意図せず体が動く チック症・トゥレット症

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チック症脳・神経全身

自分の意思に反して体が動く どんな病気?

自分の意思に反して体が動いてしまったり、声が出てしまう病気があります。
「チック症」と言い、せきばらいをしたり、まばたきをするなどの症状がよくあります。多くの人は自然に症状が治まっていきますが、さまざまな声と動きが1年以上・長期にわたって持続し、日常生活に困難をきたしてしまう場合に「トゥレット症」と呼ばれます。

運動にまつわるチックを運動チック。音声にまつまるものを音声チックといい、症状には単純なものと複雑なものがあります。

単純性と複雑性の運動チック

単純な運動チックでは、まばたき・首を振る・肩をすくめる・顔をしかめる・白目をむくなどの症状があります。
複雑な運動チックになると、跳びはねる・ひざをつく・つま先をする・しゃがむ・舌を突き出す・体をたたくなどの症状があります。

音声チックの例

単純な音声チックでは、「うっ」という声・のどを鳴らす・鼻をすすり・舌うちなどをしてしまうことがあります。
複雑な音声チックでは、人の言葉や自分の言ったことを繰り返す・ばか、死ね、卑猥な言葉など、言うのをためらう言葉を、言わないでおこうとすればするほど発してしまうこともあります。

これらの多彩な症状が1年以上持続する場合には、「トゥレット症」と呼ばれます。

発症のメカニズム

生まれながらの体質が関わっています。脳の神経ネットワークにおいてドパミンと呼ばれる神経伝達物質の作用が過剰であることによって起こると考えられています。また、感染症などが関与する場合もあります。

チックが最初に現れるのは小学校入学前くらいが多く、その後、症状が消えたり現れたりします。症状のピークは、10〜15歳ごろで、成人するまでに軽減していくのが一般的な経過です。しかし、チック症の10人に1人くらいは大人になっても症状が持続したり、むしろ症状が強くなることもあります。

治療法

治療は主に行動療法と薬物療法です。
行動療法は例えば、腕がムズムズする感じがして腕を動かさざるを得ない場合であれば、ムズムズする感じがしたときに手を押さえるなど、症状と同時にできない行動を身につける方法です。
薬物療法では、ドパミンの働きを調整する薬剤などが用いられます。症状を緩和して日常生活への影響を軽減することが目的です。経過をよくしたり、病気を根治するものではありません。

当事者の困り

4歳からチックの症状が現れ始めた田島さん

4歳からチックの症状が現れ始めた田島さん。運動チックや音声チックの症状があります。田島さんは症状が出る前にはあることを感じると話します。

田島「自分の体内からエネルギーというか、見えない力みたいなものを感じます。(そのエネルギーを)放出しないと自分の気が晴れないというか、済まないっていうのが頭にあって症状が出ます」

1度、症状が出ると考えなどがリセットされますが、第三者に注意をされると反動が大きいと言います。

田島「第三者の人から“今やらないで”とか“ちょっと静かにして”って言われると、いや“俺も我慢したい”けど意思とは裏腹にやってはいけないと思えば思うほど症状が出てしまうというのがあります」

田島さんは運動が大好きです。

運動をしている田島さん

田島さんは、集中しているときには症状が現れにくいと言います。
症状が出たり、出なかったりを繰り返す中で、心ない言葉で苦しい経験もありました。

田島「映画館とか、みんながいて静かな場所でやっぱり症状とか出ちゃうんですよ。
「ふ〜」とか「は〜」とかって言ったりしちゃって…前のお客さんから「うるせぇよ」とかって後ろ振り返って「静かにしろよ」みたいに怒られたことがあって…。
「うるせえ」とかって言われると、やっぱり自分もすごく傷つくんですよ。気分も落ち込んじゃうと、どんどんひどくなっちゃって。それが結構、過去でつらかった出来事です」

周囲の人ができること

当事者は目に見える症状だけではなく、自分の意のままにならないつらさとも対峙しています。さらに周りの人から十分に理解されないつらさを感じることがないようにしていく必要があります。

当事者と一緒に考える

重要なことは、どうするのがいいか当事者と一緒に考えることです。
たとえば、「チックが発作的に激しく出るときがあるので、そういうときには部屋を出て落ち着くのを待ち、その後にデスクに戻るほうがいい」「みんなに取り囲まれているのはしんどいから、出口に近いところがいい」という当事者もいるでしょう。
しかし、「あなたはチックがあるから隅の席ね」と言われたら、こんな屈辱的なことはありません。
本人にとって何が一番楽なのかということを、当事者と一緒に考えていい方向を見つけていくことが非常に重要です。

症状についてオープンに話すことも

周囲の人はチックが出ても気にしないことがいちばんですが、症状の強さから見て気づかないふりをすることのほうが不自然であったり、こわばった空気を当事者が苦しいと感じることもあります。
チックが出るからと言って腫れ物に触るように接するのではなく、時にはチックについて話題にすることがよいこともあります。チックは新学期や楽しいこと、緊張することなど変化があるときに出やすくなります。例えば、遠足の前にチックが出てきたりすると「楽しみなんだね!」ということや、あるいは遊園地などに行った後であれば、「とても楽しかったもんね」のような感じでオープンに話せるような雰囲気があると本人も家族も楽になるかもしれません。

当事者の田島さんが周囲の人にして欲しいこと

当事者の田島さんが周囲の人にして欲しいこと

田島「僕のみんなにして欲しいことは、“愛のある無視”です。この病気はほかの人に「どうした?大丈夫?」などと言われるときがあるんですけど、そういう時、善意の気持ちで言って下さってもやっぱり、どうしても傷つくときがあるので、町なかで見かけたときには、皆さんに“温かく見守っていただく”ということをしてほしいです」

チックといえば、知っている人も多いかもしれません。
しかし、知っているつもりの症状になってしまい、知らないことに気付かなかったり、あるいは誤解をしていることも多いかもしれません。当事者の困りは十人十色ですので、身近に当事者の人がいたら、どうしたら良いのか一緒に考え、寄り添うことが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年3月 号に掲載されています。

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