腎臓があなたの寿命を決める 驚くべき役割と注目の最新治療

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「おしっこ」をつくるのが仕事の、地味な臓器。それが腎臓の一般的な印象ではないでしょうか。ところが、そんなふだんあまり意識しない「腎臓」に、いま世界の研究者から熱い注目が集まっているって、知っていましたか?なんと腎臓は、あなたの寿命をも左右する、人体の「隠れた要」であることがわかってきたんです。2017年10月1日放送のNHKスペシャル「人体」第1集・腎臓では、W司会の山中伸弥さん・タモリさんに加え、オリンピック金メダリストの北島康介さん、女優・石原さとみさんという豪華メンバーで、「腎臓の知られざる正体」に迫りました。

番組でW司会をつとめた山中伸弥さん(左)とタモリさん
番組でW司会をつとめた山中伸弥さん(左)とタモリさん
      

腎臓を鍛えると アスリートの持久力が高まる!?

今回、腎臓の意外なスーパースターぶりを教えてくれる現場へ連れて行ってくれたのは、リオデジャネイロオリンピック・競泳の金メダリスト、金藤理恵さん。標高およそ2000mにあるプールで行われる「高地トレーニング」に密着しました。酸素の薄い高地に着いて、さっそく泳ぎ始める若きアスリートたち。練習後に血液中の酸素量(血中酸素飽和度)を計測すると、80%台になっていました。平地では通常96%を切ることはありません。体がたいへんな酸欠状態に陥っていったのです。ところが、それから2週間後。ふたたび練習後に測定を行うと、90%を超える値に回復していました。「高地順応」と呼ばれる現象で、体が酸素の薄い環境に見事に適応したのです。

CG 腎臓が出す“メッセージ物質”・EPO

このとき鍛えられているのは、酸素を取り込む肺?それとも全身に酸素を送り届ける「血液ポンプ」の心臓?いえいえ、じつは高地トレーニングのねらいは「腎臓を鍛える」ことにあるといいます。体内に酸素が足りなくなると、それを察知するのは「腎臓」です。そして、EPO(エポ、正式にはエリスロポエチン)という物質をさかんに放出します。この物質は、「酸素がほしい!」という腎臓からのメッセージを全身に伝える、いわば“メッセージ物質”です。EPOは血液の流れに乗って全身に広がり、骨に受け取られます。骨の内部、「骨髄」では、酸素を運ぶ「赤血球」がつくられています。ここにEPOが届くと、赤血球が増産され、体中に効率よく酸素を運べるようになるのです。

実際、高地トレーニングを行うと、2週間ほどで赤血球が大幅に増えます。体をあえて酸欠状態に追い込み、腎臓からさかんにEPOを放出させることで、アスリートたちは持久力をグンとアップさせていたんですね。

腎臓の手術で重症の高血圧が治る!? 注目の最新治療

腎臓の手術で重症の高血圧が治る!?

腎臓が出す“メッセージ物質”は、EPOだけではありません。じつに多様な“メッセージ物質”を放出して、全身のさまざまな臓器と情報交換を行っていることがわかってきています。そのからくりを解き明かすことで、全く新しい医療の戦略が生み出されています。

その代表例が、いくつも薬を飲んでも効果が見られない、重症の高血圧の治療です。なんと、一見無関係な「腎臓」を手術することで、見事に血圧が正常範囲まで下がるというのです。(詳しくは、腎臓の手術で重症の高血圧が治る!大注目の最新治療 を参照)

「人体ネットワーク」の要! スーパースター・腎臓

「おしっこ」をつくるのが仕事と思われる腎臓が、なぜ血液中の酸素量や血圧と密接に関係しているのか。それは、腎臓で「おしっこ」がつくられる仕組みをひもとくと、明らかになります。腎臓の内部には、「ネフロン」と呼ばれる独特な構造がいくつも存在しており、そこで老廃物などを含む血液が「ろ過」されて、きれいな血液に生まれ変わります。そのとき、不要なものとして体外に排出されるのが「おしっこ」です。ところが、血液をろ過しておしっこがつくられる際、実は同時に、巧妙な仕掛けによって「血液の成分調整」が行われています。腎臓の本当の役割は、おしっこをつくることではなく、血液の成分を厳密に適正に維持する、「血液の管理者」だったのです。(詳しくは、ここまで見えてきた!血液浄化の要・腎臓の「ネフロン」 を参照)

CG 腎臓にある「ネフロン」と呼ばれる構造の一部 いわば“血液のろ過フィルター”だ

腎臓を守ることが、命を守ること

いま、体にどんな成分がどれだけ必要なのか。「再吸収」を行う際、腎臓はさまざまな臓器から情報を受け取って、血液の成分を絶妙にコントロールしています。まさに「人体ネットワーク」の要ともいうべき存在です。だからこそ、腎臓の異常が全身のほかの臓器にも悪影響をもたらし、逆にほかの臓器で異常が起きると、その影響が腎臓に及びます。

そのため、腎臓病ではない病気やけがなどがもとで、やがて腎臓を傷めてしまうケースが多くあります。世界中の医学論文を解析したある研究では、入院患者全体のうち5人に1人が「急性腎障害(AKI)」という症状を発症し、命のリスクにさらされていることが明らかになってきました。気づかずに放置すれば、腎臓の障害が全身のほかの臓器にも飛び火し、「多臓器不全」を起こして死に至ることも少なくないといいます。

治療のために投与される薬などが腎臓に負担をかけていることも、その一因になっていると指摘されています。命を守るために、常に腎臓を見守る。そんな新しい医療の発想が、隠れたスーパースター・腎臓の正しい理解から、生まれつつあるのです。

患者に「急性腎障害(AKI)」が起きている危険性を知らせる警告サイン