進歩する前立腺がんの治療を徹底解説 手術や放射線治療、ホルモン療法

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前立腺がん排尿がおかしい尿の色がおかしい泌尿器

前立腺がんの治療の基本

前立腺がんの治療の柱

前立腺がんの治療の柱は、「前立腺全摘除術」という手術、「放射線治療」、「ホルモン療法」の3つです。がんの進行度に応じて、これらの治療法を使い分けたり、併用したりします。どの進行度の場合も、年々、治療が進歩しています。

限局がんの治療

限局がんの治療

初期のがんで、がんが前立腺の中にとどまっているのが「限局がん」です。この場合、定期的な検査により経過観察を続ける「監視療法」、「前立腺全摘除術」、「放射線治療と一定期間のホルモン療法の併用」の3つが主な選択肢となります。75歳未満の人や、75歳以上でも体力があると判断される人は、多くの場合、手術や放射線治療によって、がんの根治を目指します。こうした「根治的治療」を受けた人の多くは、10年以上がんを抑えることができます。

高齢やほかの病気のために全身の状態がよくない場合、手術や放射線治療は大きな負担となりやすいため、ホルモン療法単独でがんの進行を抑えていく選択肢もあります。この場合がんを根治することはできませんが、特に高齢者では生涯がんを抑え続けることが可能です。

前立腺全摘除術 多くは「ロボット支援手術」

前立腺全摘除術

前立腺全摘除術は、前立腺と精のうを摘出し、膀胱(ぼうこう)の出口と尿道をつなぎます。多く行われているのが、「腹腔(くう)鏡手術」です。

ロボット支援による腹腔鏡手術

おなかに小さなあなを複数開けて、そこから腹腔鏡(カメラについた細い棒)や手術器具を入れて行う方法です。最近は、多くの場合、「ロボット支援による腹腔鏡手術」が行われています。

ロボット支援手術の様子

「ロボット支援手術」は、医師が遠隔でロボットを操作して手術を行う方法です。実際に患者さんの体に触れるロボットには3本のアームと1本のカメラがついており、それらをおなかに開けたあなから挿入します。医師は少し離れた運転席のような装置で、カメラの映像を見ながらロボットアームを操作し、手術を行います。ロボット支援手術は傷口が小さくて済み、出血量が少ないため、患者さんの体への負担が少なく、入院期間も短縮できます。

ただし、前立腺全摘除術では、勃起神経や尿道を開閉する括約筋が傷つく可能性があり、性機能障害や尿もれなどの合併症が起こることがあります。治療によって予想される効果と合併症、この両方のバランスを考えたうえで手術を選ぶことが大切です。

2つの方法がある放射線治療

高線量のエックス線を照射して、がんを死滅させるのが放射線治療です。

前立腺がんの放射線治療

放射線治療には、主に、体の外から照射する「外照射」と、体の内側から照射する「小線源療法」の2つの方法があります。限局がんの場合は、どちらも選択肢となります。

外照射の主流 「IMRT」

外照射で広く行われている方法が「IMRT(強度変調放射線治療)」です。

外照射について

がんに対して多方向から放射線を照射するだけではなく、一方向ずつ強弱を変えることで、がんの形に合わせて照射することができます。そのため、直腸など前立腺の周りの正常な組織に当たる放射線量を減らしながら、がん細胞に十分な放射線を照射することができます。副作用を避けるために28~39回に分けて行われるため、長期の通院が必要です。
この方法では、正常な組織に当たる放射線量を減らせますが、それでも多少の副作用は現れます。治療期間中に現れる副作用には、頻尿や頻便、尿が出にくい、血尿などがありますが、多くは時間がたつにつれて改善していきます。一方、治療終了後から数年以上たって、膀胱炎や直腸炎による血尿や勃起障害といった副作用が現れることがあります。

組織内照射「小線源療法」

小線源療法

小線源療法は、放射性物質を入れた小さなカプセルを70個ほど、特殊な針を使って前立腺に埋め込む方法です。治療は3日程度入院して行われます。カプセルからは微量の放射線が持続的に照射され、照射される範囲はそれぞれのカプセルの周囲5mmほどです。そのため、前立腺の周囲や、前立腺を通る尿道以外の部位には影響は及びません。放射線は1年ほどでほぼなくなります。通常は周囲の人に影響することはありませんが、カプセルを埋め込んでからしばらくの間は、乳幼児をひざの上などに抱くことは避けるようにします。

ただし、小線源療法では、尿道に放射線が多めに当たるため、外照射に比べると排尿障害が起こりやすくなります。そのため、すでに強い排尿障害がある患者さんにはあまり適しません。

局所進行がんの治療

局所進行がんの治療

がんが大きくなって、前立腺を覆っている膜を突き破り、外に出ているのが「局所進行がん」です。この場合、検査ではわからない小さな転移がんが発生していることがあり、その場合は、手術をしても、その後がんが再発する可能性が高くなります。そのため、前立腺全摘除術に加え、必要に応じて放射線治療やホルモン療法が行われます。また、手術は行わずに、放射線治療と一定期間のホルモン療法を併用する方法もあります。最初から併用したほうが治療成績がよいことがわかっているためです。局所進行がんの場合、広範囲に放射線を照射する必要があるため、主に外照射が行われます。

前立腺全摘除術と外照射 どう選ぶ?

