女性の死亡数1位! 大腸がん撲滅プロジェクト ~検診のすすめ~

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がんの部位別死亡数で男性3位、女性では1位となっているのが「大腸がん」。内視鏡の進化などで治る可能性が高まっているにも関わらず、未だに命を落としてしまう人が多いんです。国立がん研究センターでも、喫緊の課題として大腸がんへの対策に取り組むほど。そこで、NHK「ガッテン!」「あさイチ」は、国立がん研究センター「希望の虹プロジェクト」と力を合わせて、「大腸がん撲滅プロジェクト」を敢行!

「どうせ"痔(じ)"でしょ?」...の落とし穴

大腸がん検診の一次検査となる便潜血検査を受けて陽性反応、つまりがんの可能性があるという結果が出たのに、精密検査を受けに行かない...。これだけ聞くと信じられないかもしれませんが、ほかのがんと比べても大腸がんでは特に多いケースなんです。

胃がん、肺がん、大腸がんの疑いといわれても病院に行かないデータ

(画像:精密検査受診率グラフ)

今回、「ガッテン!」は、国立がん研究センターの協力も得て、精密検査を受診しない人たちを徹底取材。そうして見えてきたが、"大腸がん検診ならでは"の行かない理由でした。それは「自分は痔だから大丈夫」というもの。確かに、便潜血検査で調べるのは便に血が付着しているかどうか。痔による出血がある方の場合、そもそも検診として成り立たないのでは?...という気持ちもよ~くわかります。
実際のところはどうなのか?
2020年1月29日放送予定の「ガッテン!」では青森県と協力して7000人大調査を敢行!
知っているようで知らない大腸がんの実像を深堀りします!

NHKガッテン!あさイチと国立がん研究センターの大腸がん撲滅プロジェクトチラシ

さらに、「ガッテン!」「あさイチ」は、国立がん研究センター「希望の虹プロジェクト」と協力して、チラシを作ってみました。これは、大腸がんの可能性があるので精密検査が必要な方あてのものです。

配布の判断は各市町村の自治体にまかされていますが、下記でご紹介する国立がん研究センターが作成したリーフレットと一緒に、もしかしたらあなたのお手元に届くかもしれません。
一見、よく見るような普通のリーフレット。実は、皆さんが「精密検査に行きたくなる」と思うようになるための知恵が詰まっています。どんな知恵が詰まっているのか?リーフレットの作成にあたった、国立がん研究センターの溝田友里さんにお話を伺いました。

「がん検診に行きたがらない理由とは?面接調査から見えてきた問題点」

 国立がん研究センター 溝田友里さんインタビュー

人はどうしたらがん検診を受けるのか?命に関わる難題に挑んでいる溝田さん。調査によって"検診に行かない理由"や"検査を受けない理由"などを集め続けています。検診を受ける人と受けない人の違いはどこにあるのか。面接調査をする中で聞こえてきたさまざまな意見。それらの意見をもとにリーフレットを開発し、受診率向上の成果をあげています。
つい検診に行きたくなってしまう仕掛けとは?
今回は大腸がん検診を中心にお話を伺いました。

国立がん研究センター 希望の虹プロジェクト 溝田友里さん

聞き取り調査をしようと思ったきっかけは?

「がんで亡くなる人を減らしたい!」というのがそもそものきっかけで、そのために研究しています。しかし、「がんで亡くなる人を減らすには検診が大切!」と訴えても、みなさんに実践してもらわないと意味がないですよね。そこで、検診案内をもらった人の心を動かすメッセージを発することが必要なのではないかと考えました。

検診案内は各自治体の担当者が作成・配布しているのですが、自治体の担当者は現場でいろいろな仕事を掛け持ちしていて手一杯で限界がありますので、医学のエビデンスや行動科学に詳しい私たちがバックアップすべきだと考えました。
まず、検診したくなるアプローチ法を探るために、未受診者と受診者の双方に聞き取り調査をしました。そして、ターゲットに合わせてポイントとなるメッセージを込めたリーフレットを当センターで作成し、全国の自治体で利用してもらうことにしました。

検診を受けに行かない未受診者の声とそれに合わせたメッセージの開発

聞き取り調査で多く出てきた意見をまとめてみると、検診を受けに行かない人の心理として、いくつかの傾向が見えてきました。
その傾向からタイプを3つに分けることができました。

タイプ➀無関心な層
→受診の意図が低く、がんに対する不安も弱い人たち。
「自分はがんにかからない」「まだ先のこと」
「自覚症状が出てから行く」「一度がん検診をしたから大丈夫」 など

タイプ⓶関心がある層
→がんに関心はあるけれども、怖くて検診を受けられない人たち。
「がんが見つかるのが怖い」「検査の方法が不安」
「自治体の検診は質が低いのではないか」など

タイプ③意図がある層
→受診したいと思っているけれども、
どうやって受けたら良いか分からずに戸惑っている人たち。
「なんとなく受けていない」「きっかけがない」
「受け方がよく分からない」 など

