糖尿病はがんのリスクが高い

糖尿病によってがんが発症しやすくなる可能性があります。日本糖尿病学会と日本癌学会が日本人約34万人を対象に調べたところ、がん全体では糖尿病の人はそうでない人に比べ1.2倍発症しやすいことがわかりました。特に肝臓がんは2.0倍、すい臓がんは1.9倍、大腸がん(結腸がん)は1.4倍です。子宮内膜がんや膀胱がんのリスクも高くなる傾向がみられました。

糖尿病でがんを発症しやすい理由は十分解明されていませんが、いくつか説があります。1つは、糖尿病ではインスリンが効きにくいため、かえってインスリンが異常に多く分泌され、その過剰なインスリンが がん細胞の発生や増殖を促している可能性です。ほかに、高血糖そのものが影響している可能性、肥満によってさまざまな臓器に慢性的な炎症が起こることが影響している可能性も指摘されています。
がん予防のための注意点

糖尿病の人は、次のことを避けることでがんの予防が期待できます。
- 肥満
- 運動不足
- 偏った食事(動物性脂肪の摂りすぎ 野菜や食物繊維の不足など)
- 喫煙
- 過度の飲酒
これらは、がんになりやすい生活習慣であるとともに、糖尿病の発症や悪化の要因でもあります。がんと糖尿病は危険因子が共通しているのです。
がんの手術で注意すること

糖尿病はがんの治療にも影響します。まず血糖値が高いと手術によるリスクが高まります。具体的には手術による感染症、心筋梗塞、急性腎障害などです。

そもそも糖尿病では高血糖によって細菌やウイルスに対する免疫の働きが低下し、さまざまな感染症にかかりやすくなります。手術時には特に、肺炎などの呼吸器の感染、手術による傷の感染、尿路感染などのリスクが高まります。
心筋梗塞は心臓の血管が動脈硬化などで詰まって起こります。動脈硬化は糖尿病の合併症の1つですが、糖尿病で動脈硬化が進んでいれば、手術に伴って心筋梗塞のリスクがさらに高まるのです。
急性腎障害は腎臓の働きが急激に低下することを言います。腎臓が体内の老廃物や余分な水分・塩分を十分に排せつできなくなるのです。高血糖による障害は腎臓に張り巡らされた血管にも及ぶため、手術が影響する急性腎障害も起こりやすくなります。
普段から血糖値を良好に
こうしたリスクに備えるには、普段から糖尿病の治療を怠らず血糖値を良好に保っておくことが最も大切です。手術時の空腹時血糖値は100~140mg/dL程度が望ましいとされます。十分に下がっていなければ、のみ薬で治療をしている人もインスリンを使った治療に切り替えて血糖値を下げます。消化器のがんを手術した場合などは、手術の直後も絶食する必要があるため、やはりのみ薬ではなくインスリン治療が必要です。
抗がん剤治療で注意すること
抗がん剤治療でも注意が必要です。

多くの抗がん剤は副作用として吐き気が現れやすいため、吐き気を止めるためにステロイドを含む薬をよく併用します。糖尿病の人はこのステロイドの影響で血糖値が著しく上昇しやすいのです。これにはインスリンを使って対処します。ステロイドによる高血糖の場合、通常のインスリン治療より量や回数を増やします。
また、がんの手術が成功しても、血糖値の高い状態が続くと、がんの再発や死亡のリスクが高まることがあります。これは、高血糖が原因で抗がん剤の作用が弱まる可能性があるためです。
がんの治療では分子標的薬という特別な薬を使う場合もありますが、血糖値を上げやすいものがあり注意が必要です。
過剰に不安にならないで
糖尿病の人は、糖尿病を治療するとともに、がんのことも少し意識してほしいと思います。ただし、がんはどんな方でも発生する可能性があります。過剰に不安になることはありません。何より知っておいてほしいのは、糖尿病の治療として肥満や喫煙などの生活習慣を改めることが、がんの予防にもつながるということです。