日本人はご飯を食べても太りにくい!アミラーゼ遺伝子のメリットとは

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食の起源(NHKスペシャル)食で健康づくり

低糖質ダイエットブームの中、糖質たっぷりのご飯は太りやすいからと、極端に減らしたり、抜いたりする人が増えている。しかし、実は、日本人はご飯を食べても太りにくい体質の人が多いことががわかってきた。一体どういうことか、最新の研究をご紹介するとともに、自分の体質が簡単にわかる方法をご紹介する。

日本人はご飯を食べても太りにくい!?

『ご飯を食べても太りにくい』その鍵を握るのは『アミラーゼ遺伝子』という遺伝子。アミラーゼ遺伝子は、唾液に含まれる酵素、アミラーゼを作る。アミラーゼはでんぷんを糖に分解する酵素で、ご飯を食べた時、口の中でしばらく噛んでいると、かすかに甘みを感じるのは、アミラーゼの働きだ。ちなみにでんぷんは、ご飯やパン、パスタやイモなどの主成分。体内で、最終的にブドウ糖に分解され、体を支えるエネルギーとなる。その一方、でんぷんを食べ過ぎると、エネルギーが過剰になり、脂肪として蓄えられるため肥満につながる。このため、でんぷんや砂糖などの糖質は、肥満の元と嫌われ、それを避ける低糖質ダイエットが最近、大きなブームになっているわけだ。

アメリカ、ダートマス大学のナサニエル・ドミニー博士は、世界の様々な民族のアミラーゼ遺伝子の数を調べた。その結果、でんぷんをあまり食べない民族のアミラーゼ遺伝子は平均4~5個。これに対し、日本人などでんぷんを多く食べる民族のアミラーゼ遺伝子は平均7個であることを発見した。

アミラーゼ遺伝子の数

現代の日本人では、ご飯離れが進んでいると言われるが、世界を見渡せば、日本人はまだまだでんぷんなどの糖質を多くとっている民族だ。さらに、つい半世紀前までは、日本人は1日3合、現在の3倍以上ものご飯を食べていた。でんぷんをたくさん食べる食生活を続けてきたため、日本人はでんぷんを糖へと分解するアミラーゼがより多く必要となり、アミラーゼ遺伝子が増加したと考えられる。

実は「アミラーゼ遺伝子が多いと太りにくい」という驚きの事実が明らかになっている。
ロンドンにあるキングスカレッジのマリオ・ファルチ博士は、アミラーゼ遺伝子が多い人と少ない人のBMIや体脂肪の量を調べた。その結果、アミラーゼ遺伝子が多い人は、有意にBMIが低く、また体脂肪の量も少ないことが分かった。そして、アミラーゼ遺伝子数が4個以下の人と、9個以上の人を比べると、4個以下の人の肥満リスクは8倍にも高まっていた。つまり、アミラーゼ遺伝子の数が平均的に多い日本人は、ご飯を食べても太りにくい人が多いのだ。

糖質摂取による太りやすさを決めるのは、肥満ホルモン!?

アメリカ・モネル化学感覚研究所のポール・ブレスリン博士は、アミラーゼ遺伝子の数と、インスリンというホルモンの関係に注目した。インスリンはすい臓から分泌される血糖値を下げるホルモン。例えば、でんぷんを食べると、それは体内でブドウ糖に分解され、血液中へ吸収、血糖値が上がる。すると、すい臓からインスリンが分泌され、インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉などの組織や臓器の細胞内へ取り込ませる。また、インスリンは脂肪の分解を阻害したり、脂肪の蓄積を促進する働きがあるため、「肥満ホルモン」とも呼ばれている。

ブレスリン博士は、アミラーゼ遺伝子の多い人と、少ない人それぞれに、同じ量のでんぷんを食べさせ、分泌されるインスリンの量を調べた。すると、アミラーゼ遺伝子の多い人は、少ない人よりも、インスリンの分泌量が20%少ないことが分かった。つまり、アミラーゼ遺伝子の多い人は、でんぷんを食べた時、肥満ホルモンであるインスリンの分泌量が少ないために、肥満になりにくいことが明らかとなったのだ。

