誤えん性肺炎が高齢者に多い理由

食べ物や唾液などを飲み込む働きを「えん下」といいます。えん下した食べ物や唾液などは、口から食道へと送られます。このように本来は食道に送られるものが、誤って気道に入り込んでしまうことを「誤えん」といいます。この誤えんによって起こるのが「誤えん性肺炎」です。誤えん性肺炎は、65歳以上の高齢者に起こる肺炎の多くを占めています。
誤えん性肺炎が高齢者に多い理由は、主に4つあります。(下の図)

- 理由1:えん下障害
高齢になると、うまく飲み込むことができないえん下障害が起こりやすくなります。病気が原因で起こることも多く、えん下障害を起こす病気の半分以上を脳卒中が占めています。そのほかに、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症なども原因となります。また、誤えん性肺炎は、寝たきりの人に多く発症します。 - 理由2:せき反射の働きの低下
通常、誤えんが起こると、反射的にせきをする「せき反射」により、気管に入ったものを口に戻します。せき反射は睡眠中にも働きますが、高齢者や脳卒中を起こした人は、せき反射がうまくできないことが多く、その場合は睡眠中の呼吸に伴って唾液などが少しずつ気管に入っていきます。その結果、誤えん性肺炎が起こることがあります。 - 理由3:口の中が清潔に保たれていない
特に持病や何らかの後遺症がある高齢者では、歯みがきが不十分だったり、飲み込みきれずに食べかすなどが口の中に残っている場合があります。そうした状態では細菌が繁殖しやすく、飲食物や唾液と一緒に気管に入って、誤えん性肺炎を発症しやすくなります。
肺炎の原因で最も多い肺炎球菌という細菌は、国内の高齢者の3~5%の鼻やのどの奥に住みついていることがわかっています。また、歯周病の原因となる嫌気性菌が誤えん性肺炎の原因になることもあります。 - 理由4:体力や抵抗力の低下
高齢者や重い病気のある人は、体力や抵抗力が低下していることが多く、誤えん性肺炎を発症しやすくなります。
誤えん性肺炎が起こる仕組み
通常、食べ物や唾液を飲み込むときは、気管にフタがされ、同時に食道が広がるので、食べ物や唾液などは食道にだけ入ります。(下の図)

しかし、高齢者や、脳卒中などで体にマヒがある人は、このフタの働きが低下して、飲み込むときに気管がしっかり閉じにくくなるため、誤えんが起こりやすくなります。誤えんした際に、口の中やのどにいる細菌やウイルスが食べ物や唾液と一緒に気管から肺に入ると、誤えん性肺炎が起こります。(下の図)

誤えん性肺炎の症状

一般に肺炎を発症すると38℃以上の発熱や強いせきなどが起こりますが、高齢者や重い持病がある人に多い誤えん性肺炎では、そうした典型的な症状が現れにくく「ハアハアと呼吸が浅く速い」「何となく元気がない」「体が異常にだるい」「食欲がない」といった症状が多くみられます。「せん妄」といって話す言葉やふるまいなど意識に混乱がみられることもあります。
本人が体調の変化に気づいていないこともあるので、周りの人もいつもと違う様子を見逃さないようにしてください。
誤えん性肺炎を防ぐ対策
誤えん性肺炎の治療は、原因となる細菌に合った抗生物質(抗菌薬)を使うのが基本です。軽度ならのみ薬が使われ、中等度から重度の場合は入院し、注射薬による治療が行われます。高齢者の多くは入院して治療を受けることになります。
日常生活でも、誤えん性肺炎の悪化や再発を防ぐために次のような対策を行います。

- 対策1:口の中のケア
歯や舌は食べものが付着し、細菌が繁殖しやすいので、歯みがきと舌みがきが欠かせません。毎食後と寝る前の1日4回行うことがすすめられます。歯ブラシで舌をみがくと舌を傷つけることがあるため、力を入れずに優しくみがくか、市販の舌用ブラシを使うようにしてください。歯みがきや舌みがきが自分でうまくできない場合は、家族や介護ヘルパーなどにしてもらってください。入れ歯の掃除もこまめに行ってください。うがいも大事で、肺炎やインフルエンザの予防に効果があります。


