慢性腎臓病 腎臓と筋肉を維持する体操を紹介

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運動の健康効果健康体操慢性腎臓病(CKD)腎臓

適度な運動は 腎臓や全身の血管を守る

慢性腎臓病がある場合、適度な運動を継続すると、腎機能の低下を防ぐことが可能です。それによって透析治療を回避したり、開始時間を遅らせたりする効果が期待できます。また、透析治療を受けている人にも重要です。慢性腎臓病が進行すると、心筋梗塞や脳卒中などの合併症を起こしやすくなるのですが、運動によりそのリスクを下げることができます。

適度な運動をすると血流が増えて血管が刺激され、血管の内皮細胞で一酸化窒素という物質がつくられます。この一酸化窒素には全身の血管を広げる働きがあるため、血圧を下げ、動脈硬化の予防につながります。心臓や脳の血管にもよいため、心筋梗塞や脳卒中を防ぐ効果につながります。また、腎臓は細かい血管が集まっている臓器なので、腎臓もよい状態に維持しやすくなります。

運動は、適度な強度であることが重要です。激しい運動は腎臓に負担をかけるため、むしろ悪影響となります。かといって、軽すぎる運動では効果がほとんどありません。適度な強度の目安は、「息切れが起こる手前の強さ」です。このレベルの運動の習慣化が難しい場合でもあきらめる必要はありません。たとえ軽めの運動でも、継続しているうちに運動の強度を上げていくことができます。

3分でできる「腎臓体操」

日本腎臓リハビリテーション学会では、「3分間でできる腎臓体操」を勧めています。ここでは3つの体操を紹介します。目安は、1つの体操を3分間行うのを1セットとして、1日1セット、週に3~5回行うとよいでしょう。慣れてきたら、1日3セットに増やせると、さらに効果が期待できます。

※運動中に体調が悪くなった場合は、すぐに運動を中止し、医師に報告してください。

かかとの上げ下ろし

ふくらはぎの筋肉を鍛える体操です。ふくらはぎの筋肉には、脚の血液を心臓に戻すポンプの働きがあります。

ふくらはぎの筋肉を鍛える体操

(1)両手を腰に当てて、両足を肩幅に開いて立つ。

かかとの上げ下ろし

(2)呼吸を止めないために「ツー」と発声しながら、5秒間かけてかかとをゆっくり上げる。
(3)かかとを上げたところで息を吸って、「ツー」と発声しながら、5秒間かけてかかとをゆっくり下す。
(4)これを3分間続ける。

脚上げ

お尻や太ももなど下半身の大きな筋肉を動かし、血流をよくしたり、下半身の筋肉を鍛える体操です。

下半身の筋肉を鍛える体操

(1)安定しているイスの背もたれや手すりなどに片方の手でつかまって立つ。
(2)「ツー」と発声しながら、5秒間かけて片方の脚を前にゆっくり上げる。

太ももを持ちあげる

(3)いったん息を吸い、「ツー」と発声しながら、5秒間かけて膝を曲げて太ももを持ち上げる。

足を下ろして後ろにふり上げる

(4)いったん息を吸い、「ツー」と発声しながら、曲げた脚を5秒間かけてゆっくり下ろしてから、後ろに振り上げる。一連の動作は、背筋をのばしたまま行うのがポイントです。
(5)1の姿勢に戻る。
(6)反対側の脚も同様に行い、これを交互に3分間続ける。

ばんざい

上半身の血流をよくする体操です。

上半身の血流をよくする体操

(1)両足を肩幅に開いて立ち、両手は太ももの脇に添える。

ばんざいするように両手をあげる

(2)鼻からゆっくり息を吸い、「ツー」と発声しながら、5秒間かけてばんざいをするように両手を上げる。
(3)「ツー」と発声しながら、5秒間かけて両手を下す。
(4)これを3分間続ける。

