慢性腎臓病の治療 「血液透析」「腹膜透析」の透析療法と腎移植

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慢性腎臓病(CKD)糖尿病腎症腎不全体がだるいむくんでいる食欲がない腎臓循環器・血管

慢性腎臓病の治療方法

慢性腎臓病が進行すると、腎臓の働きを代替するために、透析療法か腎移植が必要となります。透析療法には、血液透析と腹膜透析があります。
血液透析・腹膜透析・腎移植の3つのうち、現在は大多数が血液透析を選択しています。しかし、いずれも治療水準は非常に高く、安心して受けられます。医師の説明を十分聞いて生活環境・年齢・価値観などを考えて、最良の選択をしてください。

透析療法とは

透析療法とは

慢性腎臓病が進行すると、腎臓は体内の老廃物や余分な塩分・水分を十分に取り除くことができなくなります。老廃物が体にたまるため「尿毒症」というさまざまな症状が現れてきます。

透析療法とは、腎臓の働きの代わりをして老廃物や余分な塩分・水分を排出する治療法です。
透析が必要になるのは、腎臓の機能がかなり失われてからです。腎臓の働きを示す数値にGFR(糸球体ろ過量)があります。腎臓の働きが正常の何パーセント程度かを示す数値で、60未満が続いた場合に慢性腎臓病と診断されます。

このGFRが10未満になると、尿毒症の症状、生活面の支障などにも配慮して透析の開始を考慮します。GFRが30を切るようになったら、医療機関で透析療法に関する説明を受け、準備を始めておくようにしましょう。

血液透析とは

血液透析とは

透析治療を受ける人の大半は「血液透析」を選択しています。血液を体の外に送り出し、透析器という機械で老廃物や余分な塩分・水分を除去したあと、血液を体の中に戻す方法です。医療機関に週3回ほど通い、1回に4〜5時間かけて透析を行います。

腹膜透析とは

腹膜透析

腹膜は胃・腸・肝臓などの表面と腹壁の内側を覆っているひとつづきの膜です。この腹膜を使って血液を浄化するのが「腹膜透析」です。医療機関ではなく自宅などでできます。
腹膜透析は血液透析に比べて、次のような長所があります。

  • 週に何度も通院したり何時間もベッドで過ごしたりする必要がない
  • 通勤・通学・家事がそれまでとほぼ同じように続けられる
  • 残っている腎臓の働きが比較的長く維持される
  • 透析を徐々に行うため、心臓をはじめとする体への負担が軽い

一方、腹膜透析では交換時の感染による腹膜炎や、長期化すると腹膜の硬化症に注意する必要があります。また腹膜の機能はしだいに低下するため、多くの場合、5年から10年で血液透析に移行しなければなりません。

腹膜透析の手順

腹膜透析は、腹腔に埋め込んだカテーテルを通して透析液を腹腔内に入れ、日常生活を過ごし、数時間後に老廃物がたまった透析液を体外に出すという方法で行います。
透析液の交換には30分程度かかります。これを1日3回〜5回繰り返します。交換の作業は自宅や外出先に清潔な場所を確保して行います。透析液の交換を睡眠中に1回だけ自動的に行う方法もあります。

1.カテーテルを使って透析液を腹膜に囲まれた腹腔に注入する

カテーテルを使って透析液を腹膜に囲まれた腹腔に注入する

2.透析液が腹腔にたまった状態で生活する

透析液が腹腔にたまった状態で生活する

3.血液中の老廃物や余分な塩分・水分が、腹膜に広がっている細い血管を介して透析液の中へ数時間かけてしみ出していく

血液中の老廃物や余分な塩分・水分が、腹膜に広がっている細い血管を介して透析液の中へ数時間かけてしみ出していく

4.老廃物などを含んだ透析液をカテーテルで排出する

老廃物などを含んだ透析液をカテーテルで排出する

5.新しい透析液を注入する

腎移植とは

腎移植とは

「腎移植」には、親族などから提供してもらう生体腎移植と、死亡した方から提供してもらう方法があります。腎移植を行えば健康な人とほぼ変わらない生活が期待できます。移植後に免疫抑制剤をのみ続けなければなりませんが、腎移植を受けた場合、生存率は高くなっています。
2014年に日本で腎移植を受けた人は年間で1598人、海外に比べ非常に少ないのが現状です。

もう1つの治療の選択肢「保存的腎臓療法」

高齢の患者さんでは重大な合併症がある場合が多くなります。そのため「透析治療を行うことによるリスクが高く、治療に耐えられない」「患者さん自身が透析治療を希望しない」などの理由から透析治療を行わないケースや中止するケースもあります。

1年間で透析治療の開始を見合わせた&終了した例の件数

2022年5月に発表された全国調査の結果では、2019年の1年間で、透析治療の開始を見合わせたケースが917例、透析治療を終了したケースが492例あったと報告されました。
透析治療を行わないでいると「尿毒症」が起こり、吐き気や呼吸困難などのつらい症状が現れます。そして最終的には命に関わります。そこで、透析治療を行わない、あるいは中止した場合に、症状を軽減したり、心理的な苦痛をやわらげることを目的として提唱されているのが、「保存的腎臓療法」です。
国内では2022年5月に「高齢腎不全患者のための保存的腎臓療法」が発表され、高齢者の腎不全で、透析を行わない、あるいは中止するときに必要な手順や、その後の治療のあり方が示されました。
透析治療を行わずに保存的腎臓療法を選択するのは、患者さんにとっても医師にとっても簡単なことではありません。そのため、治療法や治療の目的について患者さんがしっかりと理解したうえで、自分にとって何が大切かという価値観に基づき、患者さんと医師が共に考え、話し合って治療を決めていく「共同意思決定」をすることが極めて重要です。

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詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年11月 号に掲載されています。

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