知られざる糖尿病の合併症「胃不全まひ」 症状・原因・治療について

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胃に長く食べ物がとどまってしまう 胃不全まひ

胃不全まひとは、文字どおり胃がまひして動きが悪くなるという病気です。胃の動きが悪いので食べ物を腸(十二指腸)へ送り出すのが遅くなってしまい、その結果長い時間胃に食べ物がたまってしまいます。なお、胃から十二指腸への通り道が生まれつき狭くて胃にたまってしまう人もいますが、そういった方は胃不全まひとは診断されません。

胃不全まひかどうかの診断は胃から食べ物が出ていく時間が遅れているのかどうか、胃排出時間の検査を行って調べる必要があります。
もっとも信頼性の高い検査法はアイソトープ法(シンチグラフィー)という方法です。この検査は、まず、少量の放射性物質を含む食べものを摂取します。その後、ガンマカメラを用いて放射性物質が胃から出ていく速度を観察します。放射性物質が体のどの場所にあるかを観察することで、食物がどのくらいの速さで胃から出ていくのかがわかります。

シンチグラフィーの健康な人と胃不全まひの人の画像

図は、シンチグラフィーの画像に胃の位置を重ねています。光っている部分が放射性物質です。4時間後を見ると健康な人では胃の中に放射性物質は全く残っていませんが、胃不全まひの人ではまだ胃の中に多く残っていることがわかります。健康な人では、食べ物は1時間程度で胃から腸(十二指腸)へ送り出されます。それに対して、胃不全まひの患者さんの場合、3~4時間以上もかかってしまうのです。

アイソトープ法はアメリカを中心に高い頻度で行われている検査ですが、放射性の物質を口にするという事に対して日本では抵抗のある方も多く、ほとんど広まっていないのが現状です。最近では放射性物質を使用しない新たな検査方法も開発されています。

胃不全まひの症状

胃不全まひの症状

主な症状として、食後の胃もたれ、早期満腹感、胃痛などがあります。それに加えて、吐き気やおう吐を訴える患者さんが多いのが胃不全まひの特徴です。

胃不全まひの原因

自律神経と胃を修復させる神経

胃不全まひにはいくつかの原因が考えられているのですが、1番は胃の動きをコントロールしている神経の異常によるものです。
胃の神経には、その運動をコントロールする自律神経(迷走神経)と胃の中に埋め込まれていて胃を実際に収縮させている神経があります。胃不全まひでは迷走神経の働きが悪かったり、胃の筋肉の中に埋め込まれていて胃を収縮させる神経が傷ついていたりするために、胃の働きが悪くなっている可能性が高いと考えられます。

病気を引き起こす要因

胃不全まひはさまざまな要因で引き起こされますが、1番の要因は糖尿病です。ほかには、自律神経の動きが障害されるパーキンソン病、胃や食道、肺の手術で胃に分布する自律神経が傷ついた場合などに発症します。
また、はっきりとした要因がつかめないケースもあります。この場合、機能性ディスペプシアと診断されますので、胃不全まひと機能性ディスペプシアは一部重なっているといえます。

なぜ糖尿病が胃不全まひを引き起こすのか?

胃不全まひの検査方法が日本でなかなか広まらないことから、糖尿病の患者さんがどのくらい胃不全まひを引き起こしているのか、実態は把握できていません。しかし、患者さんの中には胃不全まひが疑われる方も一定数存在するといいます。糖尿病患者の中には食事をしてから随分経ってから血糖値が上がったり、あるいは、予測しないようなときに血糖値が急に落ちてしまうような方がいます。そうした方は、胃不全まひを発症している可能性があると考えられます。

糖尿病はさまざまな病気を引き起こすことが知られていますが、その中に神経障害があります。例えば手や足の感覚がおかしくなる、感じ方が鈍くなる、というのは糖尿病の神経障害の一つです。それと同じように自律神経の神経障害が引き起こされることもあるのです。

自律神経は小さな血管の横に寄り添う

自律神経は小さな血管の横に寄り添うような形で走っていて、その血管から栄養素や酸素を受け取っています。

糖尿病を発症すると血管にダメージが生じる

糖尿病を発症すると血糖値のコントロールが正常にできなくなり、血管にダメージが生じてしまいます。

血管から受け取る栄養素や酸素が少なくなり、自律神経が傷つく

血管から受け取る栄養素や酸素が少なくなり、自律神経が傷つき胃不全まひが引き起こされると考えられています。

胃不全まひになるリスクの高い糖尿病患者とは?

胃不全まひは2型糖尿病の患者さんよりも、1型糖尿病の患者さんの方が、発症するリスクが高いと考えられています。1型糖尿病の患者さんは、10代くらいから発症する方が多いので血管が傷ついている年月が長くなるためです。ただ、2型糖尿病の患者さんでも血糖コントロールがあまりよくない方は、神経障害を起こしやすいと考えられています。

胃不全まひの治療(糖尿病患者)

血糖コントロールが悪い場合には、薬を調節したり食事の内容を調節したりするなど、いわゆる糖尿病の治療をしっかり行う必要があります。血糖コントロールが良くなれば、症状も治まりやすいと言われています。そして、症状に応じて運動機能改善薬などの薬を使い、症状の改善を図っていきます。

胃不全まひの治療には、運動機能改善薬や酸分泌抑制薬などを症状に応じて使用しますが、効果は限られています。まだ、日本では使用できませんが、最近のアメリカでは胃不全まひの症状を改善させる注射薬が開発され、吐き気やおう吐といった症状が減ったと報告されています。

ただ、現在の時点では、有効だとはっきりしている治療方法は確立されていません。薬などで症状を和らげながら、病気と上手に付き合っていくことになります。なかでも出来るだけ胃に負担のかからない食生活を送ることが大切です。

知っておきたい 胃の不調を乗り切る食事術

胃不全まひでは特に、胃に負担のかかる食事を改める必要があります。
できるだけよくかんで、ゆっくりと食べることが重要です。食べ物が2mm以下になると、胃から十二指腸へ流れやすくなるといわれています。また、大食いをせず少ない量をとるように心がける必要があります。たくさん食べるとむかむかする症状が出やすく嘔吐しやすいからです。一日3食と決めず、4~5回に分けて食べるのも一つの方法かもしれません。

食べる品目としては、脂肪の多いものは胃からの排出を遅らせるので脂っぽいものを避け、低脂肪のものを選ぶことが勧められます。日本食の場合、おかゆ、豆腐、味噌汁などもともと胃にやさしい食べ物がたくさんありますので上手にとりいれるとよいかもしれません。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2021年8月 号に掲載されています。

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