子どもと大人の野菜嫌い・偏食改善できる注目の食育「サペーレ」とは

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食の起源(NHKスペシャル) 食で健康づくり

「どんな名前の料理か」「誰と食べるか」など、与えられる情報によって「おいしさ」の判断や生み出すホルモンの量まで変えてしまう、私たちの脳。(前記事参照)
そんな不思議な能力を持つ人類の脳をうまく利用し、健康的な食生活へと自然に導こうとする試みが行われています。取材班が向かったのは、北欧・フィンランド。そこには、「理想の食」に近づくヒントがあふれていました。

人間の脳を利用し健康的な食生活へ導こうとする試みがある
ついつい好きなものばかり食べちゃいますよねぇ

健康に良いとわかっていても 苦い野菜が食べられない...

アメリカ・シアトルでワインソムリエを務めるエイプリル・ポーグさんは、鋭い舌の持ち主です。ワインに含まれるわずかな量の化学物質も敏感に感じることができ、様々な美食と最も相性の良いワインを選び抜きます。

ワインソムリエを務めるエイプリル・ポーグさん

でも、私生活ではその鋭敏な舌が悩みの種に。苦味も強く感じてしまうため、芽キャベツやケール、ブロッコリーなど苦味の強い野菜のほとんどを口にすることができません。一緒に暮らすベッキー・セレンガットさんが苦味を和らげる調理をしてくれて、ようやく食べることができるほど。エイプリルさんのように、「健康には良いとわかってはいるけれど、味がうけつけない」という食べ物がある方も多いかと思いますが、打開する方法はないのでしょうか?

エイプリルさんのため 野菜の苦味を消す料理にこだわるベッキーさん
エイプリルさんのため 野菜の苦味を消す料理にこだわるベッキーさん
ケールは塩もみして苦味を消しています
ケールは塩もみして苦味を消しています

世界が注目する食育「サペーレ」

その答えを知るために訪れたのは、フィンランドの中南部に位置する街・ユヴァスキュラ。首都・ヘルシンキから270kmほど北にあり、森と湖に囲まれた自然豊かな街並みが魅力です。ユヴァスキュラで栄養師を務めるイーヴァ・ニカネンさんに案内してもらったのは、地元の幼稚園。ここでは、ユニークな授業が連日行われているといいます。
早速、教室の隅から見学させてもらうと...。子どもたちが何やら目隠しを始めました。

世界が注目する食育「サペーレ」

『これから、"探偵ゲーム"を始めますよ。』

と、担任のアイラ先生が呼びかけます。探偵ゲーム?目隠しをして何をしようと言うのでしょう。すると、先生は半分に切ったグレープフルーツを取り出し、子どもたちの鼻先へと近づけます。

『なんの香りがする?』

香りだけで、何の果物かを当てる...まさに探偵となって推理することを求められるのです。目隠しをとれば一目瞭然で分かりますが、嗅覚だけだと意外とすぐにはわかりません。悩み続ける子供たち。

『うーん、ぶどう?』
『わかんない!』
『カシス!』
『もしかして、グレープフルーツ?』

五感で食材を感じる子ども
五感で食材を感じる

そして目隠しを取ると、推理が当たった子どもは大はしゃぎ。他にも推理ゲーム中には、袋の中に手を入れ、中に入っている野菜が何かを手触りだけで予想したり、虫眼鏡を使って果物の粒がどうなっているかを観察したりと、子どもたちの五感や好奇心を刺激する要素がてんこ盛り。こうした、体の五感を使って食べ物と触れ合う授業は「サペーレ」と呼ばれ、今、子どもたちの食生活を劇的に改善する取り組みとして、大きな注目を集めているんです。

体の五感を使って食べ物と触れ合う授業「サペーレ」
先生に虫眼鏡をもらうと 熱心に研究を始める

翌日、また別の教室の様子をこっそり覗いてみると...。子供たちがたくさんの野菜を囲んで床に座っています。ブロッコリーにパプリカ、キュウリ、トマト、ショウガ、ラディッシュ。どれも、苦味や酸味があることで子ども達に苦手意識をもたれやすい野菜ばかり。見るのも嫌というばかりに、しかめっ面をする子も。でも、「サペーレ」の授業を得意とするサーラ先生はそんな様子を意に介さず、明るく呼びかけます。