そして、タイプ別にメッセージが必要と考えました。

タイプ➀「無関心な層」に伝えるべきメッセージは...
・り患、死亡についてのデータ(〇歳代に多い、〇人にひとり、〇位など)
・がんは自覚症状がない
・年に1度はがん検診(がん種により2年に1度)

タイプ➁「関心がある層」に伝えるべきメッセージは...
・早期発見による効果「早く見つければ治ります」
・検査の具体的な方法
・本当は高額な検診が安価で受けられる

タイプ③「意図がある層」に伝えるべきメッセージは...
・わかりやすく具体的ながん検診の受診方法(予約方法から結果確認まで)
・医者からの後押し

がん検診の未受診者の声・心理とそれに合わせた受診勧奨メッセージ

●各市区町村で使用してもらえるように作成した「大腸がん検診受診勧奨リーフレット」

全国各市町村配布用「大腸がん検診受診勧奨リーフレット」3つのポイント

大腸がん検診受診勧奨リーフレット(助成、検診の流れなど)

大腸がん検診 「自治体の検診は精度が低い」は大まちがい!

大腸がん検診の一次検査として行われているのが「便潜血検査」。いわゆる「検便」です。これは、自治体や職場で行われる検診だけでなく人間ドックでも行われています。便潜血検査は、採便キットを使って自分のタイミングで行える便利な検査です。ところが、その手軽さと、子どものころに学校単位で行っていた「検便」という言葉のイメージから、「自治体の検診は安いから精度が低い」とか「検便なんて今さらしなくても良いんじゃないか」などと思っている人が多く、日本では半分ぐらいの人しか受けていないのが実態です。

しかし、便潜血検査は極めて精度の高い検診です。特に、自治体の検診は、温度管理や判定基準などにおいて一定以上の精度管理がなされているため、実は精度がかなり高いと言えます。また、自治体で行う検診費用が安いのは、助成があるから自己負担が少なく済んでいるのであり、本当は高くて価値があるんです。そんな良い検診を受けないのは、とてももったいないことです。

大腸がん検診で使われる 便潜血検査のキット

便潜血検査で陽性がでたのに精密検査をしない理由

大腸がん検診では、便潜血検査で陽性が出て要精密検査となっても精密検査を受けない人が多く、深刻な問題になっています。
 未受診の理由は、男女それぞれです。例えば、男性の場合は、「痔だから大丈夫だろうと思った」「予約が3か月待ちで面倒になってしまった」「便潜血検査=大腸がん検査とは思わず、がんかもしれないとは理解していなかった」など。女性の場合は、「便潜血はストレスが理由ではないかと思った」「自覚症状がないので大丈夫だと思っている」「生理のせいかもしれないので、それほど驚かない」など。自己判断でいろいろな理由をつけていることが分かりました。
さらに「便潜血」という検査名から、便が血だらけになるものが異常なのだとの思い込みもありました。

便潜血検査で要精密検査なのに未受診の男性と女性の理由一覧表

リーフレットは、精密検査が必要になった人に検査の受診を促すため、男性用と女性用に分けています。
男性には「異常が認められた方のうち3人に1人からがん・ポリープが見つかっています。便に血がまじったのは痔のせいだと思い込まないで!」を、女性には「女性のがんのうち最も多い死因が大腸がんです。便に血がまじったのは痔や生理のせいだと思い込まないで!」をメッセージとして強調しています。女性の場合、全がんの中で死因の第1位が大腸がんであるにもかかわらず、乳がんや子宮頸(けい)がんのほうが心配と答える人が多くいるのも特徴的でした。

●男女別 大腸がん精密検査勧奨リーフレット

国立がん研究センター希望の虹プロジェクト制作の男女別大腸がん精密検査勧奨リーフレット

複数の媒体から同時発信することで検診の受診率が向上!

試行錯誤して開発・作成した精密検査の受診勧奨リーフレット。今回は、「大腸がん撲滅プロジェクト」としてNHK「ガッテン!」と「あさイチ」の放送に合わせて全国の多くの自治体で配布して頂けることになりました。テレビ放送と番組のホームページ、各自治体など複数が情報の発信源となることで、大きな効果が期待できます。

実は、2018年9月に「ガッテン!」と連動し、放送日に合わせて全国360市区町村86万人に乳がん検診受診案内を送付する企画を実施しました。そのときは、呼びかけに賛同してくれた医療機関がホームページで紹介して下さったり、個人的なブログやSNSで紹介してくれる方もいたりして、私たちの想像を超えて拡散されていました。
その結果、放送後の3か月間で受診率が7.6倍に上がった市町村もありました。

NHK「ガッテン!」2020年1月29日(水)予定より国立がん研究センター溝田さん
(NHK「ガッテン!」2020年1月29日(水)より)

溝田友里(みぞた・ゆり)
国立がん研究センターがん対策情報センター 健康増進科学研究室
社会学者・疫学者。東京大学大学院医学系研究科にて保健学博士号を取得後、国立がん研究センターに勤務。行動科学やナッジ、ソーシャルマーケティングを活用した健康行動の実践等に関する普及実装研究に取り組んでいる。
「検診に行ってみよう!」と、誰もが前向きになれるような仕組み作りを研究・実践。