血液がんの最新治療 CAR-T細胞療法とは?

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CAR-T細胞療法とは

CAR-T細胞療法とは

CAR-T細胞療法は、2019年に承認された血液がんの最新治療です。血液がんには、白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などがあります。抗がん剤、放射線などの標準的な治療が行われますが、こうした治療に効果がなかった場合や再発した場合に、CAR-T細胞療法が行われることがあります。CAR-T細胞療法は、患者さん自身が持っている免疫細胞の一種、T細胞を血液から採取して、がんと戦うように強化して体に戻すという高度な治療法です。

CAR-T細胞療法 承認されている製品

2022年10月現在、下記の5つの製品が承認されています。対象となる病気はそれぞれ異なります。

①チサゲンレクルユーセル(キムリア)2019年承認

○白血病 再発または難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病

○悪性リンパ腫 再発または難治性の

  • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
  • 濾胞性(ろほうせい)リンパ腫 (2022年に効能追加)

②アキシカブタゲンシロルユーセル(イエスカルタ)2021年承認

○悪性リンパ腫 再発または難治性の

  • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
  • 原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫
  • 形質転換濾胞性リンパ腫
  • 高悪性度B細胞リンパ腫

③リソカブタゲンマラルユーセル(ブレヤンジ)2021年承認

○悪性リンパ腫 再発または難治性の

  • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
  • 原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫
  • 形質転換低悪性度非ホジキンリンパ腫
  • 高悪性度B細胞リンパ腫
  • 濾胞性リンパ腫

④イデカブタゲンビクルユーセル(アベクマ)2022年承認

⑤シルタカブタゲンオートルユーセル(カービクティ)2022年承認

○多発性骨髄腫 再発または難治性の多発性骨髄腫

治療の流れ

CAR-T細胞療法は、患者さん自身の免疫細胞を強化する治療法です。

CAR-T細胞療法の治療の流れ
  1. 患者さんの血液から免疫細胞の一種であるT細胞を集めます。
  2. 集めたT細胞は製薬企業に送られ、遺伝子操作で「がんと戦う武器」が新たに加えられます。
  3. 強化されたT細胞を患者さんに戻します。
    すると、新たなT細胞が体内でがん細胞を捕らえ、攻撃して倒してくれるのです。

がんと戦う武器がCAR(Chimeric Antigen Receptor, キメラ抗原受容体)という名前で、T細胞を強化するため、「CAR-T細胞療法」と呼ばれています。

CAR-T細胞療法の治療後は

治療後は、定期的に検査や副作用対策も行われます。がんが再発していないか確認する血液検査画像検査、抗体を補充して免疫機能を補助する抗体補充療法などが該当します。

ポイントは、“患者さん自身”の免疫細胞

がんは、免疫系ががん細胞を抑えることができないために進行します。そこで、他者の免疫細胞を借りる、(他家)骨髄移植が行われてきましたが、他者の免疫であるため、移植された免疫細胞が患者さんの体内でがんのみならず正常な組織も攻撃するという現象が起きることがありました。CAR-T細胞療法は患者さん自身の免疫細胞が元となっているため、そのような心配がなく、骨髄移植のようにドナーを探す必要もありません。

主な副作用

CAR-T細胞療法の主な副作用

CAR-T細胞療法では、通常の抗がん剤治療のような嘔吐や脱毛といった症状とは異なる副作用が生じます。特に起きやすく注意が必要なのが「サイトカインストーム」という全身の強い炎症症状です。サイトカインとは敵を倒すために免疫細胞が出す物質。免疫反応に必要ですが、過剰になると攻撃の矛先が全身の臓器へと向かい、命の危険が生じる場合もあります。そのため、CAR-T細胞療法では、患者さんの様子を診ながら、免疫抑制剤によって、適宜ブレーキもかけながら治療が進められます。

治療を受けたいと思った場合

CAR-T細胞療法は、主に血液内科の専門医がいる医療機関で行われています。適用される疾患や治療に入るための条件が様々あり、CAR-T細胞療法が受けられるかどうかは個々の患者さんによって異なります。直接、医療機関に問い合わせはせず、治療法の詳細については主治医の先生にご相談下さい。また、国の制度に基づいて一定の効果や安全性が確認され、保険適用になった治療のため、高額療養費制度が利用できますので、自己負担は抑えられています。

受けられる人は?

治療を受けるのに必要なポイントが2つあります。

①がんの種類(タイプ)

「悪性リンパ腫」「白血病」「多発性骨髄腫」に適用となっていますが、詳細に見た場合、その中の全てのタイプが対象となるわけではありません。詳しい病名は前述「CAR-T細胞療法 承認されている製品」の項目をご確認下さい。

②再発性または難治性であること

悪性リンパ腫の場合の治療の流れ

がんの詳細なタイプに加え、「再発を繰り返している」「難治性である」という点も必要です。
例えば、悪性リンパ腫で最も患者数が多い「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の場合、最初に行うのは、複数の抗がん剤を組み合わせる「R-CHOP療法」という治療法。それでも再発した場合、次に行うのがほかの抗がん剤を使う「救援化学療法」。それでもがんが抑えられない場合、CAR-T細胞療法が選択肢に入ってきます。

※これらの条件に加え、患者さんの状態を診てケースバイケースで治療に入るかどうかが判断されます。必ず、まずは主治医にご相談下さい。

治療効果

効果は、がんの種類によって異なります。

がんの種類のよって異なる治療結果

※いずれも国際治験時のデータです。

例えば、

  • 悪性リンパ腫のうち、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」では、およそ4割~6割
  • 「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」では、およそ6割
  • 「多発性骨髄腫」では、およそ3割で、

がんが検出されない「完全寛解」という状態に至ると報告されています。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の場合、CAR-T細胞療法が登場する以前は該当の数字は1割以下でした。それが4~6割に向上しています。一方で、これらの数字は効果が出ない患者さんも多くいらっしゃることを示しています。また、「完全寛解」の状態に到っても、目に見えない少数の細胞が残り、後に再発するケースもあります。効果や安全性の向上に向け、世界中で様々な研究が行われています。

効く場合と効かない場合があるのはなぜ?

効果が表れる人と表れない人がいる理由として、いくつかの可能性が考えられています。

①患者さんの免疫細胞が弱っている場合

CAR-T細胞療法は、患者さんの免疫細胞を改良する治療法です。そのため、それまでに受けた抗がん剤の影響で免疫細胞が弱っていると、CAR-T細胞がうまく製造できなかったり、できても質が悪かったりといった状態になり、敵を攻撃できない可能性があります。医療現場では、事前に使う抗がん剤を適切に選択し、なるべく免疫の状態が良いうちにCAR-T細胞を作ることが試みられています。

②がん細胞が多い場合

敵となるがん細胞の数が多すぎる場合、強化したT細胞であっても倒しきれないことがあります。そのため、抗がん剤や放射線でがん細胞の数を減らしたうえで、CAR-T細胞療法につなぐということが行われます。

③がん細胞が表面の目印を隠す場合

CAR-T細胞療法では、がん細胞の表面の特定の目印(抗原)を見つけて捕らえ、倒します。その目印をがん細胞が隠す現象が起きうることが知られています。別の目印を攻撃する新たなCAR-T細胞療法による治療が研究されています。

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クローズアップ現代

【クローズアップ現代】

2022年7月25日(月)放送
『ウイルスの力を病気を治す力へ~がん・難病治療の新戦略~』

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