身近な人の「心の不調」 こんなサインに注意

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うつ病統合失調症摂食障害強迫症双極性障害うつ状態が続く食欲がないイライラする眠れない・眠りが浅いこころ脳・神経

あるケース 家族が感じた「何気ない変化」

心の不調がある場合、家族など身近な人が早く気付くことが重要です。何らかの精神疾患の初期段階かもしれないからです。心の不調が始まっている、ある人のケースを見てみましょう。
Aさんは、妻のBさんに対し、「以前と何かが違う」と感じ始めています。

妻の異変に気付く夫

笑顔を見せなくなって、ぼーっとしていることが多くなり、日課の散歩をやめてしまいました。

食事を残すようになった

あまり眠れていないようで、いつも疲れていて、食事を残すようになりました。

夫婦のけんかが増えた

イライラをぶつけてくることが増え、それに対しAさんも反発してしまうため、夫婦間のけんかが増えています。

何かあったか聞いても大丈夫という

そのため、Aさんが「何かあったの?」「大丈夫?」などとたずねても、Bさんは「別に何もない」「大丈夫」としか言いません。理由がまったくわからず、Aさんは途方に暮れています。
Bさんには、いくつかの「何気ない変化」が起きています。実はこれらはうつ病によるもので、Bさんは初期のうつ病になっていたのです。

心の不調にはさまざまなタイプがある

心の不調と関係する病気には、さまざまな病気があります。

心の不調と関係する病気

主な例をあげると、認知症、依存症、てんかん、パニック障害、不安症、発達障害、PTSD、うつ病、双極性障害、統合失調症、摂食障害、強迫性障害などです。家族など身近な人が気付きやすい病気もあれば、気付きにくい病気もあります。

気付きやすいタイプ

大きなきっかけで起こる病気や、早期から特徴的な症状が現れる病気は、比較的気づきやすい病気と言えます。「認知症」は、早期から物忘れなどの症状が現れます。「依存症」は、アルコール、ギャンブル、ゲームなど明らかな要因があります。「てんかん」は、けいれんする発作や意識の消失が起こります。「パニック障害」や「不安症」は、突然動悸(どうき)や息苦しさなどの発作が起きたり、強い不安感が起きたりします。このため、てんかんやパニック障害、不安症は、ほとんどのケースで本人や家族が不安に思って受診します。「発達障害」は、自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害などさまざまなタイプがありますが、多くの場合、幼児期から行動面や情緒面に特徴がみられます。「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」は、大きな危険を体験したあとに発症します。

気付きにくいタイプ

そのほか、うつ病、双極性障害、統合失調症、摂食障害、強迫性障害は、身近な人でもなかなか気付けないことが多くあります。「うつ病」は気分の落ち込みが長く続く病気ですが、Bさんのように早期では何気ない変化しか現れないことがよくあります。

「双極性障害」は、うつ状態の時期と、その逆で、異様にハイテンションな「そう状態」の時期を繰り返す病気です。たとえうつ状態に気付いても、その後そう状態になったときに、「うつじゃないんだ」「元気になった」などと思われ、見逃されることが多くあります。
「統合失調症」は、幻覚や妄想を起こすことが知られている病気です。ただし、早期ではそうした症状が目立たずに、何気ない変化しかみられないことも多くあります。双極性障害や統合失調症は、10代や20代で発症することが多い病気です。

「摂食障害」は、体形や体重を極端に気にして、食べる量を減らしたりする病気です。本人はコンプレックスを抱いているために、ダイエットしていることを恥ずかしいと思ったり、家族に「ちゃんと食べなさい」などと言われたりするために、家族に隠そうとすることがよくあります。そのため、隠れて下剤を使ったり、吐いたりするようになり、家族でも気付きにくくなります。
「強迫性障害」は、あることに不安を感じて、それを解消するために、代わりの行動を繰り返す病気です。たとえば、戸締りを何度も確認したりします。本人は、「こんなに何度も確認する必要がないのに」と理解しているのにやめられません。そのため、恥ずかしいと思って、家族にばれないように繰り返すことがあります。また、戸締りしたかを心配するということ自体はふつうの感情であるため、周りの人が、どこからが異変と判断するか難しいこともあります。

