詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2017年10月号に詳しく掲載されています。

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糖尿病は高齢者に多く、70歳以上では男女とも4割前後が、糖尿病またはその予備群です。高齢になると身体機能が低下することに伴い、注意すべきことも増えてきます。
高齢者の糖尿病で注意が必要となるのが、「食後高血糖」、「脳梗塞・心筋梗塞」、「薬の使い方や副作用」、「老年症候群」、「高浸透圧高血糖状態」、「重症の低血糖」です。
また、糖尿病治療は食べ過ぎないことが大事ですが、高齢者の場合は「低栄養」にも注意が必要です。
食事の後にはだれでも血糖値がある程度高くなりますが、健康な人はインスリンの作用でまもなく正常に戻ります。ところが糖尿病の人は、食後1.5~2時間後の血糖が高くなったり、それが長引いたりしやすいのです。これが「食後高血糖」です。食後高血糖は動脈硬化を進行させるとも言われます。
高齢者は食後高血糖がいっそう起こりやすくなります。対策としては、食事をゆっくり食べたり、食物繊維を多くとったり、それに対応した薬を使ったりします。
脳梗塞や心筋梗塞は糖尿病の合併症の1つで動脈硬化によって起こりますが、動脈硬化は加齢とともに進行するため、これらの病気は高齢で多くなります。
対策としては、高血圧や脂質異常症がある場合は、高血糖と同様に動脈硬化のリスクとなるので、糖尿病だけでなく高血圧や脂質異常症の治療も欠かさないことです。また喫煙もリスクなので禁煙しましょう。
高齢者は薬ののみ忘れが多くなります。特に認知機能が低下すると、指示どおりに薬をのむことが難しくなります。また、外出のときに薬を持っていくのを忘れてしまう人も多くなります。
薬をのみ忘れたら、そのことを医師や薬剤師に必ず伝えてください。のみ忘れたことを伝えないと、医師は「薬は効いていない」と思い込んで薬を増やしてしまうことがあります。また、残った薬をあとからまとめてのむことがないようにしてください。
また、高齢者は薬の副作用が現れやすくなります。いちばんの理由は、加齢とともに腎臓や肝臓の働きが低下することです。薬の多くは腎臓で排せつされたり肝臓で分解されたりしますが、高齢者はそうした排せつや分解が遅れるため、薬が体内に長く残って効き過ぎてしまうのです。薬の効き過ぎで起こる低血糖も重症化しやすくなるため、注意しましょう。
糖尿病の薬には注射薬もあります。認知機能の低下などで使うのが難しい場合、注射の回数をできるだけ減らします。ただしこれは2型糖尿病の場合で、1型では注射回数は原則として減らしません。
注射薬にはインスリン製剤とGLP-1受容体作動薬があります。インスリン製剤では1日1回の注射だけで効果が24時間十分に持続するタイプが登場しました。またGLP-1受容体作動薬では週1回の注射でよいタイプが登場しています。患者さんが自分で注射できない場合には、訪問看護の人にGLP-1受容体作動薬を週1回打ってもらうという方法が可能になりました。
なお、インスリン製剤は低血糖を起こしやすいため注意して使います。GLP-1受容体作動薬は単独では低血糖を起こしにくい薬です。
老年症候群とは老化に伴って心や体に様々な症状がまとまって出てくることを言います。認知機能低下や認知症、ADL(日常生活の様々な活動を行う能力)低下がその代表です。老年症候群はQOL(生活の質)を低下させ、やがて要介護や死亡の原因になります。
老年症候群の原因は様々ですが、糖尿病による高血糖や低血糖も原因になります。逆に、老年症候群によって糖尿病の治療が難しくなったり進行しやすくなったりもします。
高浸透圧高血糖状態は糖尿病でまれに起こる急性の合併症です。感染症や発熱をきっかけに、脱水が加わって血糖値が著しく上昇し、血液の浸透圧が高くなる、すなわち血液が濃くなる状態です。のどが渇く、多飲、多尿、けん怠感、血圧低下、頻脈、体重減少、皮膚や粘膜の乾燥などの症状があります。高齢者は発見が遅れて意識障害に到るおそれもあります。
高浸透圧高血糖状態を防ぐには、のどの渇きに十分注意し水分をこまめに補給することが大切です。体の水分は食欲不振、おう吐でも不足するので注意します。何も食べられないときでも水分だけは摂取するようにしましょう。
糖尿病の薬を使っている場合に血糖値が下がり過ぎることを低血糖と言います。糖尿病治療の基本は高くなっている血糖値を下げることですが、高齢者は、薬を分解する肝臓や、薬を排せつする腎臓の働きが低下するため、血糖を下げる薬が効き過ぎてしまうのです。
重症の低血糖は、転倒・骨折、認知症、脳梗塞・心筋梗塞のリスクにもなります。高齢者は低血糖になっても気づきにくく、低血糖が重症化しやすいため注意が必要です。
糖尿病の食事療法では食べ過ぎないことが大事ですが、高齢者の場合は低栄養にも注意が必要です。低栄養は体重が減ることや食事の量が減ることを意味します。高齢者も過食はよくありませんが、若い人と違って食欲が低下することが多く、様々な病気も合併して、やせてしまうことがよくあるのです。
そのため、むしろエネルギー量を減らし過ぎないよう気をつけます。目安は1日1200kcal未満にしないことです。また、筋肉が減ってくるのを防ぐために、たんぱく質を多めにとります。ただし腎不全の人は、たんぱく質をとり過ぎないほうがよい場合があるため、医師に相談してください。
筋肉量の減少や筋力の低下にも気をつける必要があります。筋肉が減ると、筋肉のブドウ糖消費量が減って血糖値が上がりやすくなるため、糖尿病が悪化しやすいのです。
糖尿病の原因には、すい臓のインスリン分泌低下と肥満によるインスリン抵抗性の2つがありますが、3つ目の原因として、筋肉量の減少も言われています。そこで高齢者は、筋肉を維持するための運動を積極的に行うとよいでしょう。運動が苦手だという人は、普段の生活のなかで、まず活動を増やすことから始めます。家の掃除をする、買い物に出るなど、こまめに体を動かす時間を増やすことが大切です。
高齢者では体力が低下してすぐには歩行ができない人もいます。運動は無理をせず、軽いものから始めましょう。まず柔軟体操(ストレッチ)から始めて、軽いレジスタンス運動(筋力トレーニング)、有酸素運動、本格的なレジスタンス運動、というように運動の強度や量を段階的に上げていきます。また、様々な種類の運動を組み合わせることが、要介護の予防になると言われています。
おすすめの軽いレジスタンス運動が、スクワットと片足立ちです。
安全のためいすを使い、ゆっくり立ち上がったり座ったりします。これで筋肉量の多い太ももやお尻が鍛えられます。
転倒を避けるために安定した机などの横で、左右の足でそれぞれ1分くらいずつ続けて立ちます。片足立ちが安定しない人は、しっかりした机など安定しているものを支えにしましょう。なお、運動は主治医に相談してから開始してください。
筋肉量の維持には、筋肉の材料であるたんぱく質をきちんととることが大切です。低栄養にならないためだけでなく、筋肉のためにも、必要以上にたんぱく質を減らさない食事を心がけましょう。
詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2017年10月号に詳しく掲載されています。