がんによる食欲低下と体重減少 「悪液質」の治療法

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悪液質とは?

がんが進行して、大きく体重が減少して体力がなくなる、そういう状態を「がん悪液質」と言います。悪液質はがん細胞がからだに及ぼす様々な作用によって食欲が抑えられ、筋肉や脂肪などが異常に減ってしまう状態で、ひとつの病気と言えます。放っておくと体力が落ち、必要ながん治療が受けられなかったり、生活の質が低下したりしますので、早めに発見して治療を始めることが大切です。

肺がん治療中のAさんです。

肺がん治療中のAさんの例

食欲がなく、体重がこの1か月で62キロから4キロ落ちてしまいました。典型的な「悪液質」です。

体力が落ちてしまうと必要ながん治療が受けられない

食事が取れず体力が減り続けている中で、抗がん剤や放射線などの体力を要する治療を受けるのは大変です。がんに対して効果的な治療があるのに、からだが副作用に耐えられず続けられない、というケースになりかねません。

食欲が落ちてやせるのはサイトカインが原因

悪液質では、主にがん細胞がつくり出す「サイトカイン」という物質が脳に働き、食欲を抑えることで食べられないという状態になります。

食欲が落ちてやせるのはサイトカインが原因

この「サイトカイン」は筋肉や脂肪を燃焼させる働きもあり、何もしなくてもエネルギーが消費され、体重が減ります。つまり体の中ではエネルギーが消費されているのに、必要な栄養が入ってこない。これで急激にやせていくのです。
悪液質の診断基準は半年で5%の体重減少。60キロの人の場合は3キロの減少が目安です。

世界初の新薬が登場

今までは「がんだからしょうがない」とあきらめられていた悪液質ですが、2021年に世界で初めての悪液質の治療薬「アナモレリン」が日本で承認されました。

悪液質の治療薬「アナモレリン」の働き

「アナモレリン」はまず脳に作用して食欲を刺激。空腹を感じやすい状態となります。さらに成長ホルモンの分泌を促し、筋肉の合成を助けます。つまり、食欲をアップさせてエネルギーを取り込み、筋肉をつけて体重を維持する働きがあるのです。

しかし、薬で筋肉が増えて体重が増加しただけでは不十分です。必要な栄養を栄養療法で補い、適度な運動で筋力をつけなくてはなりません。

がんに負けない!健康体操

悪液質に負けない体を作るために、どんな運動をすると良いのでしょうか?
この運動は、人間の基本の力でもある歩く力を落とさないための運動です。高い強度で短期間で終わるのでなく、低い強度だけど長時間行うことを目的としたプログラムで、日々の運動習慣をつけてもらおうという狙いです。

①立ち上がり運動

立ち上がり運動

イラスト:内藤 立暁

椅子に座ったまま手を組んで、そのまま立ち上がります。10回行います。

②ひざ伸ばし運動

ひざ伸ばし運動

座ったまま片足ずつ足を前に伸ばします。左右10回ずつ行います。

③かかと上げ運動

かかと上げ運動

両足揃えてかかとを上げます。10回行います。

④ひざ上げ運動

ひざ上げ運動

座ったまま片足ずつひざを上げます。左右10回ずつ行います。

⑤足を開く運動

足を開く運動

立ったまま足を外側に開きます。左右10回ずつ行います。

以上、5つの運動を1セットに、1日1〜3セットを目標に行いましょう。
決して無理をせず、転倒に気をつけて行なってください。

※このプログラムは、第一段階の臨床研究で、高齢のがん患者さんが安全に続けられることを確認しました。身体機能に対する効果は、第二段階の臨床研究で検証中です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年2月 号に掲載されています。

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