『みんなは今日魔法使いになって、野菜に魔法をかけましょう!』

そういうと、子ども達に呼びかけ、野菜を人形として遊ばせました。ブロッコリーを回して観覧車ごっこをしたり、パプリカと寝転んだり、キュウリと一緒に飛び跳ねたり...。子ども達は大盛り上がりで、時間を忘れて野菜達との"デート"を満喫します。すると、授業の終盤、パプリカをサーラ先生が一口サイズに切ったところ...

『食べたい!』
『パプリカ好き!』
『おいしい!』

あっという間に、パプリカはすべて子ども達のお腹の中へ...。野菜を手に取り、楽しい時間を過ごしたことで子ども達の好奇心がくすぐられ、野菜への抵抗感が劇的に薄れたのです。この変化に、サーラ先生も驚きを隠せません。

『いつもパプリカを嫌がって食べない子が、ほんの1時間の授業であっという間にパプリカに夢中になるんです!野菜と遊びことで、食べ物を尊重する気持ちが子ども達の中で増すんですね。どんどん好きになっていくんです。』

実際に触れ合って、野菜が好きになっていく子供たち
実際に触れ合って、野菜が好きになっていく子供たち

サペーレで「食への好奇心」が高まり続ける

サペーレの効果は、偏食改善だけにとどまりません。取材した幼稚園に2人の息子を通わせている、ルタネン一家。食事の支度をしている時間にお邪魔すると...

『ぼく、野菜切りたい!』
『ぼくが切るんだよ!』

サペーレの授業で食への関心が高まった

長男のペートくんと次男のトウコくんが、争うようにパプリカやジャガイモを切る手伝いを買って出ます。器用に野菜を切り、魚を焼くのもお手のもの。以前は気にも留めなかった調理ですが、幼稚園でサペーレの授業をする内に食への関心が高まり、調理自体に強い興味を抱くようになったのです。

サペーレの授業で食への関心が高まった子ども達
手伝ってくれるのは嬉しいけれど お母さんはちょっと心配そう...

食を楽しむことが「理想の食」への第一歩

食べ物と積極的に触れ合うことで、食への関心が高まり、食生活の改善にもつながるサペーレ。心理学の視点からも、理に適った教育方法であることがわかっています。

まず、食べ物と触れ合うことで「単純接触効果」が起きることが期待されます。単純接触効果とは、「刺激の反復呈示によりその評価が向上すること」で、接触や摂取経験が増えるとその食物に対する嗜好は上昇する傾向にあります。なので、苦手な野菜に悩んでいる方はその野菜に触れる回数を増やしたり、少量を毎日少しずつ摂取することで、苦手意識を和らげることができるかもしれません。

また、楽しい雰囲気で食物と接することで、「気分一致効果」も期待されます。気分一致効果とは「雰囲気の満足感が食物のおいしさに影響を与えること」。サペーレの授業のように、心躍る状況で食を享受すると、これまであまりおいしいと感じなかったものがよりおいしくなるかも。

食習慣をよい方向に変えるのに、遅すぎることはありません。フィンランドではサペーレを大人に応用し、非常によい結果を得ているという報告が上がっています。隣国・スウェーデンでは、食欲が衰え、偏った食事で体調を崩しがちな高齢者にサペーレ式教育を行ったところ、スパイスの香りや野菜のうまみを楽しみ始め、料理する喜びに目覚めるという良好な変化が生まれているといいます。

何かを我慢するのではなく、まずはもっと「食を楽しむ」ことに目を向けると、あなたにとっての理想の食生活に近づけるのではないでしょうか。

食の起源 第5集「美食」 ~人類の果てなき欲望!?~
3月28日(土)夜7:30~ 放送 (73分特別版) BS4K

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル 放送
    食の起源 第5集「美食」 ~人類の果てなき欲望!?~