局所進行がんでは、前立腺全摘除術と外照射が主な選択肢となります。患者さんの年齢や全身状態によって、治療方法を選択します。たとえば、50歳代など比較的若い人の場合、外照射では高齢になってから膀胱炎や直腸炎などが現れる可能性があるため、多くの場合は手術がすすめられます。一方、75歳以上の患者さんや、ほかに病気がある患者さんで、全身状態がよくない場合、手術は難しいが外照射は行えるというケースもあります。また、患者さんの希望も重視されます。たとえば、通院を繰り返すのが難しいため手術を選択するケースや、数年後の影響よりも現在の生活を優先し、手術による尿もれなどの可能性を避けるために外照射を選択するケースなどがあります。

転移がんの治療

転移がんの治療

がんがリンパ節やほかの臓器、骨などに転移しているのが「転移がん」です。主にホルモン療法が行われ、状況に応じて抗がん剤が使われます。

ホルモン療法

ホルモン療法は、男性ホルモンの働きを抑える治療法です。

ホルモン療法
ホルモン療法

前立腺がんは、精巣などから分泌される男性ホルモンによる刺激で増殖します。ホルモン療法は、薬や手術で男性ホルモンの働きを抑えることによって、前立腺がんの増大を防いだり、縮小させたりする方法です。

ホルモン療法では去勢術や補助的に、のみ薬の抗男性ホルモン薬が使われる

ホルモン療法では、精巣から男性ホルモンが分泌されるのを抑える薬の注射、または、精巣を摘出する手術が行われます。これらの精巣に対する治療を「去勢術」といいます。そのうえで、補助的に、のみ薬の抗男性ホルモン薬が使われます。のぼせや勃起障害、メタボリックシンドローム、骨が弱くなるなどの副作用は現れやすいのですが、ほとんどの患者さんに対して治療効果があります。ただし多くの場合、いずれ効果がなくなります。この状態を「去勢抵抗性前立腺がん」といいます。

「去勢抵抗性がん」の治療

去勢抵抗性がんに使う抗がん剤

去勢抵抗性前立腺がんに対しては、抗がん剤のドセタキセルとカバジタキセルが効果を及ぼす頻度が高いことがわかっています。

去勢抵抗性がん 新しいホルモン薬

最近では、このがんに使用できるホルモン薬の開発が進み、2020年に登場したダロルタミドで計4種類となりました。これらの新しいホルモン薬は、去勢術とは異なる働きを持っています。

男性ホルモンは副腎でもつくられている

男性ホルモンは副腎でもつくられており、アビラテロンは、副腎で男性ホルモンがつくられるのを抑える働きがあります。エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミドの3種類は、副腎などでつくられた男性ホルモンが前立腺の細胞とくっつくのを妨げて、前立腺に作用させないようにします。

2種類の抗がん剤と、4種類のホルモン薬をどのような順番で使うかについては、まだ定まっていません。それぞれの患者さんの状態に合わせて医師が選択することになります。いずれの薬もさまざまな副作用が現れる可能性があるため、薬を使い始めてから3か月程度は2~4週間に1回通院して、副作用や体調をチェックすることが必要です。また、これらの薬は高額なため高額療養制度を使うことができますが、それでも多くの場合、患者さんの自己負担額は1か月で数万円となります。費用の面でも、医師と相談しながら薬を選ぶことが大切です。

骨転移がんに対する治療

転移がんで、がんが骨に転移している場合、背中や腰に強い痛みを感じやすく、骨折や下半身のまひの危険性もあります。骨折すると、多くの場合、車いすが必要になるなど生活が困難になります。そのため、骨転移に対する治療も欠かせません。

骨転移がんの治療

その方法には、骨転移のがん細胞を抑える放射線治療と、骨を壊す働きがある破骨細胞を抑える薬があります。放射線治療には、外照射と内照射があります。外照射は、リニアックという機械が使われます。リニアックは、IMRTを含め複数の照射法を使い分けることができ、骨転移がどの場所でも的確に照射することができます。ラジウム223は、静脈に注射する薬です。この薬は、骨の新陳代謝が活発な部位に集まる性質があり、骨転移がんがある場所で放射線を照射します。破骨細胞の働きを抑える薬には、点滴薬のゾレドロン酸と、注射薬のデノスマブがあります。この2種類は、骨粗しょう症にも使われる薬です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2020年9月 号に掲載されています。

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