多発性硬化症とは?
脳や脊髄などの中枢神経に炎症が起き、全身にさまざまな症状が出る病気です。指定難病の一つで、患者さんは全国におよそ18000人(厚労省研究班 2017年)。年々増加しています。発見や治療が遅れると、車いす生活に至ることもある要注意な病気です。
多発性硬化症の症状


主な症状は
- 手足のしびれ
手足がビリビリ、ピリピリとしびれる。感覚が鈍くなる。 - 脱力
手足に力が入らない。 - 手の震え
物に触ろうとすると手が震えてうまく持てない。 - 歩行障害
バランスが取りづらい、踏みしめる感覚が分かりづらい。 - 視力障害
物の輪郭がぼやける。水の中から外を見ているような感じ。 - 複視
物が二重に見える。 - 認知機能障害
思考速度が低下する。
発症初期によく見られるのは「視力障害」「複視」「手足のしびれ」「脱力」「歩行障害」です。これらの症状が出たら、脳神経内科の受診を考えて下さい。目や手足の症状なので、眼科や整形外科を受診する患者さんも多いですが、原因は中枢神経にあるので、すぐには診断がつかない場合があります。その間に中枢神経の損傷が進むことがあります。
原因は「ミエリン」の破壊


多発性硬化症で起きているのは、電気信号の通り道の障害です。
脳や脊髄などの神経細胞は、隣の細胞に突起を伸ばし、電気信号によって指令を伝えています。通常、その突起には、『ミエリン』という電気を通さない構造が巻き付いています。ミエリンがあると、電気信号は残りの電気を通す部分だけをジャンプしながら、素早く伝わることができます。
しかし、多発性硬化症では、ミエリンが破壊され、はがれ落ちてしまいます。すると、電気信号が伝わるスピードが遅くなります。さらに破壊が進むと、電気信号が途中で失われるということも起きます。そして、脳、脊髄、小脳など、中枢神経のどこでミエリンが壊されるかによって、全身にさまざまな症状が出るのです。
ミエリンはなぜ壊れる?

ミエリンが壊れるのは、自分の免疫細胞が自分の身体を攻撃する『自己免疫』が原因です。
多発性硬化症では、免疫細胞の中に、中枢神経のミエリンを誤って標的として認識してしまうリンパ球が存在することが知られています。そして、何らかの理由で免疫系が活性化すると、それらが血管から中枢神経内に多数侵入し、炎症を起こします。その結果、ミエリンが壊されてしまうのです。
炎症を放っておくと、ミエリンが巻き付いている神経細胞自体も傷つきます。ミエリンは修復可能ですが、神経細胞は元に戻らないため、そこまで傷害が進行すると症状の回復は難しくなってきます。そのため、なるべく早く「中枢神経内のミエリンの傷害を見つけ、コントロールする」ことが重要です。
診断 ― ミエリンの傷害を見つける
多発性硬化症の診断は以下の3つを組み合わせて行います。
- 病歴の聴取および神経学的診察
- MRI
- 髄液検査
病歴の聴取、神経学的診察
過去に起きた病歴、症状などを聞き取ります。また、「神経学的診察」といって、腱の反射や歩行など身体の動きを確認し、脳や脊髄が正しく機能しているかを診察します。
MRI
中枢神経内の炎症や、ミエリンの損傷はMRIで白い卵円形の像として確認できます。ただ、白い像は慢性の脳動脈硬化や喫煙、片頭痛など、他の原因でも生じるため、MRIだけでは確定診断になりません。
髄液検査
脳や脊髄の中をゆっくり流れる脳脊髄液の成分を調べる方法です。多発性硬化症では、中枢神経内で免役反応が高まっているため、免疫に関する物質が髄液に増加しています。また、壊れたミエリンのタンパク質が検出されることもあります。
多発性硬化症の治療


治療には「急性期」と「慢性期」があります。
『急性期』には、炎症を抑える副腎皮質ステロイドの投与、炎症の原因物質を血中から取り除く血しょう浄化療法などが行われます。
『慢性期』は、主に薬で炎症や症状をコントロールします。使われる薬は主に6つあり、症状に合わせて処方されます。
IFNβ1b、IFNβ1a、グラチラマー酢酸塩は、炎症性の免疫細胞を抑える別の免疫細胞の機能を高める薬です。フィンゴリモド、ナタリズマブは、炎症性の免疫細胞が中枢神経に近づくのを防ぎます。
効果は高く、合う薬が見つかれば、外来診療だけで長年症状をコントロールできる場合も少なくありません。また、全国の疫学調査でも、2003年から2017年の間に、患者さんの平均の障害度が下がったことが判明しつつあります
日常生活での注意点
『ストレス』『喫煙』『ビタミンDの不足』に要注意です。
ストレスがたまると、再発が増加する傾向があると分かっています。また、「喫煙」と「ビタミンDの不足」は、発症リスクを高めることが分かっています。予防には、「喫煙を控える」「ビタミンDの多い食事をとる、または適度に日光を浴びる」ことが大事です。