ハリウッド女優のグウィネス・パルトロウさんが、30代の若さで"初期の骨粗しょう症"(骨減少症、いわゆる「骨粗しょう症予備群」)と診断され、さらにうつ病を患っていたことを自身のブログで公表して話題になりました。意外なことに、うつと骨粗しょう症には知られざる関係があることが、最新研究からわかってきています。
正常な骨(左)と骨粗しょう症の骨 (画像:Images of normal & osteoporotic bone courtesy of Professor Tim Arnett, UCL )
骨はつねに作り替えられている
そもそも私たちの骨は、一生の間に常々作り替えが行われています。骨粗しょう症は、骨を作る「骨芽細胞」と骨を壊す「破骨細胞」による、骨の作り替えのバランスが崩れることによって引き起こされます。そのバランスを保つ働きをしているのが、骨芽細胞や破骨細胞に、「骨を作って!」「骨を壊して!」といったメッセージを伝えるミクロの物質、いわば"メッセージ物質"です。
骨をつくる丸い球状の「骨芽細胞(オレンジ色)」と、骨を壊す「破骨細胞(ピンク色)」(CG) 二つの細胞のバランスによって骨が健康に保たれる 女性ホルモンの「エストロゲン」は破骨細胞の働きを抑えるメッセージ物質のひとつです。閉経によってエストロゲンの量が減少すると、破骨細胞が働きすぎ、"暴走"してしまいます。そのため閉経後の女性では骨粗しょう症のリスクが高まります。実は破骨細胞を暴走させてしまうメッセージ物質は他にもあります。しかもそれが"うつ"とも関係しているというのです。
アメリカ国立精神衛生研究所のペドロ・マルティネス博士とジオヴァニ・チザ博士は、閉経前の女性のうつ病患者では、「骨粗しょう予備群」が健康なグループの倍以上の割合でいることを発見しました。閉経前の女性ですから、すでにそれ以上のエストロゲンの減少は起きていません。なぜうつ患者に、骨量減少が多く確認されたのでしょうか。
閉経後の女性は、骨を壊す細胞の働きを抑える「エストロゲン」が低下し、骨粗しょう症のリスクが高まる
これまで、抗うつ薬の副作用や、うつ状態での「運動不足、タバコやアルコール摂取の増加」などの生活習慣が、骨粗しょう症を招く原因になると考えられてきました。しかしマルティネス博士とチザ博士の研究によって、全く違うメカニズムが発見されました。うつ病患者のグループでは、IL(インターロイキン)-1、IL-6,TNF-αといった「炎症性サイトカイン」と呼ばれる"メッセージ物質"の血液中の量が多いことがわかったのです。
炎症性サイトカインは、体内の病原菌やウイルスを退治するために免疫細胞が出すメッセージ物質です。炎症反応を促して体内の異物を排除してくれます。しかしこの炎症性サイトカイン、骨を壊す「破骨細胞」の数を増やしたり、働きを促したりする作用も持っています。つまり、うつ病患者の体内では、何らかの理由で免疫細胞が過剰に炎症性サイトカインを放出しており、そのために骨量減少が起きていると考えられるのです。
免疫細胞が出す"メッセージ物質"が破骨細胞の数を増やし、骨量を低下させる(CG)。