人工知能で大腸がんを未然に防ぐ!驚異の内視鏡技術

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人体(NHKスペシャル)大腸がん

日本人の死亡原因の1位を占める病・がん。中でも近年患者数が急増しているのが「大腸がん」です。食の欧米化など要因は複数あると言われていますが、その一つが検査の難しさ。異変を見つけるには、内視鏡を肛門から腸の奥深くまで入れて、内視鏡の先についた小さなカメラで探さなければなりませんが、腸の長い管はおなかの中で複雑に折り畳まれていて、正確にくまなく観察することは容易ではありません。ところが今、世界に先がけて日本で開発された"スーパー内視鏡"が、その常識を一変させようとしています。


"神の目"を手に入れた内視鏡の「超拡大技術」

内視鏡の世界シェア7割を誇る国内メーカーが開発を進めているのが、次世代の内視鏡「超拡大内視鏡」です。その名の通り、内視鏡で見ている映像を、虫めがねのように拡大して見ることができるのが、最大の特徴です。
従来の内視鏡でも、腸の壁を最大80倍まで拡大して観察することができましたが、「超拡大内視鏡」は桁違い。なんと最大520倍まで拡大できる上、特別な光を当てて観察すると、例えば腸の壁にある長さ1mmほどの絨毛(じゅうもう)の内部に張りめぐらされた毛細血管や、その中を流れる赤血球まで鮮やかに捉えることができます。

絨毛の血管
「超拡大内視鏡」で捉えた絨毛の中を走る毛細血管と、その中を流れる赤血球(矢印の先の赤い点)

さらに、「超拡大」機能を使えば、腸を形作るミクロの細胞一つ一つの形や細胞の中の様子まで見ることができます。まるで大きな顕微鏡を腸の中に持ち込んで観察しているような、驚きの最新技術です。
これまでは、内視鏡で見つけた腫瘍を切り取って体の外にとり出し、がん細胞かどうかを医師が検査していましたが、この「超拡大内視鏡」なら、生きた細胞の様子を観察するだけで、腸を傷つけることなく、がんがどうかを見極められると期待されています。増え続ける大腸がんを防ぐための検査が、ぐっと身近で簡便なものになるかもしれません。

"名医の判断力"を身につけた人工知能で大腸がんを早期発見!

この超拡大内視鏡を使って、次世代の大腸がん検診を開発しようとしているのが、昭和大学横浜市北部病院・工藤進英医師のチームです。通算で30万例以上の大腸内視鏡検査を行ってきた、大腸がん検査の権威である工藤さんらは、なんと人工知能に"名医の判断力"を学習させようと挑んでいます。

超拡大内視鏡で撮影した3万枚以上もの病変の画像を、人工知能に見せて学習させるプログラムを開発。腸の中で発見された病変が「がん細胞の可能性がある腫瘍かどうか」を瞬時に判断させる実証実験を進めています。

学習した人工知能を実際の大腸検査で使用したところ、超拡大内視鏡が病変を捉えたわずか0.2秒後には、人工知能が腫瘍かどうかを判断し、結果をコンピューター上にはじき出すことができました。その正答率を検証したところ、じつに約89%の正確さ。専門医の正答率91%に迫る高成果です。昨年から国内5つの大学・医療機関と国が合同で臨床研究も始め、さらに正答率を上げて内視鏡検査をする医師の手助けとなる「人工知能の名医」を作り上げることを目指しています。

内視鏡検査をする工藤医師
内視鏡検査をする工藤医師

そもそも検査が難しいために、世界的に大腸がん検査の専門医が不足していると言われています。それもあって、早期発見・早期治療が困難とされてきた大腸がんですが、日本発の内視鏡技術が、そこに大きな光明を投げかけようとしているのです。

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この記事は以下の番組から作成しています

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