厚生労働省の人口動態調査によれば、「転倒」などによる死者の数は、いまや交通事故の２倍にもおよび、転倒予防は重要な課題となっています。そんな中、世界中で注目を集めているのが、「太極拳」です。およそ４００年前、中国・清の時代に生まれたという太極拳ですが、その動きには、全身のツボやツボ同士のネットワーク・経絡（けいらく）を刺激するともいわれており、高い健康効果が期待されています。

アメリカ・カリフォルニアで行われていた太極拳教室には、医療関係者も参加。「自分の病院でも、転倒予防に太極拳プログラムを取り入れたい」「医療業界では今注目が集まっている」などの声があがりました。これまでに発表されている太極拳の論文の数は、すでに７００本以上にもおよび、オレゴン州の研究機関がおこなった最新の報告によれば、ストレッチ運動に比べ、太極拳をおこなった人々の方が、１年間の転倒回数がおよそ「半分」にまで減ることも分かってきました。

そんな太極拳には、一体どんな秘密があるのか？今、ハーバード大学でも、その科学的メカニズム解明にむけた取り組みが始まっています。すでに、体の動きなどに障害のある、パーキンソン病のリハビリテーションにも、週に１度、太極拳が取り入れられています。

参加していた患者の一人は、『最初は半信半疑でしたが、太極拳を始めてから、もう１年半くらい転んでいません。』と、その効果は高いと感じていました。

プロジェクトを率いる、ピーター・ウェイン准教授によれば、太極拳のすごさの秘密とは、「動き」そのものにあるそうです。モーションキャプチャ（体の動きを詳細に追跡できる装置）を使って、その動きを詳しく調べてみると、太極拳の動きには「あらゆる関節が同時に動き続けている」という特徴があることが分かりました。頭・腕・足など、体のそれぞれが、常にとどまることなく、同時に動き続けているのです。さらに、こうした複雑な動きの中でも、体が地面にかけている「圧力の中心」が、常に両足の間付近にとどまり、安定が保たれている事も確かめられました。太極拳の動きとは、まるで複雑なパズルをするように、すべての関節を連動させるようなものであり、こうして培われるバランス能力こそが転倒予防のカギだというのです。

ウェイン氏は、『転倒を予防する〝薬〟など存在しませんが、研究が進んだ今、太極拳は『動きの中の薬（medication in motion）』と呼べるでしょう。』と期待していました。

一見すると難しそうな太極拳ですが、実は自宅でもカンタンに行うことができます。太極拳にはいくつかの流派がありますが、それらを中国政府が２４の動きにまとめた、「簡化二十四式太極拳」と呼ばれるものがあります。

日本健康太極拳協会の楊玲奈（よう・れいな）さん監修のもと、転倒予防におススメの３つの動きをご紹介します！

• 雲手（ユンショウ）
  雲の中を分け進むような動きです。左右の足の重心移動がポイントです。
• 単鞭（ダンビエン）
  片手でムチを放つような動きです。体の軸を意識するのがポイントです。
• 高探馬（ガオタンマ―）
  高いところから、片足立ちして、馬を探すような動きです。大平原を望むように、視線を遠くにやることで、体全体の動きが協調して、バランスが安定しやすくなります。

※少しずつでも、なるべく毎日続けることが効果的です。

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