思春期に多い「起立性調節障害」 注目の東洋医学とは

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起立性調節障害めまいがする食欲がない体がだるい全身

思春期の子どもに多く、中学生の1割が発症するといわれている「起立性調節障害(OD)」。いま、治療の選択肢として注目されているのが漢方薬や鍼灸(しんきゅう)などの東洋医学です。今回、その治療の現場を取材しました。

起立性調節障害(OD)

「朝、起きられない…」 でも“サボり”と思わないで!

起立性調節障害は、自律神経の働きが悪くなることで起こります。通常、横になった状態から立ち上がると、血液が下半身に移動します。このとき、自律神経がうまく働かないと、血管が収縮せず脳への血流が低下してしまいます。その結果、めまいや立ちくらみ、倦怠感や頭痛などの症状が現れるのです。
これらの症状は午前中に強く出るため、学校へ行けなくなるケースも少なくありません。また、夕方や夜には症状が落ち着くため、寝るのが遅くなるなど、生活習慣が崩れ、悪循環になるケースもあります。家族から「サボりでは?」「早く寝ないから…」などと誤解されたまま、診断や治療に至らない場合も少なくありません。
自分や家族が起立性調節障害かも…と思ったら、こちらのチェックリストを参考にしてみてください。

起立性調節障害チェックリスト

中学2年生・沙織さんの治療に密着!

今回取材に協力してくれた中学2年生の東沙織さん(仮名)。1年生の頃は、皆勤賞をとるほど毎日元気に過ごしていたといいます。ところが、2022年6月。卓球部の朝練の時、急にだるくなり動けなくなりました。その頃から起床時の立ちくらみや頭痛などの症状に悩まされ、学校を休むことが増加。そして11月、大阪医科薬科大学病院を受診した結果、入院することになりました。

起立性調節障害と診断された東沙織さん(仮名)

起立性調節障害の診断では、「起立試験」と呼ばれる検査を行います。10分間、横になった状態で安静にした後、今度は10分間立ち続け、血圧や心拍数などの変化を測定します。
健康であれば、起立後15秒ほどで血圧が回復し、心拍数も平均70~80で安定します。ところが沙織さんの場合、血圧は回復しましたが、心拍数が平均150まで上昇。強い立ちくらみを起こしたため、検査は中断されました。

起立性調節障害の診断「起立試験」の検査結果

実は起立性調節障害は、主に4つのタイプに分けられます。

  • 体位性頻脈症候群
    起立中に血圧低下を伴わず、著しく心拍数が増加する
  • 起立直後性低血圧
    起立直後に強い血圧低下が見られ、回復が遅れる
  • 血管迷走神経系失調
    起立中、急に血圧が低下し、意識を失うことがある
  • 遷延性起立性低血圧
    起立後3~10分が経過してから血圧が低下する

検査の結果、沙織さんは起立性調節障害の「体位性頻脈症候群」の重症と診断されました。血圧を維持するため心拍数が上昇、つまり心臓に過度の負担がかかっている状態だったのです。

「気力・体力を取り戻す」 漢方薬の処方とは?

小児科医の吉田誠司さん

大阪医科薬科大学病院で沙織さんを担当したのは、長年、起立性調節障害の子どもたちを診てきた小児科医の吉田誠司さんです。起立性調節障害の治療では、標準的な治療として血圧を上げる薬が処方されますが、沙織さんには効果が見られませんでした。そこで、漢方専門医でもある吉田さんは、「腹診(ふくしん)」や「舌診(ぜっしん)」など、東洋医学に基づいた診察を行いました。

腹診(ふくしん)
舌診(ぜっしん)

その結果、体を巡るエネルギー「気(き)」が足りない状態、「気虚」と診断。柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)と五苓散(ごれいさん)の2種類の漢方薬が処方されました。

  • 柴胡桂枝湯
    心身の疲れや食欲不振の改善などに処方
  • 五苓散
    頭痛やめまいの改善などに処方

吉田先生の診察の様子

吉田さんの診察では、漢方薬の処方を積極的に取り入れています。外来を受診した中学2年生の福田朋美さん(仮名)の場合、「気」が逆流している異常である「気逆」と診断されました。「気逆」では、冷えやのぼせ、手汗などのほか、頭痛やめまいが起こるケースもあります。そこで朋美さんには「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」という漢方薬が処方されました。

  • 苓桂朮甘湯
    めまいや頭痛、動悸(どうき)など、起立性調節障害の症状に使われることが多い
福田朋美さん(仮名)

その後、朋美さんの症状は1か月ほどで改善。朝の目覚めもよくなり、学校へも行けるようになりました。吉田さんは、「漢方薬には、その子がもともと持っている気力・体力を取り戻させる力があります。それを取り戻せれば体を動かせるようになり、心肺機能も上がって、起立性調節障害が治っていくのではないかと考えています。」といいます。

心身をリラックスさせる「鍼(はり)治療」

鍼灸師、久下浩史さん

起立性調節障害の治療では、鍼治療も選択肢のひとつとして期待されています。
入院中、沙織さんを担当したのは麻酔科・ペインクリニックの鍼灸師、久下浩史さん。鍼治療では体の冷えやコリを改善し、自律神経の働きを取り戻すことを目指します。標準治療や漢方薬の服用と合わせて行うことで、より高い効果が期待できるといいます。

鍼治療

施術を行ったのは、肩にあるツボ「肩井(けんせい)」、手の「合谷(ごうこく)」、腕の「手三里(てさんり)」、足の「三陰交(さんいんこう)」と「足三里(あしさんり)」などです。久下さんによると、起立性調節障害を患う子どもたちは、心身が緊張していることが多いといいます。鍼治療は、その緊張を和らげる効果も期待できます。

東洋医学で病の克服に前進!

沙織さんは東洋医学の治療だけでなく、食事指導や運動療法も取り入れて生活習慣も改善。1か月後には退院を果たし、その後も漢方薬や鍼治療を続けました。そして、退院から1か月半後の再検査では、問題だった心拍数の上昇も改善し、病気の克服に向けて大きく前進しました。

沙織さんの心拍数

2022年12月には、3か月ぶりに登校することができた沙織さん。その後、登校日数が増え、友達と遊べる日も増えてきました。「友達と会っていろんなことを話すのが久しぶりで、ずっと話していたいくらい楽しい」と言います。母の由衣さん(仮名)は、「最近の様子を見ると本当にうれしい。親として、子どもがこれからも毎日楽しく過ごせるよう、『無理しないでいいよ』と伝えながら接していきたい」と、話してくれました。

3か月ぶりに登校することができた沙織さん
沙織さんの母・由衣さん(仮名)

大切にしたい「周囲の理解」

小児科医の吉田さんによると、起立性調節障害の治療で最も大切なのは「周囲の理解」だといいます。起立性調節障害は「心身症」とも呼ばれ、ストレスや心の問題が発症や症状の悪化に大きく影響します。患者と家族が病気について理解し、治療について考え、寄り添うことが重要です。身近な人が「起立性調節障害では?」と思ったら、ためらわずに小児科や内科への受診を検討してください。

この記事は以下の番組から作成しています。

東洋医学ホントのチカラ

東洋医学ホントのチカラ「心と体を整えるSP」

2023年3月20日(月) 午後7:30~ [総合]

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