日本伝統の食事は健康長寿効果が高い!ご飯が健康的に良いとされる理由

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食の起源(NHKスペシャル) 食で健康づくり

今、海外ではご飯を主食とした日本伝統の食事スタイルが「健康的」と人気を集めている。日本の食生活はこの半世紀で急激に西洋化しつつあるが、実は日本には、今よりも健康的な食事をしていた時代がある。そのことは、1960年から2005年まで、各時代の典型的な日本の食事の健康長寿効果を調べる研究から明らかになった。見えてきたのは、様々な食材を結びつける主食"ご飯"の"健康パワー"だった。

フランスでOBENTO(お弁当)がブーム!?

パリジャンに人気のOBENTO
パリジャンやパリジェンヌの間で人気のOBENTO

食堂などで『ご飯は少なめで』と注文する人のなんと多いことか。健康のためにと、夕食はご飯を抜いている友人も多い。低糖質ダイエットブームの中、すっかり嫌われ者になりつつあるご飯。しかし海外に目を向けると、ご飯を主食とする日本の食事スタイルに、最近、熱い注目が集まっている。例えば、美食の国、フランスでは今、日本式のお弁当が大人気だ。パリ市内には、何店ものお弁当屋がオープンし、ランチタイムには、ビジネスマンや近所の主婦など、多くの人たちが、テイクアウトのお弁当を目当てに行列を作る。焼き魚弁当やお肉弁当など、日本で売られているお弁当と見た目も味もそっくりだ。

フランスのお弁当ブームはそれだけにとどまらない。書店には、お弁当の作り方を紹介した料理本が並び、お弁当箱の専門店もある。お弁当を手作りし、職場で食べたり、友達とランチを楽しんだり、インスタにアップする人たちも増えている。フランスでは、辞書にBENTOという言葉があるくらいだ。

海外で改めて気づいた"ご飯"の魅力

ピエールさん
ピエールさん

でもなぜ、フランスで、これほど日本のお弁当が人気になっているのか?
その理由を知りたくて、11年前からお弁当を手作りしているという神父のピエールさんのもとを訪れた。週に4、5回は、自分や家族のためにお弁当を手作りするという。私たちが自宅を訪問した時もお弁当作りの真っ最中だった。その手際の良さには舌を巻いた。研いだ米を入れた土鍋を火にかけながら、魚に塩を振ってロースターにセット、にんじんやジャガイモの皮をむいて出汁と醤油で煮付ける。さらにくるくると器用にだし巻き卵を巻いていく。彩りが美しく、味もまさしく日本のお弁当だ。でも、ピエールさんはなぜそこまでお弁当にひかれるのか?

ピエールさんの作るお弁当
ピエールさんの作るお弁当

フランスというと、おしゃれなフレンチのイメージもあるが、実は普段の食事は、サンドイッチなど、簡素なものが多い。ピエールさんの食生活も以前は典型的なフランス人のそれだったそうだ。チーズやチキンをはさんだサンドイッチのランチに飽き飽きしたときに出会ったのが、日本のお弁当作りの料理本だったそうだ。それから独学でお弁当を作り始めた。

『見た目もきれいで楽しいし、色々なおかずが入っていて健康的だから、お弁当は最高だよ。おまけにそれが自分で作れるんだ。』

ピエールさんいわく、ご飯はパンと違って、肉でも魚でも野菜でも何でも合わせられるから、おかずの種類が豊富にできるし、健康的な食材を合わせやすいのが良いところなのだという。確かにご飯は、野菜でも魚でも、洋風なおかずでも、何にでも合うことに改めて気づかされた。最近、ピエールさんは、週に一度、近所の人や友人を集めて、お弁当作りを教えている。

『健康な食生活をしたいという意識は、今、フランスでもすごく高まっている。自分の健康は自分で守らないとね。お弁当は、自分が健康になれる食事を自分で作れるのが楽しいって、みんな言っているよ。』

日本の食卓はどう変わった?