心の不調のサイン 5項目の変化

身近な人の心の不調に早く気付くためには、たとえ何気ない変化でも見逃さないことが大切です。

サインは何気ない変化

それは、気分や感情の変化、睡眠の変化、食欲の変化、意欲や気力の低下、行動の変化です。
先ほどの早期のうつ病であるBさんを例にみていきましょう。Bさんは笑顔を見せなくなりましたが、これは気分の変化・気分の落ち込みが推察されます。イライラしやすくなった、つまり感情の出方も変化しています。睡眠の量が減り、食欲が低下しています。ぼーっとしていることが増えたことは、意欲や気力の低下が考えられます。また、その結果、日課の散歩をやめてしまった、つまり行動が変化したことが考えられます。うつ病は、自殺につながることが少なくありません。早めに気付いて、受診・相談することが大切です。

心の不調では、全般的に不眠や食欲低下がよく現れます。ただし、逆に眠りすぎるようになったり、食べ過ぎるようになったりすることもあります。食欲が変化した結果、急激にやせた、あるいは太ったということも起こります。感情の変化では、喜怒哀楽を表さなくなる、ささいなことで泣くようになるといったこともよくあります。意欲や気力の低下を示すサインでは、物事に興味や喜びを示さなくなった、部屋から出なくなった、何もしなくなった、学校や仕事に行かなくなったといったことも多くあります。行動の変化は、例えば、こなせていた仕事がこなせなくなった、よく遅刻するようになった、趣味や日常的にしていた活動をやめたなどがあります。

双極性障害の「気分の高まり」

「双極性障害」で起こるうつ状態(気分が落ち込む)は、うつ病とほぼ同じです。うつ病と同様、自殺につながることが少なくありません。それを防ぐためには、そう状態の時期に気付くことも重要です。
そう状態に気付くサインは、「気分の異様な高まり」です。本人はとても気分がよく、異様にハイテンションで活動的になり、早口でしゃべり続けます。

そう状態に気付くサイン

また、あまり眠っていないのに元気です。

気が大きくなり、無謀な買い物をする

気が大きくなるために、無謀な買い物をしたりします。こうした、やりすぎな行動のために、周りの人とトラブルを起こしやすくなります。気分が落ち込んだり、高まったりすることは誰しもありますが、その上がり方や下がり方が以前のその人と違うと感じたら、異変を疑ってみてください。

そのほかの病気のサイン

「統合失調症」は、初期では特徴的な症状がみられないことが多いですが、意欲の減退や感情の平板化がよくみられます。
「摂食障害」では、過度なダイエットを続ける拒食症だけでなく、過食症・食べ過ぎるタイプもあります。たとえ家族の前では以前と同じように食事をとっていても、隠れて摂取量を減らしたり増やしたりしていることがあるので、急激な体形の変化があれば見逃さないことが大事です。
「強迫性障害」に気付く大きなサインは、行動の変化です。たとえば、何度も戸締りをするようになるという変化ですが、それに早期に気付くには難しいことがあります。何度も戸締りをするようになった結果、学校や会社に遅刻するようになるなど、日常生活に支障をきたすような行動の変化がみられたら、異変を疑ってください。

受診・相談の目安は「何か違う」が1か月以上

5項目の変化にかぎらず、「以前のその人とは何か違う」と感じ、その変化が1か月以上続く場合は、「心の不調かもしれない」と考えてください。特に日常生活に支障が出ている場合は、早めの受診・相談が勧められます。何気ない変化だと、「そのうち元気になるだろう」「思春期ならではの現象だろう」「仕事が忙しいだけだろう」「年だからだろう」などと、軽く受け止めがちです。
でも心の不調の多くは、はじめは何気ない変化しかありません。気付いたこと、気になったことがあれば、本人に伝えてみて、本当に何も異変がないのか確認を試みることも大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年5月 号に掲載されています。

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