判断します。
- がんと肛門括約筋の距離があまり近づいていない
- がんが深くなく、悪性度が低い
などの条件がそろえば、できるだけ肛門を温存するようにしています。
しかし、肛門を残すのが必ずしも最良の方法ではありません。なぜなら、肛門を残すことで、がんの再発のリスクが高まる場合があるからです。また、肛門を残しても、うまく機能しないと失禁が増加して、日常生活に支障が出る場合もあります。その一方で、人工肛門の性能は向上していて、現在ではかなり扱いやすくなってきています。
人工肛門とは?
人工肛門とは、腹部に人工的に作られた肛門のことで、「ストーマ」とも言われています。
人工肛門という器具があるのではなく、腸の一部をおなかの表面に出して、そこから便が出せるようになっています。
使用方法
人工肛門にパウチと呼ばれる専用の器具を付けて、便がたまったらパウチを開き、便をトイレに流すことができます。パウチは週に2〜3回新しいものと交換します。
人工肛門を扱う上で注意すること
人工肛門の形や皮膚の性状に適したパウチを選択してください。パウチと肛門周囲の皮膚との接着が十分でないと便が漏れてしまいます。人によっては、パウチの接着剤や皮膚についた便で皮膚炎を起こすこともあります。日常生活をする上で問題があると感じた場合は、「ストーマ外来」で医師や看護師に相談しましょう。
パウチはぴったり張りつくので、においは漏れません。はがれることもないので、運動も可能です。食事に特別な制限もなく、旅行も可能です。肌色をして目立たない入浴用のパウチもあるので、温泉や銭湯など人が多く集まる場所にも行けます。
肛門温存と人工肛門を選択した患者さんの例
肛門温存の患者さんの例
健康診断で大腸がんが見つかった40代のAさん(男性)の場合。すぐに内視鏡で腫瘍を全て切除する治療を受けましたが、再発する可能性をより低くするため、外科手術を受けることになりました。Aさんのがんの位置は肛門から5cm。手術の結果、なんとか肛門を残すことができました。しかし、手術の後は排便障害に苦しみました。
Aさんは外出の際は必ずトイレの位置を確認したり、大事な商談の前日は、おなかをこわす心配のあるものをとらないように注意しています。すると排便障害の症状は次第によくなり、普通の日常生活を取り戻しつつあります。今では、大好きだったサーフィンも楽しめるようになりました。
人工肛門の患者さんの例
60代のBさん(女性)の場合。大腸がんと診断された時には、既にステージ4でがんが大きい上に、肝臓、リンパ節など広範囲に転移していたため、手術は難しい状態でした。それでも抗がん剤治療を9か月間受けた結果、がんは小さくなり、手術が可能になりました。しかし、がんの位置が肛門に近かったため、人工肛門にするしか方法はありませんでした。
不自由な生活を覚悟していたBさんでしたが、実際には想像以上に制約が少なく、大好きなお酒も飲むことができるし、孫たちを抱っこしたり、一緒に遊ぶこともできます。
今では、元々の趣味だったスキューバダイビングも続けられています。
手術の方法は、まずは、がんを根治することを最優先に考え、さらに、なるべく機能を温存できるように医師が最適な術式を考えて提案します。
肛門を温存しても、排便障害の症状に悩まされる人もいます。しかし、肛門括約筋を締めることがリハビリになり、時間とともに肛門機能が改善する場合もあります。
一方、人工肛門を使っている患者さんは全国に20万人ほどいます。もちろん面倒なことはありますが、生活上の制約はそれほど多くはなく、通常は次第に慣れていきます。
最近は、インターネットにさまざまな情報があふれており、かえって最適な情報を選択しづらくなっているかもしれません。ネットで調べるだけでなく信頼できる医師をみつけて、しっかりと相談して、納得した上で治療にのぞみましょう。