ご飯を主食に、様々な食材のおかずを合わせる日本の食。実際、日本の食事に使われる食材は、世界の様々な料理の中でもかなり豊富だと言われている。こうした日本の食事が実際に健康効果が高いことを確かめた興味深い研究がある。

東北大学の都築毅教授は、1960年、1975年、1990年、2005年の各時代の日本の家庭料理の健康長寿効果を調べた。なぜこの4つの年代を選んだのか?それは日本の食事が急速に変化していった時代だからだ。1960年は高度経済成長以前、日本がまだ今ほど豊かではなかった時代だ。それを反映しておかずは今よりかなり少なめ、味の濃い煮物を一品、漬け物と汁物に大盛りのご飯といったものだ。1975年は、高度経済成長を反映して、食卓は豊かに。ご飯の量は減り、代わりにおかずの種類が増える。焼き魚や煮物、野菜のおひたしなど、1汁3菜的な典型的な和食という感じだ。1990年の食事は、食の西洋化の影響を受け、朝食にはパンが登場、唐揚げやミートソーススパゲティなど、西洋的なおかずも増えてくる。2005年はこの西洋化がさらに進んだメニューだ。

各時代の典型的な日本の家庭料理(東北大学での研究から)
各時代の典型的な日本の家庭料理(東北大学での研究から)

研究では、資料を集め、各時代の典型的な家庭のメニュー、1週間分(3食×7日間)を作った。すると、見た目以上に、食事に使われる食材の数が違うことがわかった。1960年食は1日あたり平均10.5種類、1975年食は18.8種類、1990年食は17.4種類、そして2005年食は16.9種類だ。どんな珍しい食べものも手に入る現代ほど、食べている食材の数は多いと思いがちだが、実は1975年の方が現代の食事よりも食材数が豊富だったのだ。

健康長寿効果が高いのは、1975年の日本の食事!?

では、どの時代の食事が、もっとも健康長寿効果が高いのか?研究では、各時代の食事を丸ごとフリーズドライして粉砕し、それぞれネズミに食べさせた。その結果、ネズミが最も長生きしたのは1975年の食事を食べたグループで、90日間、生きた。逆に最も短命だった2005年の食事を食べたネズミで、30%近くも寿命が短くなってしまった。

この結果を受け、都築教授は、人間でも確かめた。最も長寿だった1975年の食事と最も短命だった2005年の食事を、それぞれ1か月間食べてもらったのだ。その結果、1975年食を食べたグループは、2005年食を食べたグループよりも明らかに中性脂肪値の改善や内臓脂肪の減少などの健康効果が確認された。想定内の結果と思われるかもしれない。しかし都築教授は、なぜ1975年の食事は健康長寿効果が高いのか、さらなる分析を行った。続いて、各時代の食事に、どんな健康長寿成分が含まれているかを分析した。

その結果、食材が豊富な1975年食には、最も多くの種類の健康長寿成分が含まれていることが分かった。例をいくつか挙げると、野菜に含まれるβカロテンやビタミン類。海藻のミネラルやアルギン酸。魚に含まれるDHAやEPAなどの脂。大豆に含まれるイソフラボン。だし、味噌など発酵食品に含まれるアミノ酸・・・。一方、1990年食や2005年食は、食の西洋化の影響で、脂肪の量が多いことが、寿命を縮める原因になっていることも分かった。

"ご飯"の本当のパワーとは

この研究の結論としては「1975年食が健康長寿効果が高いのは、使われている食材が豊富なおかげで、よりたくさんの種類の健康長寿成分を摂ることができるため」ということだ。研究を行った都築さんは、そこには、様々な食材を引き寄せる「ご飯のチカラ」があるという。

『パンとご飯、それに合うおかずを想像してみてください。ご飯は味が淡泊なために、どんな食材とも良く合う。伝統的な日本の食事の食材の多彩さは、主食であるご飯の上に成り立っていると言っても良い。日本人はご飯を主食に選んだことで、健康長寿を実現できた可能性がある。』

都築教授は現在、腸内細菌の研究を行っている。実は食材が多様になると、腸内細菌の種類も多様になり、健康効果が高まることが分かってきているのだ。ご飯がつなぐ多様な食材、そしてその多様な食材が生み出す健康長寿効果。これからまた新たな事実が明らかになるかもしれない。

忙しい現代、便利さの追求によって、加工食品や外食の機会が増え、日本人が食べる食材の数は減り続けている。食材が豊富なおかげで健康効果の高い伝統的な日本食を、私たちは今、失いつつある。一方、海外では、その日本食の魅力に多くの人々が気づき始めているのは何とも皮肉なことだ。『多様な食材を食べること』。それは健康食を考えるうえで、大切なキーワードになりそうだ。

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル 放送
    食の起源 第1集「ご飯」 ~健康長寿の敵か?味方か?~