難病の治療に光! 脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子治療とは?

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脳・神経筋肉

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脊髄性筋萎縮症とは

脊髄性筋萎縮症(SMA)とは、運動神経の遺伝子の変化が原因で、筋肉が弱っていく難病です。子どもの時期に発症することが多い病気ですが、ほとんどの子どもは知能の発達が正常なため、学校の勉強などはできます。しかし、発症すると筋肉が弱っていき、歩行や手足を動かすことができなくなっていきます。最も重度のⅠ型の場合は、人工呼吸器や24時間の介助が必要になり、人工呼吸器を使わない場合は2歳までに亡くなることが多いと言われています。遺伝子疾患による乳幼児の死亡原因の中で最も多い病気で、SMN1という遺伝子が変化していることが原因であることが分かっています。

「SMA(脊髄性筋萎縮症)家族の会」のホームページにはこの病気に関する詳しい情報が掲載されています。

https://www.sma-kazoku.net/
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脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療

脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療薬が2020年に承認されました。ウイルスベクター製品の「オナセムノゲン アベパルボベク(ゾルゲンスマ)」です。この薬は、生まれつき変化しているSMN1遺伝子を患者さんに補充することで、運動神経の働きを活発にし、筋肉が動かせるようになることをねらったものです。遺伝子を補充するのに使われるのは、アデノ随伴ウイルスです。ウイルスがもともと持っている遺伝子を取り除き、代わりにヒトのSMN1遺伝子を組み込みます。このように加工したウイルスによって、SMN1遺伝子を運動神経細胞の中に運ぶのです。すると、SMN1遺伝子が働いて、運動神経細胞が活発になり、筋肉が動かせるようになるといいます。この治療を受けられるのは2歳未満の患者さんです。

脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療は、各都道府県の大きな病院で受けられます。医療機関は、「SMA(脊髄性筋萎縮症)赤ちゃんを守る会」のホームページに掲載されています。また、脊髄性筋萎縮症は、小児慢性特定疾病や指定難病、乳幼児・子どもの医療費助成制度など、さまざまな医療費助成制度を利用することができます。こちらも「SMA(脊髄性筋萎縮症)赤ちゃんを守る会」のホームページに掲載されています。

SMA(脊髄性筋萎縮症)赤ちゃんを守る会
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脊髄性筋萎縮症は早期診断、早期治療が重要

これまでに国内でおよそ50人以上の治療が行われ(2022年7月現在)、多くの場合は治療の効果が現れています。重度のⅠ型でも、生後15日と早期に治療を受けた子どもの例では、運動機能が正常に発達し、3歳になったいま、元気に歩いたり遊んだりしています。一方、治療を開始する年齢によっては、副作用として肝臓や血小板の障害が現れる場合や、腎臓の障害として血栓性微小血管症が現れる場合があります。

脊髄性筋萎縮症の治療は早ければ早いほど効果が高いため、1日でも早く病気を発見・診断して、1日でも早く治療することが重要です。最近では、新生児のときに行う血液検査「新生児マススクリーニング」で調べる自治体が全国に拡大しつつあり、これまでにもこの検査で脊髄性筋萎縮症の新生児が見つかり、早期の治療に結びついたケースもあります。

子どもが遊んでいる様子

脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療に関するQ&A

脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療の治験および治療を担当してきた東京女子医科大学特任教授の齋藤加代子さんに、この遺伝子治療について詳しくうかがいました。

◎この遺伝子治療はどのくらい効果があるのですか?

齋藤:脊髄性筋萎縮症は最も重症なI型の赤ちゃんは人工呼吸器をつけないと2歳までにだいたい95%ぐらいが亡くなるという重篤な病気です。そういった赤ちゃんに対して新しい遺伝子治療の薬が非常に大きな効果を示して、少し症状が出てきた子どももその症状がだんだん消える、そして新しい運動機能を少しずつ獲得していくなどの効果が見られます。そして、発症をする前に診断がついた子どもたちは、発症前に治療をすると、赤ちゃんがちょうど1歳ぐらいには歩けるようになる。そして階段を上れるようになるというような良い効果が認められています。遺伝子治療によって将来、非常に健康な状態になっていくかもしれない。それから運動機能障害が出ないようになるかもしれないという、そういう非常に大きな期待を持つことができると考えられています。

◎早期診断はどのくらい重要ですか?

齋藤:Time is Neuron(時は神経なり)と、私たちはよく言っているのですが、時間が神経細胞の生存率に関わるため、1日でも1時間でも早く治療を始めてほしいと思っています。この遺伝子治療の効果が非常に素晴らしいものだということから、一刻も早く治療をする、そのためには一刻も早く診断をすることが必要になります。早くに診断をするというのは、すごく軽微な症状のときに気づいて、そして遺伝子検査を一刻も早くするという、それが早期発見、早期治療というそのプロセスの重要なところになります。特にI型の脊髄性筋萎縮症は、生まれてしばらくたってから症状が出てきますが、一般的には1か月健診ぐらいで親御さんが気づかれることがあります。「手足がだらんとしている」「最近手足を動かさなくなった」「おとなしすぎて、何も反応をしない」「泣き声がとても小さい」「ミルクがあまり飲めない」とか、そういった軽微なサインを見逃さないようにして下さい。様子を見ないで、すぐに小児神経の専門家に診てもらうことが重要です。

◎長期的な効果や安全性はどこまで分かっていますか?

齋藤:この脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療にはアデノ随伴ウイルスベクターというものが使われています。ウイルスベクターとは、ウイルスの毒性のところを取り除いて、ヒトの体に運ぶための目的の遺伝子を入れたものです。こういったウイルスベクターの治療は、まだ10年間ぐらいの歴史しかありません。つまり、治療の効果がどのくらい持続するかについては、実際に投与された子どもたちがどういった経過をたどるかということを長期に見ていかなければなりません。安全性についてですが、このウイルスベクターを投与すると体の免疫反応が起こります。その免疫反応によって、肝臓の機能障害などの副作用が出ることがあります。10年後、20年後の副作用には分からない点があるので、経過を追っていく必要があります。

この記事は以下の番組から作成しています。

クローズアップ現代

【クローズアップ現代】

2022年7月25日(月)放送
『ウイルスの力を病気を治す力へ~がん・難病治療の新戦略~』

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