食道がんになったとき -私のチョイス-

突然起こった胸の異変
Aさん(76歳)は1年前、昼食をとっているときに、ある異変に襲われました。
「パスタを食べたときに、のどにつかえて息ができませんでした。背中を叩いてもらっても、なかなか吐き出せず、苦しい思いをしました」
内視鏡検査で、その「つかえ」の原因は、食道にできた3cm大の食道がんだったことがわかりました。首のリンパ節への転移も疑われ、Aさんは「進行がん」と診断されたのです。

抗がん剤+手術の標準治療をチョイス
Aさんのような進行がんの場合、治療の基本は「手術」ですが、「抗がん剤」で治療し、がんを小さくしてから手術します。以前は「シスプラチン」と「フルオロウラシル」という2種類の抗がん剤を使っていましたが、2022年から、それらに「ドセタキセル」という抗がん剤を加える治療が、標準治療になりました。Aさんは、この3剤を使った抗がん剤治療を、9週間行いました。治療後に内視鏡で食道の状態を確認すると、食道のがんだけでなく、転移が疑われた首のリンパ節のがんも大幅に小さくなっていたのです。
「すごく効いている。びっくりした。がんが、ぺちゃんこになっていた」
そして、Aさんは食道がんの手術に進みました。




難しい食道がんの手術
食道がんの手術は、最も難しい手術の一つと言われています。食道は、肺・心臓など重要な臓器に囲まれているためです。最初に肺を、しぼませる処置を行い、次に胸の横や腹部から胸腔(くう)鏡や腹腔鏡を入れて食道とリンパ節を引き抜いて切除。さらに首に近い部分にあるリンパ節も切除。最後に胃を引き上げて、残った食道とつなぎます。長時間に及ぶため、患者にとっては負担の大きい手術になります。
手術後の困難も乗り越える!
Aさんは6時間にも及ぶ大掛かりな手術に耐え抜きました。しかし、手術後、Aさんは「食べること」がつらくなってしまいました。実は、食道を切除して胃をつなぐと、一時的に飲み込むことがうまくできなくなってしまうことがあるのです。そのため栄養剤を小腸に注入するチューブを手術の時につけることもあります。Aさんもチューブをつけたままの退院となりました。65キロあった体重は15キロも減少。しかしAさんはあきらめませんでした。
「俺は負けないぞ。絶対食べなきゃ」
少しずつ食べる量を増やしていき、退院から1か月でチューブを外すことができました。そして半年後には、以前と同じくらい食べられるようになったのです。
「助かったと思いましたね。これで生きられるぞ!」