災害時 高齢の方は体と脳の衰えに注意!寝ながらできる運動など予防法も

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セルフケア・対処健康体操うつ状態が続く全身脳・神経筋肉

災害時 体と脳が危ない

災害時、特に高齢の方は被災のショックや不自由な避難生活で体と心の健康が著しく悪化します。
これは東日本大震災後に宮城県で行われた調査結果です。

要支援・要介護の割合を示すグラフ

要支援・要介護に認定される人の割合は震災直後5%ほどでしたが、3年後には15%と、およそ3倍にもなっていました。環境の変化やストレスなどにより、動かない状況が続くことで体力が低下し、歩行困難や寝たきりになる高齢の方が増加したためと考えられています。

体の機能は環境の変化で簡単に悪化してしまいます。例えば筋肉は思っているよりももろく、使わなければ一気に機能が低下します。2週間寝たきりでいると脚の筋力は3割も減少します。しかもこの減少はあまり自覚できないのです。そうしたことで、気付いたときには歩きにくくなったり全く歩けなくなったりする人が出てきたと考えられます。

避難生活ではどうしても体を動かすことが少なくなってしまいます。音や気配が周りに迷惑になるのではないかという心配から動くのをためらう人もいます。また、それまで行っていた料理や掃除、体を動かすような仕事などの日常的な活動を行わなくなります。実はこれらはかなりの運動量になっているので、それらがなくなるのは影響が大きいのです。

また、気持ち的にも活動的になれないという面もあります。災害で家や家族、生活の基盤など大切なものを失い、苦しみやあきらめの中ぼんやりと過ごしている高齢の方もいました。するとどうしても体を動かさなくなって筋肉がやせほそり歩けなくなるなど、あっという間に運動機能が落ちてしまうのです。

さらに、認知機能の低下も被災地では多くみられました。

被災地の認知機能低下

東日本大震災後に宮城県気仙沼市の仮設住宅に住む高齢の方の認知機能を調べたところ、発災2年後32%で認知症の疑いが出ました。さらに8か月後に35%、その10か月後には38%と、どんどん認知症疑いの人が増えていきました。この調査からは歩行時間や外出頻度が低いほど認知機能が悪化することがわかっています。

被災によって、近所や趣味の仲間とのつながりが失われるとどうしても閉じこもりがちになってしまいます。そうすると外出機会も減り運動機能も衰え、コミュニケーションが減り認知機能も衰えます。脳も筋肉と同じようにもろくて、使わないでいると簡単に機能が低下してしまうのです。

避難所で大切なこと

運動

避難生活で体の健康をたもつため、まず大切なのは運動です。気力がわかないかもしれませんが、生活のリズムを作ることが大切です。

周りが迷惑しないか気になる人がいるかもしれません。ウォーキングだと、外を歩くので迷惑になりにくいと考えられます。イスが十分にあるような避難所であれば、ゆっくり立ち上がったり座ったりするだけでも筋トレになります。それもできないくらい体力や気力が落ちていることもあると思いますが、そんなときは寝転がりながらでもよいので体を動かしましょう。

衰えがちな脚の筋肉を鍛える運動です。あおむけに寝た状態から始めます。

足首の運動

足首の運動

まずは足首を左右交互に動かします。ひざを伸ばしたまま、つま先を頭の方向に、また足首を伸ばす方向に動かします。ゆっくり、なるべく大きく動かすのがコツです。

ひざの曲げ伸ばし運動

ひざの曲げ伸ばし運動

次に足の裏を床につけたまま、ひざを立ててのばす、というのを左右交互に行います。慣れてきたらスピードを上げるとより負荷をかけられます。

足上げ運動

足上げ運動

最後に、片方のひざを伸ばして脚を床から30cmくらい上げます。最初の【足首の運動】のように足首をパタパタさせる動きを付け加えると、より負荷が強くなります。これも左右交互に行います。

回数や秒数は自由に、楽しく出来るのが一番です。

役割を持つ

認知機能や心の健康を維持するためには、避難生活の中で役割を持つことが大切です。役割を持つと人とのつながりが生まれます。そうしてコミュニケーションを行うことが認知機能を保つことにつながります。また被災後は大きな喪失感を抱いていることが多く、「誰かのためになっている」ことは生きる気力にもなります。

高齢の方でも、できる役割はたくさんあります。生活スペースや通路の掃除、身の回りの片付け、お茶や食事の時の準備を手伝う、子どもの世話、などがあげられます。

もともと思い通りに体を動かすのが難しい人でも、人の話の聞き手になる「傾聴」という役割があります。「何か困りごとはないですか」「何かお話ししませんか」と相手の話を聞き、目を見て首を縦に振るだけでもいいのです。

声を掛け合う

人とのつながりがあると「体調が悪化している人に気づく」という利点もあります。高齢の方は体調が悪くなったことに自分で気付きづらいです。周囲への気遣いから声をあげられないこともあります。声を掛け合い、周りの人が気づいてあげることが大切です。

つながりを維持するために

健康へのリスクは仮設住宅や自宅に移ってからも長く続きます。

人とのつながりとうつ症状を示したグラフ

東日本大震災の発災から3年後に仙台市と石巻市で行われた調査の結果です。震災前と比べ、強いつながりを継続している人や新たにつながりを強くした人で、うつ症状だった人は全体の10%程度だったのに対し、つながりが弱くなった人、つながりが弱いままの人ではおよそ25%、4人に1人にのぼっています。人とのつながりが弱いとうつ症状になりやすいことが明らかになったのです。

そもそも災害で、なかなか回復しないくらい大きな精神的ダメージを受けていることも多いです。そこで助けとなるのが人とのつながりですが、災害で地域社会や職場などのコミュニティが失われている場合もあります。調査結果にもあるように、そういった人はうつなど心の健康を損なうリスクが高くなります。

仮設住宅での新しい人間関係になじめなかったり、自宅に戻れたとしても周りの住人は戻ってこなかったりといろいろ難しい問題があり、行政も医療関係者も試行錯誤しています。例えば東日本大震災の被災地 気仙沼では、支援団体が庭や畑を貸し出して野菜や花を育てるという、趣味の活動をする機会を作ったところもありました。もともと畑が得意で、知識を持ち寄って楽しく協力していたようです。住人たちが共同で行うことで、つながりを深められるのです。
積極的に集まりに参加して、孤立しているような人に気づいたら声をかけることが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2021年5月 号に掲載されています。

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