悩む人が多い慢性腰痛。実は、その原因が、腰ではなく「脳」にある場合が少なくないことが分かっています。こうしたなか、「脳」が原因の慢性腰痛の治療に、鍼灸が有効であることが最新の脳科学で明らかになってきました。今回は、明治国際医療大学教授で鍼灸師の伊藤和憲さんに、効果的な鍼灸治療やセルフケアの方法を教えてもらいます。


慢性腰痛の原因は「脳」!?
今回、長年、慢性的な腰痛に悩む10人に協力してもらい、伊藤さんの鍼治療を受けてもらいました。すると、7人は腰周りに痛みを起こす筋肉や関節が見つかり、腰への鍼治療で改善した人がほとんどでしたが、残りの3人は、腰への治療だけではあまり効果がないと判断されました。実は近年、慢性痛に悩む人の脳の機能が変化し、痛みを起こす身体的な原因がないのに痛みを感じたり、痛みを強く感じてしまうケースがあることが知られています。


伊藤さんは、この3人が脳に原因があるタイプの慢性腰痛だと判断。そこで、頭や手足を刺激し、脳の働きの改善を狙う鍼治療をスタートします。そして一か月後、3人の腰痛は大きく改善したのです。

最新の脳科学で「鍼の効果」が判明
なぜ、頭や手足への鍼治療で改善が見られたのか?実は、鍼治療が脳の働きを改善するメカニズムの解明も進んでいます。アメリカ・ハーバード大学のジャン・コン准教授は、慢性腰痛患者が鍼治療を受けた時の脳の活動をMRIで分析。すると、痛みが改善した患者の脳では、痛みを抑制する機能を持つ「PAG」と呼ばれる場所に変化が見られました。PAGと痛みに関わる脳のさまざまな場所のネットワークが強化されていたのです。つまり、鍼治療が脳の機能を変化させ、「痛みを抑制する」働きを回復させることが示されたのです。


慢性痛の「ツボ押し」セルフケア
慢性痛の予防や改善には、日常的にツボ押しなどのセルフケアを行うことが効果的だといいます。そこで伊藤先生オススメの、「慢性痛に役立つツボ」をご紹介します。
腎愈(じんゆ)・大腸愈(だいちょうゆ)

腰が原因の腰痛の人にオススメのツボです。
腎愈は一番下の肋骨の高さ、背骨からテニスボール1個分横にずらしたところ。
大腸愈はウエストの高さ、同じく背骨からテニスボール1個分横にずらしたところ。
手で押すだけでなく、壁や床と背中の間にテニスボールを挟み、自分の体重をかけて押すのもオススメです。押しすぎに注意してください。
腰腿点(ようたいてん)

急性腰痛と慢性腰痛の両方にオススメのツボです。人さし指と中指の骨が交わるところの少し上と、薬指と小指の骨が交わるところの少し上、ちょっとくぼんだところにあります。右手と左手にあります。
合谷(ごうこく)

腰痛だけでなく慢性痛に広く役立つツボです。親指と人差し指の骨が交わるところから、少し人差し指寄りにあるへこんだところです。ストレスからくる体のこわばりや痛みを和らげるのにオススメです。
頭維(ずい)

慢性痛の人に広く役立つツボです。額の髪の生え際から親指半分ほど奥にあります。集中力を高めたいときや、ネガティブな思考を改善したいときにも役立ちます。
※ツボは、気持ちいいと感じる程度の強さで押してください。
①指でゆっくり5秒ほど押す、②ゆっくり指を離す、を5セットほど繰り返します。
くれぐれも、押しすぎには注意してください。
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