強迫症とは
強迫症は、きちんと手が洗えたか不安で何時間も手を洗い続けたり、家に鍵をかけたか心配になって何度も確認しに戻るなど、特定の行動を繰り返してしまう病気です。若い世代に発症することが多く、国内では100万人以上の患者がいるとみられています。
原因ははっきりとわかっていませんが、対人関係や仕事上のストレス、妊娠・出産、感染症などがきっかけで発症することがあります。
強迫症の症状

強迫症の症状には、強迫観念と強迫行為があります。
強迫観念とは、自分の意に反して、繰り返し頭に浮かぶ考えのことです。強迫行為とは、心の中に繰り返し入り込んでくる不安を打ち消すために行う行為のことで、無意味だと思っても、その行為をやめることができません。
この強迫観念と強迫行為は、多くの場合、セットで現れます。例えば、強迫観念として「汚れが染みついている」と感じ、強迫行為として1日に何度も手洗いとシャワーを繰り返します。症状が進むと、日常生活にも支障を来すようになります。

- 不潔恐怖
汚れが体に染みついてしまっていると感じる。 - 洗浄強迫
手や体を何度洗っても安心できず、洗浄を繰り返す。 - 確認行為(確認強迫)
不安で何度も確認をしてしまう症状で、戸締りや火の元などの確認を繰り返す。 - 病的な疑念
ある疑念にとらわれてしまう症状。例えば、「クレジットカードを落として悪用されるのではないか」という疑念から、いつもポケットを触ったり、下を見て落としていないかを確認したりする強迫行為につながる。 - きっちりする行為
机の上の物を左右対称に何回も並べ直したり、ペットボトルや容器のふたがきっちり閉まっているか気になって、何度も締め直すなどの行為。 - 加害恐怖
誰かに危害を加えてしまうかもしれないという不安にかられる。例えば、刃物を見ると「間違って誰かを刺してしまうかもしれない」と思って、刃物を持つことができない。
進行すると家族を巻き込むことも
本人の日常生活に支障を来すだけでなく、家族にも同じ行動を強要してトラブルになることもあります。そうなる前に早めに精神科や診療内科、メンタルクリニックなどで専門医を受診し、適切な診断・治療を受けることが大切です。
強迫症の治療
薬物療法と認知行動療法で治療します。
薬
主に使用されるのは、抗うつ薬の一種であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。不安(症状)を和らげる効果があります。主な副作用は吐き気、眠気です。ただし、服用し続けていくうちに慣れていくこともあります。副作用が気になる場合は、医師に相談しましょう。
なお、急に服用をやめると、めまい、頭痛、眠気、けん怠感などの「薬物中止後症状」が現れることがあります。薬を減らすときは、医師の指示に従ってゆっくり減らしていきましょう。
認知行動療法
認知行動療法は、こころの病気につながっている考え方の行動パターンの偏りを修正し、バランスをよくし、それにより症状を改善していくものです。また、一度できるようになると、効果は薬よりも長続きします。
認知行動療法を受けたい場合は、専門の医療機関に問い合わせたり、担当医に相談して紹介してもらったりしたうえで、強迫症を熟知した専門家の下で治療を行うことが大切です。
強迫症のための認知行動療法
まず自分が何を怖れて、どんなことを繰り返し行っているのかを客観的に認識します。そして、それを行わなくても大丈夫だと、自分で納得できるようにしていきます。
たとえば不潔恐怖の場合、これまで「汚い」と思って避けていた物を触ったあとに、手を洗わないようにする練習をします。


【机に触るのが怖い場合の例(※新型コロナウイルス感染症対策も踏まえて行う)】
最初に目の前の机を両手で触ります。机に触った手で髪の毛、顔、自分の洋服を触り、手を洗わずに1時間過ごします。汚いと思っていた物に触ったあと、手を1時間洗わなくても平気だと思えるようになると、それまでの偏った考えや行動を徐々に修正することができます。
そのために役立つのが「不安階層表」です。

その人にとっていちばん不快なことを100として、ほかのことにも点数をつけ、低い点数のものから順に挑戦していきます。自分ができそうなことから、できる範囲で段階的に確実にクリアしていくことがポイントです。
また、認知行動療法では、家族の協力も重要です。患者さんの確認や要求に応じないことで、強迫症の症状が悪化するのを防ぐことにつながります。家族も通院に付き添って、強迫症の症状と治療法をよく理解しましょう。