甲状腺がんとは?良性腫瘍と悪性腫瘍の見極め方やタイプ別の治療法について

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甲状腺がんは増えている?

甲状腺がんの罹患率

甲状腺がんの罹患率のグラフを見ると、40年で4倍以上に増えています。
これは、がんの発生が増えているというより、発見率が高くなったということです。甲状腺がんの診断には、超音波検査が重要ですが、この検査の精度が高くなったことと、診断の機会が増えた結果、多くの甲状腺がんが見つかるようになったのです。

そのうちのほとんどは命の危険があるものではありませんが、がんのタイプや進行度により対応が違うのでどんなタイプなのか、しっかり見極めることが大切です。

甲状腺がんの種類と特徴

甲状腺の腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)に分かれます。良性腫瘍は、ほとんどが経過観察ですみます。まずは、良性腫瘍か悪性腫瘍(がん)かを判別することが大事です。

悪性腫瘍(がん)について

甲状腺の悪性腫瘍

悪性腫瘍のなかで、全体の90%を占めるのが「乳頭がん」です。これはほとんどが、進行の遅い、おとなしいがんです。
次に多いのが「ろ胞がん」、そして「髄様がん」と続きますが、こちらも性質は悪くありません。ろ胞がんについては診断の難しさはありますが、適切な治療をすれば命に関わることは少ないです。

一方、危険なタイプは「低分化がん」と「未分化がん」です。「低分化がん」は「未分化がん」ほどは悪性度が高くありません。「未分化がん」は、数は少ないですが、悪性度が非常に高く、治療の選択肢が限られてきます。

最後の「悪性リンパ腫」は全身のいろいろな所にできることがありますが、甲状腺のみにできている場合は、放射線治療、抗がん剤治療がよく効くので、命に関わることは少ないです。
橋本病が発生母地となることが多く、橋本病の方が「悪性リンパ腫」になるのがほとんどです。ただ、橋本病の数全体からすると「悪性リンパ腫」の方は非常に少ないので、橋本病イコール「悪性リンパ腫」になるという心配はしなくても大丈夫です。

良性腫瘍、悪性腫瘍の見極め方

まずは触診で医者が確かめます。一般的にゴツゴツして硬いものが悪性腫瘍で、柔らかいものは良性腫瘍です。
自分で喉仏の下に手を当てて、唾をゴクっと飲み込んでみて、何か異物を感じるようなら、甲状腺の腫瘍の可能性があります。

ただし、触診だけで診断をつけるのは不可能なので、実際には、さらに超音波検査を行います。超音波検査は精度が上がったため、今では小さながんでも、はっきりと見つけることができます。

良性腫瘍と悪性腫瘍の超音波検査の画像

写真、向かって左側が良性腫瘍です。境界がはっきりとしていて、正常なところとの差が綺麗に出ています。
一方、右側の悪性腫瘍は、境界がぼんやりしています。真ん中に見える白いものは、石のように石灰化した部分です。今は検査機器の精度が高くなっているので、1センチ以下のがんでも確実に発見できるようになりました。

腫瘍の検査法

また、超音波検査で悪性腫瘍が疑われる場合には、超音波をガイドにしながら細胞診を行います。直接針を刺して針先についた細胞を顕微鏡で見て、良性腫瘍か悪性腫瘍か鑑別します。

注意が必要な悪性腫瘍(がん)

「乳頭がん」は、ほとんどの場合、超音波検査と細胞診によって正しく診断することができます。一方、「ろ胞がん」の場合は、超音波検査と細胞診だけで診断するのは難しく、厳密に診断するには、手術して組織を見る必要があります。
経過を観察し、急に大きくなるなど、限りなく「ろ胞がん」が疑われるような場合は、手術をしてしっかり見極める必要があります。