いずれの腎臓体操も3分間続けるのがきつい場合は、無理せず、まずは1分間を目指してみてください。体操を継続しているうちに、徐々に分数を増やせるとよいでしょう。

ウォーキング 1日5000歩で腎機能に効果

ウォーキングもお勧めです。慢性腎臓病がある人が1日5000歩(10分間に1000歩として約50分間)ほど歩くと腎機能の維持・向上がみられたという報告があります。(Sato T, et al. PLoS ONE. 2019)
これはウォーキングだけでなく、生活動作としての歩数も含まれます。歩数は多ければ多いほど効果が高くなります。ただしウォーキングの適度なペースや分数は人によって異なるため、必ず医師に相談して決めてください。また、思わぬけがや事故を防ぐためにも、ウォーキングの前に必ずストレッチをしてください。

ストレッチの例 寝たまま もも裏ストレッチ

ウォーキングをする前に行うストレッチとして特に勧められるのが、脚や背中のストレッチです。その例として、寝たまま行える、ももの裏を伸ばすストレッチを紹介します。

仰向けになる

(1)あおむけになって腕と脚を自然に伸ばす。

片足の膝を直角に立てる

(2)片方の膝を直角に立てて、その足の裏を床にしっかりつける。

もう一方の脚の膝を軽く曲げながら上げる

(3)もう一方の脚の膝を軽く曲げながら脚を上げる。
(4)「ツー」と発声しながら、5秒間かけて上げたほうの脚を胸に引き寄せる。

静かに呼吸をして太ももの裏を伸ばす

(5)静かに呼吸をしながら、太ももの裏を伸ばして10秒間保つ。
(6)鼻から息を吸いながらゆっくり上げた脚を下ろし、片膝を直角に立てた姿勢に戻る。
(7)もう一方の脚も同様に行う。

「らくらく筋トレ」で筋力低下・サルコペニアを防ぐ

慢性腎臓病がある人では、たんぱく質の摂取制限などにより、筋力が低下した状態である「サルコペニア」が起こりやすくなります。それを防ぐためには筋力トレーニングが重要です。ただし、本格的な筋力トレーニングは激しい運動になるので避けましょう。適度な運動としてお勧めなのが、特別な道具を使わずに短時間でできる「らくらく筋トレ」です。らくらく筋トレを行う前も、必ず脚や背中のストレッチを行ってください。

背中とお尻を鍛える バックブリッジ

慢性腎臓病がある場合は、全身の筋力維持が重要です。そのため、一度に複数の箇所を鍛えられる筋力トレーニングがお勧めです。その例として、背中とお尻を鍛える「バックブリッジ」を紹介します。

あおむけになって両足を肩幅に広げる

(1)あおむけになって両足を肩幅に開き、両膝を立てる。両手は体の脇に置く。

ゆっくりお尻を持ちあげる

(2)「ツー」と発声しながら、5秒間かけてゆっくりお尻を持ち上げる。
(3)ゆっくり呼吸をしながら、その姿勢を10秒間保つ。
(4)鼻から息を吸いながら、5秒間かけてゆっくりお尻を下ろし、元の姿勢に戻る。
(5)3~5回程度繰り返すと効果が期待できる。

運動のスケジュール

運動のスケジュール

こちらはあくまでも一例ですが、腎臓体操、ウォーキング、らくらく筋トレ、休息日を組み合わせた1週間のスケジュール例です。自分の体調や体力に合わせて、無理のない範囲で継続して行いましょう。筋力トレーニングの効果を高めるためには、同じ種目を2日以上連続して行わないことが重要です。たとえば、らくらく筋トレのバックブリッジは1日以上間をあけて行ってください。複数の運動を行うのが難しいと感じたら、どれか1つから始めて、徐々に種目や回数を増やしていきましょう。

健康保険適用となった透析患者の「腎臓リハビリ」

「腎臓リハビリテーション」は、適切な運動療法の指導だけでなく、食事療法や心理面でのサポートなど、患者個人に合わせたさまざまなプログラムを医療機関で受けられます。2022年4月から、透析治療を受けている人への腎臓リハビリテーションに健康保険が適用されました。指導の開始日から90日間を限度に適用されます。腎臓リハビリテーションを行っている施設については、日本腎臓リハビリテーション学会のホームページで確認できます。

日本腎臓リハビリテーション学会ホームページ
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詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年11月 号に掲載されています。

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