肺がん 進化し続ける放射線治療について

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肺がんたんに血が混じる呼吸器

肺がん 放射線治療とは?

肺がんの放射線治療とは?

放射線治療は、高エネルギーのエックス線などをがん細胞に照射して、死滅させる治療法です。
手術と違って麻酔が不要で、治療による痛みはほとんどありません。体への負担が少ないため、心肺機能が低下していたり持病がある高齢者など、体力面が心配で手術が受けられない人でも放射線治療を受けることができます。

どんなときに放射線治療を行う?

放射線治療が行えるケース

がんが小さく、1か所にとどまっている「早期がん」や、多少進行しているが、がんが局所にとどまっている「局所進行がん」と、どちらの場合でも、放射線治療を行うことが可能です。
がんが小さい早期がんの場合は、放射線治療だけで根治できるケースも多くなってきています。

ピンポイントにがんをたたく技術

もともと放射線は、上と下の2方向から挟み込むような当て方しかできませんでしたが、照射技術の進歩により、真横や、斜めからなどさまざまな方向から、がんを3次元で立体的に捉えて、6~10方向など多方向から放射線を当てられるようになりました。

昔の放射線治療
三次元原体照射

さまざまな方向から放射線を照射できるようになると、心臓や気管支などの重要な臓器を避けながら放射線を当てることができます。
また、当てられる方向が多ければ、それぞれは弱い放射線でも、交点にあるがんには結果として強い放射線量を当てることができます。

患者一人一人の治療計画を綿密に立てる

がんにどれくらいの放射線量を当てるか、がん以外の気管支や心臓など放射線を当てたくない部分はどこかなどをCT画像から3次元モデルを作製して、決められるようになりました。
また、計画を立てたら、狙った場所に放射線が必要な量だけ当たるか検証します。「ファントム」と呼ばれる、患者の体を想定した機器に実際に放射線を当てて、計画通りに放射線量が当たっているか測定するのです。こうして一人一人のケースを検証してから実際の治療を行います。

CT画像から作成した3次元モデル
患者の体を想定した機器、ファントム

治療では呼吸法の練習も

肺は、呼吸をするごとに動いてしまうので、息を止める呼吸法を練習してから治療を行います。
がんだけにピンポイントに放射線を当てるためには、一時的に肺の動きを止めることが重要なのです。息を吸って、吐いて、止める。10秒〜20秒間息を止められる人は、この呼吸法を使って治療を行います。

しかし、中には息をうまく止められない人もいます。その場合は、「呼吸同期照射」と言って、自然に呼吸をしている状態で、呼吸をするときの胸の動きを機械がチェックして、がんが一定の範囲にある間だけ放射線を照射するという方法で治療を行います。(医療機関によって違う方法を使う場合もあります。)

早期がんの治療期間

1日1回の照射を週4日間行うのが基本です。
4日間の放射線治療で、がんが消失する人もいますが、通常効果が出るのには、数か月かかります。また、がんがまだ残っている場合は、他の治療法を検討します。

局所進行がんは化学放射線療法を行う


化学放射線療法

化学放射線療法は、放射線照射と、従来の抗がん剤を使った化学療法を組み合わせた治療法です。がんが進行し、がんの周辺のリンパ節に転移している「局所進行がん」の場合に行われます。

画像検査で確認できるがんやその周囲のリンパ節のがんには、放射線を照射します。
しかしそれだけではなく、局所進行がんでは、画像では見えないがん細胞が広がっている可能性があるので、目に見えないがんを根絶させるために抗がん剤(化学療法)を行います。

がんの複雑な形に合わせて照射する

早期がんの場合は、がんが1か所だけなので、そこを一点集中で狙うということができますが、局所進行がんの場合は、がんがもっと大きくなっており、さらに転移した場所も含めると、丸い形ではなく、複雑な形になっているため、その形に合わせて対応する必要があります。
そのために放射線の照射技術が進歩してきました。

強度変調放射線治療

この写真は、放射線が出る部分ですが、上から、斜めから、横からと放射線が出る部分がさまざまな形になっています。がんの形に合わせて、その範囲だけを狙い撃ちします。

また、これまで放射線治療で使われていた機械では、放射する放射線量は一定でしたが、最近では、放射線量に変化をつけられるものが出てきました。
心臓や気管支、食道や脊髄など、当てたくない部分には放射線量をより少なくできるようになってきています。

強度変調放射線

設置している医療機関にはまだ限りがありますが、さらに進化が加わった機械も登場しています。
放射線を出す機械が、体の周りを1分間で、ぐるっと一周し、その間に放射線を照射するものです。回りながら照射することにより、治療時間を短縮できます。
また、回転していると、何十か所もの多方向から放射線を当てることができるので、1か所からの放射線量は少なくて済み、正常な臓器への影響が低減できます。

従来の照射と強度変調回転照射の比較画像

左の図は、変調機能を用いずに従来の方法で放射線を当てたものです。
赤い部分が病変部の下のほうまで大きく伸びています。病変部以外にも高い放射線量が当たっていることを示しています。
右の図は、機械が回転しながら変調機能を用いて1分間で放射線を当てたものです。放射線がたくさん当たっていることを示す赤い部分が、病変部にほぼ一致していることが分かります。

化学放射線療法の治療期間

1日1回の照射を週5回×6週間連続で行います。
1回あたりの放射線治療時間は10分程度ですが、薬との併用のため、入院が必要な場合があります。

副作用は、かつてより少なくなった

ほかの重要な臓器への照射をできるだけ避け、多方向から放射線を照射するようになったことで、放射線治療の副作用はかつてに比べて軽くなっています。しかしそれでも、ときには副作用が現れることがあります。治療中に現れる副作用としては、例えば食道炎があります。

食道炎が起こると、「食べ物がのどにつかえる」「のみ込みにくい」「痛みを感じる」などの症状が出てきます。
症状が強い場合には、のみ薬を使って対処することもあります。しかし多くの場合、治療が終了すれば自然に改善します。

治療後少したってから現れる副作用もあります。例えば、肺に炎症が起こることがあります。
「乾いたせき」や「発熱」などの症状が現れますが、多くは次第に治ります。ただ、まれに重症化することもあるので、気になる症状があれば、医師に相談しましょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2021年12月 号に掲載されています。

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