インスリンの分泌量

では、なぜインスリンの分泌が少なくて済むのか?そのメカニズムは、まだ完全には解明されていないが、鍵を握るのは、でんぷんがアミラーゼによって糖に分解されることで感じる甘みだ。アミラーゼ遺伝子が多い人は、唾液中のアミラーゼ酵素が多いので、でんぷんを食べた時、それが口内で素早く分解され、甘みを感じやすい。甘みを感じた脳は、すい臓に「これから体内に糖が入ってくること」を伝え、すい臓はいち早くインスリンの分泌を始める。その後、血液中に吸収された糖は、すでに血液中で待ち構えているインスリンによって、次々と細胞内に取り込まれる。

その結果、血糖値は素早く下がる。一方、アミラーゼ遺伝子が少ない人は、でんぷんを食べた時、甘みを感じにくいため、脳からすい臓への指令が出ない。血糖値が上昇してから、やっとインスリンが分泌される。実はここで問題が起こる。血糖値が上がってしまっている状態では、すい臓はできるだけ早急に血糖値を下げようと、必要以上にたくさんのインスリンを分泌してしまう。先述した通り、インスリンは肥満を進めるホルモン。この過剰なインスリンが肥満を進めるのだ。つまり、日本人をはじめアミラーゼ遺伝子の多い人は、少ない量のインスリンで効率良くでんぷんを体内に取り込むことができるため、太りにくいのだ。

「あなたはご飯で太りやすい?太りにくい?」簡単チェック法

日本人の平均的なアミラーゼ遺伝子の数は確かに多く、太りにくい人が多いといえるが、もちろん個人差がある。となると、「自分はアミラーゼ遺伝子が多いのか?少ないのか?」、「ご飯などでんぷんを食べて太りにくいのか?太りやすいのか?」知りたくなるのが人情だ。実はそれを簡易的に調べられる方法があるので紹介する。
「クラッカーテスト」呼ばれるテストで、とても簡単だ。ぜひ試してみて欲しい。

▽準備するもの
無塩のクラッカー半分 ストップウオッチ

▽やり方
1:クラッカーを口に入れ、噛み続ける。飲み込んでしまわないように注意。
2:ストップウオッチで、クラッカーを口に入れてから甘みを感じるまでの時間を測定

▽注意点
・口の中が唾液で潤っている状態でテストを行う
・でんぷんが唾液中のアミラーゼによって分解されてできる糖は、麦芽糖といい、砂糖のような強い甘みはない。かすかにでも甘みを感じるまでの時間を測定する。

▽評価
・30秒以内に甘みを感じた人はアミラーゼ遺伝子が比較的多く、30秒以上かかった人はアミラーゼ遺伝子が少ないと考えられる。

外国人VS日本人 クラッカーテストの結果
外国人VS日本人 クラッカーテストの結果  甘みを感じた人から札を上げる実験

クラッカーテストの結果はどうだっただろうか?実はクラッカーテストでアミラーゼ遺伝子が少ないという結果が出た人も
『私はご飯を食べない方がいいんだ!』
と悲観する必要はない。とっておきの方法がある。

それは「よく噛む」こと。噛む回数を増やせば、唾液がたくさん出るため、アミラーゼも多くなる。ご飯やパンを良く噛んで、でんぷんが分解された糖のほのかな甘みを楽しみながら食事することを心がけてみて欲しい。大切な日本人の主食、ご飯。効率良くエネルギーになる分、食べ過ぎれば肥満を招くのも事実だが、自分の体質を知り、賢く付き合うことも大切だ。

この記事は以下の番組から作成しています

  • NHKスペシャル 放送
    食の起源 第1集「ご飯」 ~健康長寿の敵か?味方か?~