- 対策2:えん下指導
誤えんを防ぐ正しい食事の仕方を学びます。 - 対策3:禁煙
喫煙は気道が粘膜をきれいにする働きを抑制してしまうため、細菌がつきやすくなります。 - 対策4:肺炎球菌ワクチン
65歳以上の人や、60歳~64歳の人で心臓・腎臓・呼吸器の病気やHIVがある人は、早めに一度受けることがすすめられています。
食事による誤えんを防ぐ

① 姿勢を正す
猫背で食べていると、飲み込む際に使われるのどの筋肉が首や頭を支えるため突っ張ってしまい、食べ物を飲み込みにくくなります。また反対に背もたれにもたれ、胸を反るようにして食べていると、口からのどにかけてのカーブが無くなって直線に近くなるため、誤えんを起こしやすくなります。
そのため姿勢を正し、飲み込むときは背筋を伸ばして、あごを引き気味するようにしてください。
② 少しずつゆっくり食べる
高齢者など飲み込む働きが落ちている人は、意識せず何気なく食べていると固まりのまま飲み込んだり、勢いよく飲み込んだりして誤えんを起こしやすいことが分かっています。例えばテレビを見ながら食べる、というような場合も飲み込みから意識がそれやすいので注意が必要です。
誤えんを防ぐためには、意識して少しずつゆっくり食べることが大切です。食べ物を口の中に入れすぎず、口の中にあるものを全部飲み込んでから次を口に入れるようにしてください。
③ 空飲み込み
食事中にむせたり、のどに食べ物が詰まっているように感じたりしたら「あ~」と声を出します。その際に"ガラガラ"した声になる場合は、気管の入り口に食べ物や唾液がたまっている可能性があります。その場合は、口の中に食べ物がない状態で「ごっくん」と唾液だけを飲み込む空飲み込みをしてください。そうすると気管の入り口にあった食べ物や唾液を食道へと飲み込むことができます。そのあと、また「あ~」と声を出してみてガラガラしていなければ大丈夫です。
④ 調理を工夫

高齢者など飲み込む働きが落ちている人は、例えばそぼろのようなバラバラする細かい食材は一部が口の中に長くとどまるため、誤えんしやすくなります。
ワカメやのりなど、口の中に貼りつきやすいものも同様です。スープのようなサラサラしたものは、速いスピードでのどを滑り落ちるため、気管に入ることがあります。ナメコや里芋など滑るものも、飲み込む前に気管に滑り落ちてしまうことがあります。
実は、あんかけのようにトロトロしたものはバラバラにならずにまとまりやすく、しかもゆっくり飲み込みやすいため誤えんを起こしにくいのです。誤えんを防ぐ基本は「とろみ」をつけることです。飲み込みづらい食品や飲み物には、かたくり粉や市販されている「とろみ剤」でとろみをつけるとよいでしょう。スープでも具のないポタージュなどにすれば、とろみがあって飲み込みやすくなります。
ただし、とろみをつけすぎてネバネバした状態にすると、飲み込みにくくなり逆効果なので注意してください。
また食材は固めではなく、やわらかく調理すると飲み込みやすくなります。大きさは、自分が飲み込みやすい大きさにすることが大事です。
飲み込む力セルフチェック
誤えん性肺炎を防ぐためには、飲み込む力が衰えてないかどうか知ることが大切です。唾液を飲み込むことで飲み込む力をセルフチェックできます。
① 唾液が出やすくなるよう少量の水を飲み、口の中を湿らせます。

② のどぼとけに手を当て、唾液を飲み込みみます。

③ 唾液を飲み込む時、のどぼとけが一度上に移動し、もとの位置に戻るのを確認します。
30秒間で3回以上できれば問題ないとされています。1~2回しかできない場合は、飲み込む力が衰えている可能性があります。

通常の感染症対策に加えて、フレイル(加齢や病気による心身の衰えで、介護が必要になるリスクが高い状態のこと)対策をして、肺炎になりにくい体づくりをすることも大切です。ウォーキングやラジオ体操などの軽い運動をし、栄養バランスのとれた食事を心がけます。認知機能やえん下機能を維持するためにも人との交流を保ち、よく会話をすることも大切です。