良性腫瘍の治療法

良性腫瘍の治療法

ほとんどの良性腫瘍は手術の必要はありませんが、経過観察を続け、悪性と疑われるような変化がないか見極めていくことが大事です。大体、半年に一回の超音波検査で経過を見ています。その過程で、急速に大きくなる場合は手術が検討されます。

縦隔という胸の奥の部分に腫瘍がある場合、大きくなると呼吸困難になることもあるので、手術を行います。手術は、圧迫の原因となるものを物理的に除去するとともに、病理診断ができるという利点もあります。

良性腫瘍の治療法「吸引療法」

吸引療法(のう胞穿刺)は、風船のように袋ができて液体が溜まった「のう胞」という病変に注射器を刺して、そこから液体を吸い出して腫瘍を小さくするという治療です。

良性腫瘍の治療法「PEIT」

PEITは、「のう胞」にエタノールを注射し、腫瘍を癒着させて小さくするという治療法です。
吸引療法(のう胞穿刺)で液体を抜いても、またすぐ溜まってくるという人に行います。そのほか、気道が圧迫されている場合や、外見上に問題がある場合も対象となります。

悪性腫瘍の治療法

悪性腫瘍の中で最も頻度の高い、乳頭がんは非常に性質が良いため、1センチ以下の微小の乳頭がんに対しては、あえて手術をせず、経過を見る場合もあります。ただし、変化があるようなら手術を検討します。

悪性腫瘍の治療法「切除手術」

手術は、がんのできている位置や数、大きさによって変わってきます。
現在行われているのは、甲状腺全体の6割くらいを取る「葉切除術」と、甲状腺を全部取る「全摘術」です。

手術の危険性は?

手術の際に注意するのは、甲状腺のすぐそばを通っている、反回神経という細い神経です。
この神経は、声を出すのに必要な声帯を支配しているので、この神経をできるだけ傷つけないように注意し、可能な限り機能を残して、その後の声の変化や、むせを防ぐようにしています。

甲状腺の手術
甲状腺のすぐそばを通っている反回神経を傷つけないようにする

甲状腺を全て取ってしまうと甲状腺ホルモンが出なくなってしまいますが、甲状腺ホルモン剤によって全く同じ機能を代用することができます。生涯薬を飲むことになりますが、1日1回、薬をのめば、通常の社会生活が営めます。

手術後に行う治療

ほとんどの人は手術で治療を終えますが、がんが残ってしまった場合やリンパ節や肺など他の臓器に転移をしている場合、放射線の治療を行います。
アイソトープ治療(内照射)は、放射性ヨウ素の入ったカプセルを飲んで、残ったがんを治療するというものです。

アイソトープ治療(内照射)とは

アイソトープ治療で効果が期待できないがんに対しては、新しくできた「分子標的薬」で治療を行います。

分子標的薬とは

分子標的薬は、がん細胞に特徴的な分子を攻撃して治療する、新しい薬です。
甲状腺がんへの適用も世界中で行われており、がんの進行をうまく抑えられるケースも増えています。

治療後に注意すること

手術後は、できる限り早期にリハビリを!
術後早めに首を動かして、ストレッチやマッサージなどを行います。恐れずに動くことによって首の違和感がなくなります。

おとなしいがんでも再発することはあり得ますが、たとえ再発しても、それがすぐに命に関わるというわけではなく、また手術で取ることもできます。
手術で取れないものは、アイソトープ治療を行うなどの選択肢も増えているので、不要に心配しなくて大丈夫です。

ただし、再発を早く発見するためにも、手術の後も定期的に病院に通って半年に一回くらいは検査を受けるということが大事です。

甲状腺の病気 予防法はありません

これをしたから甲状腺の病気にならない、何かを我慢したから甲状腺の病気にならないということはありません。
大事なことは、甲状腺がんも、バセドウ病も橋本病も早期に発見することです。そのためにも、気になることがあれば検査に行って血液検査と超音波の検査を受けてみましょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2021年6月 号に掲載されています。

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